第17話『魔女競技の会場』
教師バニスが、チケットを3枚とって戻ってきた。
というのも、デビュー戦の会場というのがこの魔法学校のすぐ隣、厳密に言えばそこも敷地内なのらしいけれどそれを知るものは少ない。
毎年、花下の月になると大きな会場に魔女競技へと参戦する魔女たちとそれを見届ける観客が集うのだ。
「ヴァルテリナ選手の席はさすがに、前日には完売だってよ、さすがだな」
会場と、選手たちがゲームをする競技場は別々の場所にある。会場には大きな
座る位置によって、それぞれの選手がフォーカスされた映像が目に映る仕組みになっているのだ。
席は12色に配色されていて、メアリーたちが座ったのは黄色の席軍。
「なんだか、女の人の声が聞こえない……?」
「ああ、実況じゃな、次あたりに吾輩たちの席の選手紹介がくるはずじゃ」
アリスタの言葉を聞き、メアリーは会場に響く実況をする女性の声に耳を傾けた。
大きな晶盤の映像が切り替わり、別の選手が映されたとともに実況は次の選手を紹介し始めたようだ。
『6番、フェリカ・オウル選手。過去にジュニア杯で高戦績を収めた選手です…!実力は十分と言った所でしょうか!』
『雷魔法を得意とする選手ですね、雷魔法は範囲の広い攻撃型の魔法が多い印象ですが、どのような戦い方を見せてくれるのか、楽しみです』
俯瞰視点で映像に映されているのは、体を軽くほぐすフェリカ選手。
カジュアルな上着を羽織って短パンを履いている、明るい黄色の髪にキラキラと輝く星のような瞳の少女だった。
「ほらの」
「雷魔法……雨が降ってなくても雷を落としたりするのかしら、それとも電気を発生させるような魔法……?いやもしかしたら…」
「まあ、楽しんでるようで何よりじゃの」
ぶつぶつと呟いて考え込むメアリーを生暖かい目で見守るアリスタだったが、今は話しかけない方が良さそうだと判断して静かに晶盤のほうを見上げる。
そして、選手の紹介に耳を傾けるのだった。
「そういえば、選手たちはどこで戦ってるんですか?」
「ん?ここから数キロ離れた、結界が張られてる競技場があってだな、少し値段は高いが直で競技場を観戦もできるぞ」
(安い方を教材に使ったのう……)などと、アリスタは隣で聞いて邪推をするがメアリーの疑問は尽きずバニスに質問攻めを始める。
「その、結果いって、外に魔法の被害を出さないようにするような、防壁のようなものなんですか?」
「それもあるが、重要なのは結界内で起きたことを帳消しにする効能だ」
想定していたよりもとんでもない結界の効果に、メアリーは珍しく好奇心よりも純粋な驚愕が勝ってしまい目を白黒させる。
「帳消し……?」
「ああ、だから選手たちは、心置き無く命を奪いあえるって訳だ。本気の戦い、命ではなく優勝を掛けて殺し合う、だから人はそれに惹かれるんだろうな」
「そ、それって大丈夫なんですか……?」
思っていたよりも物騒な言葉が投げられ、メアリーは好奇心や驚愕を過ぎてむしろ選手たちを心配してしまっている。
しかしそれにも、バニスはあっけらかんと答えた。
「大丈夫だろ、殺された時の苦痛も忘れて結界の外の魔法陣に転送されるらしいぞ、俺は魔女じゃないから体験したことはないけどな」
「子供も好きって言ってませんでした?大丈夫なの…?こう、血とか…」
普段から森で命のやり取りを見ている身として、あまり子供たちに見せていいものとは思えず心配してしまうメアリー。
それに、バニスは理解を示すように頷く。
「そこもたしかに重要だな、血じゃなく灰が流れるんだ、腕が切られたら、切られた部位は灰になって散る」
手で腕を斬るジェスチャーをしながら、バニスは教師らしく説明をする。
メアリーは頷きながら、また何かを考えるように俯いた。そんな様子を納得していないのかと受け取ったバニスは言葉を付け加えた。
「それに、血だのなんだので騒ぐほど子供はヤワじゃねぇよ、未だに魔物やら、魔王復活で二時戦争やら物騒な話は止まねぇんだから……」
そんな言葉尻をかき消すように、晶盤に最後に紹介される選手が映し出され観客の歓声が上がった。
『そして、もっともその青い席に観客を集めた、今回、最も注目されているこの選手!魔女競技王者の愛娘…!』
観客皆が注目する大きな晶盤に映し出された選手は、夏空のように明るい青い髪、ずっと奥深くの深海のように暗い青色の瞳をしている女の子。
『1番、アイアミ・ヴァルテリナ選手です!』
『過去、大会に参加した経歴のないアイアミ選手、どのような魔法を使うかも全くの未知数です、果たして観客の期待に応えられるのでしょうか』
ずっと、どこかで引っかかっていた既知感の正体がわかったような気がしてメアリーは呼吸を忘れるほどに驚いて、晶盤に映る選手を見つめる。
そして、頭を整理するように何かを口に出そうとして、ようやく言葉にできたのは友達の名前。
「アイアミ……?」
「ほう、思っていたより若いの。吾輩の方が成熟しておると思わぬか?メアリー」
「そ、それは、年齢的にも…?」
そんなやりとりをする2人も視界に入らないほど、画面に映るマイアミ選手を見つめてバニスは誰に聞かせる訳でもない言葉をぽつりと呟いた。
「母親に似てるな」
「そりゃそうであろう、娘なのだろう?」
「ああ、そうじゃなくて、雰囲気というか……」
説明し難い感覚をどう言葉に表したものか悩み、言葉につまるバニスをこれ以上は責めまいとアリスタは軽く適当に頷いた。
そしてそんな煮え切らない雰囲気を払拭にするように、しばらく静かだった実況が再び話し始める。
『各選手、位置に着きました。まもなく、試合の大鐘が鳴らされます』
その言葉を聞いて、バニスもアリスタも晶盤の方を見上げる。晶盤には深呼吸をしている6番の選手が、大きく映し出されている。
鼓動を高鳴らせるメアリーも、ふたりに習い顔を上へと向けた。
古き魔女と無窮の大国 猫又 黒白 @Dasoku1231
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