第4話 ぼっち ざ あたっく!

 そのあとはもう……大変でした(主にわたくしの心の中が)。



 彼女がどんなひとなのか気になって。


 彼女がどうして絵を描くのか知りたくて。


 彼女にわたくしと一緒に作品を創って欲しくて。


 できればわたくしと……その…………お友達になってほしくて。


 ただですね……彼女とお近づきになろうにも、問題がありましてですね…………。ええ、異世界ファンタジーや転生ものなどの作品をたしなまれていられるお方ならすでにお気づきでしょうが、ここはあえてご説明させていただきましょう。



 この国は貴族社会です。階級社会です。身分差は絶対です。


 現代でも学校や会社で、先生と生徒、上司と部下、先輩後輩といった上下関係があるかと思いますが、あれの超強化版とでもいいましょうか。日本人の方には時代劇とかでよく見る、お殿様にみんなが頭を下げて「ははぁーっ」ってしている感じ、といった方がイメージしやすいでしょうかね? まあ、あんな感じです。身分が上の者はお殿様で、身分が下の者は下々の者、みたいな感じです。


 つまり、下々の者であるわたくしが「ユー、わたくしとお友達になっちゃいなよ♪(言い方)」と、お殿様のルーナさんに馴れ馴れしく話しかけようものなら、即行お付きの人に取り押さえられてどこかに連れて行かれたとしても、文句は言えないのが貴族社会です。最悪、速攻護衛の人に切り捨てられてこの世から旅立つことになったとしても、文句は言えないのが貴族社会です。……流石さすがにおかしない?(真顔)

 ですので乙女ゲームの主人公ヒロインのように、攻略対象とはいえ上位貴族に馴れ馴れしく接主人公ムーブしようものなら即行クビが飛ぶ(物理)可能性もありますので、皆様も異世界転生をした際はその辺り社会の常識とか、くれぐれもご注意くださいね?(何の忠告)


 あ、ちなみにわたくしの実家であるスペンサー家の爵位は伯爵、中位貴族となります。で、彼女のご実家であるドローウィン家は辺境伯、上位貴族となります。その辺りのことは姉から聞きました(数少ない情報源)。ついでに「……くれぐれも失礼のないように」と念も押されました。追加で「……絶対に、失礼のないように」とさらに念を押されました(大事なことなので二回言われました)。


 ……というわけでして、話しかけるのすらままならないうえに、彼女と仲良くなろうにも、彼女の性格や好みもわかりませんでした。その辺りのことは流石に姉もよくは知らないようでしてね。ええ……まったく、使えない情報源で────あれ、おかしいですね、何やら寒気が……。……よくわかりませんがとりあえず謝ります! すいませんでした!(土下座)


 ……気を取り直しまして(何事もなかったかのようにすっく、と立ち上がる)。



 ええ、デジタル全盛の現代でしたら好きな絵師さんを発見したら、とりあえずSNSをやられているかチェックして例えばT○itterをやられていたらツ○ートを全部遡ったりリ○イートを全部遡ったりいいねを全部遡ったりしてたりしてその方の趣味嗜好をチェックしたりできますしもしコ○ケようなイベントに参加されていたら当然始発で参加して一人何限かな? 新刊セットとかグッズとか売り切れる前に買えるかな? もしかしてご本人様いらっしゃるかな? 最低限SNSはチェックしてファンレターと差し入れ持ってきたけどご迷惑じゃないかな? 失礼じゃないかな? 受け取っていただけるかな? とかドキドキしながらサークルの列に並んで運が良ければ絵師さんご本人様にお会いできたりちょっとした会話ができたりする場合もありますけど(オタク特有の超早口)、異世界にネット環境とか○ミケとかありませんからねぇ……。ほんと、アナログ全盛のこの貴族社会ときたら(言い方)。彼女とお知り合いになろうにも、情報もなければ話しかける機会もないのですよね。


“ええ……(ドン引き)” “確かにコミ○とかサイン会とかでご本人様に会うのって緊張しますよね(自分はそこまでストーカー気質じゃないなあ……と思いつつ)” “わかる(そこまではちょっと……と思いつつ)”


 ……え、なんですかその、重い……だとか、そこまではちょっと…………みたいな空気は。なんでそんな皆様ドン引いてるんですか。普通じゃないですか。なんですかその、ああ……空気は読めるのにてんてんてん、みたいな含みを持った視線は。普通じゃないですか(真顔)。なんですかその残念な子を見るような目は。普通じゃないですか(超真顔)。わたくしたち「ズッ友だよ♪」って言ったじゃないですか(言ってない)。


 …………(腑に落ちない表情)。……まあいいです(切り換えた)。



 とまあ、そんなわけでして、貴族社会って身分とか礼儀作法とか、何かと窮屈きゅうくつなんですよね。


 それとですね、それだけでも大変なのに、他にも重大な問題があったのです。その重大な問題というのはですね…………実は……皆様には隠していたのですが……わたくし……なんと…………なんと────────陰キャなのです!(隠し切れてない)


 ナンデヤ!(机バァン!)


 いやだってですよ⁉ わたくし転生者なのにすんごい魔法が使えるみたいなチートとかないんですよ⁉ だったらせめてなんかこう……人柄とかコミュりょくとか、そういう人間関係に使えるようなチートなりコミュ強な性格に生まれ変わっててもいいじゃないですか⁉(その思考が既に陰キャ) チートがない陰キャってなんですか⁉ それただの陰キャじゃないですか⁉(机バァン!)


 そりゃあね⁉ 前世がオタクで陰キャな日本人だったかもしれませんけどね⁉ オタクも陰キャも嫌いじゃないですけどね⁉ だからって転生してまで陰キャになりたかったわけじゃないですからね⁉ 自慢じゃないですけどわたくし、身内以外とろくに話したことないですからね⁉ あっこの言い方だとなんか箱入りお嬢様っぽい……なんか異性に好かれて同性に嫌われそう……男と結婚したくないけど友達くらいは欲しい…………違います! わたくし陰キャです! ただの作家志望のオタクです! ごくごく普通のぼっちです! だから嫌わないでください! 仲良くしてください! …………あれ、何の話でしたっけ……?


 ……あっそうそう、わたくしが陰キャってお話でしたね。……自分で言ってて悲しい…………。


 ……そうなのです。彼女とお話する機会があったとしてもわたくし、上手くお喋りできる自信がないのです。陰キャだからね、仕方ないね(自己弁護)。


 ですので彼女の性格や好みを知って少しでも会話のデッキを増やしたかったのですが、何も情報がないので自分の話術で何とかするしかないというこの絶望的状況。というかそれ以前にですね、そもそもあんな黒髪美少女に話しかけるとか、そんな勇気もなければ度胸もありません!(謎のドヤ顔) 陰キャだからね! 仕方ないね!(大事なことなので二回言いました)



 ……あれ? ……もしかしてこれ詰んでない?(真顔)



 ああもうほんと、普段はリア充爆発しろとか思っておりますが(周りの目があるので一応、口には出してない)、あのメンタルの強さとコミュ力は切実にうらやましい……。なんであの人たち、気になる子とふつーにお近づきになれるんです? なんでリア充って、誰とでも仲良くなれるんです? ……なんでわたくしって、陰キャなんです?(哲学)


 一応貴族社会の常識として、特定の誰かとお近づきになりたい場合、共通の知人に仲介していただくのが一般的だというのは識っておりますが、何を隠そうわたくし、ぼっちですからね(隠せてない)。

 ……だってしょうがないじゃないですか、実はわたくし諸事情で二年生になってから学園に通い始めたんですから! だから友達がいないのは当たり前なんです! ぼっちなのは当然なんです! だからわたくしは悪くない!(責任転嫁&逆ギレ)


 ……はあ、どこかにコミュ力とか落ちてないですかね(現実逃避)。


 とまあ、そんなふうに益体やくたいもないことを考えながら、どうやって彼女にアタックしようかと、寮への帰り道をトボトボと歩いていたその時────わたくしの前に、とある人物が現れたのです。


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はちみつとよるいろ 〜転生貴族令嬢は、黒髪少女と作家を目指す〜 明里 和樹 @akenosato

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