第26話◆地理――ユーラティア西方諸国

「じゃあ、ユーラティアの西側にある細かいの国の話をするから、地図に注目ぅー。グランもちゃんと起きて地図を指示棒で指してね」


「おう、今は起きてるぞお。はーい、注目ぅー! この横長大陸の西側が俺達のいるユーラティア王国って話はさっきしたよな。で、ここが今いる王都、だいたい西の方だな。ここから更に西――正確には大陸の南西の端っこだな、そこが南に向けてぐるんとかぎ爪みたいに曲がっているだろ? このかぎ爪部分には小国が固まっていて、ユーラティア視点では西方諸国と呼ばれている。

 うん、かぎ爪状に曲がっている地形だから内側の海が湾になっているな。そ、王都から西に行くとここの湾に面した港町だな。乗合馬車で一日くらいだから、気が向いたら行ってみるといいぞぉ、美味しい海産物がいっぱいだ」


「そうだね、あの辺りは気候も穏やかだし景色も良くて過ごしやすい場所だから、機会があると一度行ってみるといいね。海の仕事もたくさんあって面白いよ。

 おっと、話がそれちゃったね。ここのかぎ爪みたいな形をした部分、ユーラティア王国から見ると小さいでしょ? この小さいところに五つも国があるんだ」


「ユーラティアの大貴族様の領地よりもちっこい国だから、一日で複数の国を通過することもできるぞぉ、そのぶん検問も多くなるから面倒くさいけどなー。ついでに五つも国が固まってると覚えるのも面倒くさいぞー」


「面倒くさいけど、西方諸国の情勢と力関係はちゃんと覚えておかないと、そっちの方に行った時にもっと面倒くさいことになるかもしれないからね、西の国行く前にちゃんと勉強しておくんだよ」


「まぁ、最低でも自分の出身国と仲の悪い国だけは覚えておいた方がいいな。その時の情勢によって国と国との関係は変わるけど、自分の出身国や本拠地としている冒険者ギルドのある国と絶対として仲の悪い国は覚えておこうな。

 ユーラティアの場合はココ、かぎ爪の先端半島部分――アンブルム半島ともいわれているここが、ユーラティアと仲の悪い国ハーケンだ。この国はユーラティア出身者やユーラティアの冒険者に対してすごく厳しくて、入国税も高いから気を付けろ。海に囲まれた国だから海産物は豊富で夢のある国なんだけどなー」


「ハーケンとユーラティアは海を挟んで向かい側ではあるけど、ちょうどユーラティアとハーケンの間の海峡にクラーケンの大規模巣窟があるから海を渡っての戦いは難しくて、陸路も間に別の国が複数あるから、仲は悪くてもすぐに戦争にはならないんだ。ふふふふ、ユーラティアが西の小さな国々をそのままにしている理由がなんとなくわかるでしょう? そ、間の国はユーラティアとハーケンの間で日和見をしてるからその時の情勢で、ユーラティアとの関係が変わるから、そっちの方に行く時はちゃんと調べてから行くんだよ」


「まぁ情勢は多少の変化はあるけど、かぎ爪の付け根の部分――ユーラティアと隣接している国がドゥヴァン、そしてその南隣がベシャイデン、この二国は比較的良好な関係だから、そこまでは安心していけるぞ。

 ドゥヴァンはユーラティアと言葉も文化も大差がなくて、入国もゆるゆるで王都からも遠くないから結構気楽に行けるな。ベシャイデンは魔道具の技術が発展している国で、冒険者ギルドのシステムもユーラティアより便利なものがたくさんあるんだ。

 ドゥヴァンはそんなに大きくない国だから、その気になればユーラティア国境からベシャイデンまではその日のうちに行ける距離なんだ」


「ドゥヴァンは西方諸国の中でも小さい国で武力も生産力も低くて、国の維持に足りないもののほとんどをユーラティアに頼っているんだ。表面上はただの友好国だけど、過去に何度もドゥヴァンの王女がユーラティアの王族に嫁入りをしているし、実質ユーラティアの属国だね。

 で、その南のベシャイデン。ここは西方諸国の中でも領土の大きい国で国力もある。ちょうどかぎ爪のど真ん中辺りに位置していて、ドゥヴァン以外の西方諸国から陸路でユーラティアに来ようと思うと必ずベシャイデンを通らなければいけないんだ。それがベシャイデンが西方諸国の中で力を持っている理由の一つ。

 もう一つの理由が、この国は魔道具の技術が非常に進んでるんだ。悔しいけどその技術はユーラティア以上で、ユーラティアもベシャイデンからたくさんの魔道具を輸入してるんだ」


「ベシャイデンの魔道具はすっげーぞ! 最近ユーラティアの冒険者ギルドにもベシャイデン製の魔道具は配備されるようになったって聞いたから、これからどんどん便利になりそうだな! つい先日もダンジョン講習で現地の様子を、遠くの様子を映し出せる魔道具を使って王都のギルド長会議で映す実験をしたんだ。すげーな! そのうち冒険者の活躍が一般家庭のお茶の間で見ることができる時代がくるかもな! え? お茶の間って何かって? ああ、お茶を飲むとこ? ティールーム? つまりリビング! そうリビングだよ!!」


「最近色々あってユーラティアとベシャイデンの友好条約が大きく見直されて、両国はすっごく親密な仲になったんだ。そのおかげで、ずっとベシャイデン側が輸出を制限していた魔道具も多く入って来るようになって、ついでにユーラティアとベシャイデンで魔法や魔道具の技術交流も増えることになったんだ。これから魔法も魔道具もどんどん進化していきそうだね。

 ふふふ、ベシャイデンは地形に恵まれてるし、魔道具産業も発展している裕福な国だけど、国が栄えて国民が増えるとあの大きさの国土じゃ食糧問題も出てくるからね。ユーラティアは大きな国だから、食料を他国に輸出するくらいの生産力があるからね」


「まぁ、俺は政治の難しいことはわからないけど、仲良きことは美しきかな。ん? なんで西に小さい国がたくさんあるのかって? え……えーと、なんで?」


「あそこらへんは元々ユーラティアの領土だったけど、民族、種族問題や宗教問題でごたごたの多い地域だったんだ。とくにハーケン辺りはユーラティアからの独立運動も激しくて、先に述べた理由で直線距離は近くてもすぐには行けない場所で、ユーラティア中心部からの影響力もあまりない地域だったのもあって百年以上前に独立したんだ。

 その周辺も元々はユーラティアの貴族だったけど、ハーケンとの関係とかもあって独立したり、功績を認められた貴族がユーラティア王家の後ろ盾で独立した国になったりで、今の小国群になったんだよ」


「へー、さすがアベルよく知ってるなー」


「これくらい冒険者ギルドの図書室にある歴史の本を読めば載ってることだよ。ん? 王都から近い西より、王都から遠い東の方はなんで独立した国ができなかったのかって?

 いい質問だね。それはシランドルって大国があるから――大国と大国に挟まれた小国は悲惨でしょ? 東のオルタ辺境伯領はあまり耕作に向いた地域じゃないから、独立するだけの武力があっても国を維持するだけの生産力がないんだ。

 あの辺で独立してもやっていけるくらいの貴族といったらプルミリエ侯爵くらいじゃないのかな? でもあそこは家門は建国から忠臣でずっと王家派で、過去には王家から嫁入りした姫もいるんだ。

 でもね、ユーラティアが国として纏まっているのは、ユーラティア王国ができる前にこの大陸にあったズィムリア魔法国の基盤があるからだと俺は思うんだ。歴史上で最も栄えた魔法の国。何故消えてしまったのかは記録に残っていないんだ。約千年前を境にその名前が消えてユーラティア王国になっているんだ。

 ユーラティア王国の建国記は有名だよね。嘘か本当か、竜の力を授かった人間が王となった国、それがユーラティア王国。ね、ユーラティアの紋章には竜が描かれてるでしょ? ってグラン!? また寝てる!! 立ったまま寝てる!! 講師なんだから真面目にやって!!」


「ふぇ? あ、次? 次は南の海の向こうにある魔族の国の話? それとも国内の話?」


「もう! 助手ならちゃんと起きてて!!」






【ユーラティア西方諸国】


・大陸の西の端から南へ向けて伸びるかぎ爪状の地方に小さな国が五つ存在しており、ユーラティア視点では西方諸国と呼ばれている。

 元はユーラティアの貴族だったが、民族、種族、宗教問題などで独立して国となった。

 

・ドゥヴァン

 ユーラティアと隣接する小国。

 国土は大きくなく、これといった主要産業もなく、実質ユーラティアの属国。

 過去に功績により、ユーラティア王家の後ろ盾で独立した国。


・ベシャイデン

 かぎ爪地方のほぼ中央に位置し、魔道具産業が発展した国。

 それに加え、ドゥヴァン以外の西方諸国はユーラティアに向かう際、ベシャイデン領土を通過しなければならないという地形のため、西方諸国の中で最も栄えている。

 最近、ユーラティアと強固な友好関係になったらしい。


・ハーケン

 敵対国ではあるがユーラティアとハーケンの間の海峡にはクラーケンの大規模巣窟があり、海を渡っての接触は困難。

 陸路も間に複数の国があるため、敵対国ではあるがすぐに戦争になるような状態ではない。


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転生したら器用貧乏な勇者だったので世界観をゆっくり解説してみた えりまし圭多 @youguy

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