第43話 間接キス?
「うまい……甘くてとろっとして」
もちまるが、ため息のように小さな声で言った。そして、
「もう一口飲んでもええ?」
一口飲んで、僕に返そうとした紙コップを、じっと見つめて言う。
「かまへんかまへん。しっかり飲んであったまり。味、気に入った?」
「うん。気に入った。ありがとう」
嬉しそうに、抱えた紙コップを、もちまるはふうふうしながら口に運ぶ。
「温かいもんて、なんか嬉しくて、幸せな気持ちになるね」
里見がもちまるの様子に目を細めながら言う。
「そやな。たしかに」
僕もうなずく。
宙には、たくさんの星の輝きがあり、空気は心地よく冷えて澄んでいる。そして、僕らの手の中には、温かい湯気の立つ飲み物がある。
なんだかホカホカとした気持ちになる。
そのとき、吉野先輩の声が聞こえた。
「間違えて、お汁粉余分に作ってしもてんけど、いる人~?」
「お」
里見が手を挙げる。彼のコップは空だ。
「は~い。ほしいです~。ちょっといってくる。もっちぃにお汁粉も飲ませたげよな」
後半は、小さい声で僕ともちまるに向けて彼は言った。
他に手を挙げた3人とのジャンケン勝負を勝ち抜き、戦利品(お汁粉)を持って里見が戻ってきた。
「ほい。こっちも試してみ」
嬉しそうに紙コップを僕のほう(もちまる)に差し出す。
「あ。ありがとう!」
もちまるが嬉しそうに受け取る。
「温かいうちにどうぞ」
「うん。ありがと」
さっそく、もちまるが紙コップを口に持って行く。
「うあ。これもうまい。甘い。おいしい」
「そうか。よかったよかった」
里見は満足そうだ。
もちまるの丸いほっぺたが、むくむくと動く。口角が上がって、見ているこちらも自然と同じ口元になる。
「ありがと」
もちまるが、紙コップを返そうとすると、
「もうええか? 全部飲んでもええねんで」
「うん。いっぱい飲んだ。先に飲ませてもらってありがとう」
「そうか。じゃ、オレつづきもらうわな。あ、そしたら、もっちぃと間接キスか? おおっと……あ、伏見も味見する?」
ちょっと韻を踏むように笑いながら僕に言う。
「いや。間接キスはパス。……でも、ありがとな。もちまるのために」
「ええのええの」
ゴキゲンな里見は、お汁粉を飲みながら、もっちぃと間接キス~♪と歌って、もちまるに
「その歌やめ~」と怒られている。
夜が更けると、次第に空の雲が晴れてきて、星の輝きはいっそう冴えてきた。暗いところに目が慣れたせいもある。
里見と並んで地面に座り、空を見上げながら、(寒いけど、温かいな)と思う。
寒さも温かさも、気温だけで感じるものじゃない。そんなことを考える。
秋の空気は、しんしんと冷たさを増してくる。
それでも、僕の胸の辺りはほんのり温かい。
こういうのって、なんかいいな。
つぶやくように吐き出した息が、白くゆらめいた。
風と星がささやけば(瞬きの終わる前に SEASON 0) 原田楓香 @harada_f
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