第3話 黒髪黒目の少女
「はい、なんです? ルーナ」
心配そうな声でわたくしを呼ぶ少女に、涙を流しながらているわたくしは、にっこりと笑顔を向けて答えます。
「え、えっと……、その、ヒロインを演じる、とは、言ってましたけど。ずっと…………泣いているので。だ、大丈夫ですか? 本当は、どこか痛いのですか……?」
「ああ、これ、完全に完璧に嘘泣きですから大丈夫ですよ」
「ふぇっ!?」
わたくしが明るくにぱっ、と笑顔で返すと、可愛らしい声を上げて固まるルーナさん。
ふーむ……もし漫画にするとしたら、大きなコマでどーん、と可愛く描くか、デフォルメ顔でコメディ調にちまっ、と描くか、迷うところですねぇ……(作家志望のオタクなみかん)。
驚いた顔も可愛いなあと思いつつ、彼女を安心させるように微笑み、今もポロポロと
この迷いのない動き……なるほど、これが本物の女子による、本当の女子力ですか(真顔)。創作の参考にさせていただきます。本当にありがとうございました。
「それよりルーナの方こそ何か浮かんだのでしたら、わたくしは平気ですから作業に戻っても大丈夫ですよ?」
そう、別にわたくしは本気で泣いていたわけではなく、今執筆している小説の挿絵を担当してくれている彼女の助けになればなー、と思い、山場のシーンを再現していただけなのです。
ええ、泣くのなんて簡単です。恋愛ゲームのハッピーエンドでは王道の、結婚式のイベントスチルでも思い浮かべれば一発です。ええ、ウエディングドレスを着た自分を想像するだけでごはん三杯分は余裕で泣けます。……幸せなシーンのはずなのに、きっと花嫁さんの瞳のハイライトは消えていていることでしょう(断言)。あ……また目の奥がじわじわしてきましたね…………(ガチ泣き)。
そんな余計なことを考えていることなど悟らせないよう「ありがとうございます」とお礼を言って微笑みながらハンカチを受け取ると、一瞬
彼女の名前はルピナス・ドローウィン。
この国では珍しい漆黒でサラサラな長いストレートの髪と、黒曜石のように綺麗な黒目を持つ、やや幼いながらも整った顔立ちの美少女です。同い年の子の平均よりは少し背が低く華奢ですが、手足はスラリとしていて全身のバランスが整っている印象です。つまりなんていいますかこう……可愛い(語彙力)。
しかもゆるふわピンク髪だの金髪ドリルだのが普通にいるこの国では大変貴重な黒髪ロング。しかも黒目。前世は日本人だったわたくしとしては非常に落ち着きます。そして好み。つまりなんていいますかこう……とてもかわいい(語彙力)。
そして
……ちなみにわたくしは蜂蜜色のふわふわの髪を頭の後ろで緩く縛って、ショートボブのような動きやすい感じの髪型に(といえば聞こえは良いですが、癖っ毛のうえ毛量が多くまとめるのが大変なので苦肉の策)、カーネリアンのようなオレンジ色の瞳を持つ、年齢よりは確実に幼い顔立ちの美少女です。……わたくしの性格? ご覧の有り様ですよ!(逆ギレ)
ついでにいうなら同い年の子の平均よりだいぶ低い身長と、華奢というよりは小柄で水泳に向いてそうななだらかな体型の、現代で例えるなら中学生なのに小学生によく間違われるような美幼女です。
……これ、生涯独身を目指す身としては大多数の男性の好みから外れてるのは大変喜ばしいのですけれど、確実に一部の方々に
そんな暖色系と寒色系、正反対とも言える色彩を持つわたくし達は。
ごく普通に(単に校門から校舎への並木道で見かけただけともいう)出会い。
ごく普通に(たまたま授業でペアを組んだだけともいう)話すようになり。
ごく普通に(偶然女子寮で相部屋だっただけともいう)一緒に暮らし始めましたとさ。めでたしめでたし。
……え、なんです? “ちょっと待って普通の要素なくない?” “偶然……? 妙だな” “偶然という名の運命なんですね、わかります” いえいえ普通ですよふつー。というかそうですね、これはもう運命ですね。
そう……出会い方こそ普通でしたが、これはもう正に“運命”と言っても過言ではないでしょう(すぐパクる)。
そう……あの日、彼女と出会ったあの特別な日。“……結局、普通なの特別なのどっちなの?” そういうツッコミは今は受け付けておりません(マイペース)。
…………ん、ん(気を取り直しまして)。
そう、あの日。彼女と出会ったあの運命の日(言い換えた)。人のまばらな美術の授業で、偶然目にした彼女の描いた絵を見た時の感動は、今も忘れられません。
その日は個々人の実力を見るためなのか親睦を図るためだったのか、最初の授業なのにペアを組んでお互いをスケッチする時間だったのです。
その時に知り合いのいないぼっちなわたくしは、偶々目が合った彼女とペアを組むことになり(そもそも美術の授業を受ける生徒が少ない)ました。その時に見た彼女の絵は────今でも忘れられません。衝撃でした……。前世のことはよくは覚えていませんが、自分は絵でも描いていたのか、今世でもそこそこ上手に描けていたわたくしは多少の自信があったのですが、そんなことは忘れるくらい、彼女の絵に惹き込まれました。
技術的な面でいえば、わたくしの方が上手かったかもしれません。ですが上手いとか下手とかは関係ない──不思議と人目を引く、魅力に満ち溢れた絵──彼女の絵が、正にそれでした。
特に目的もなくネットを巡回していたら偶然、飛び抜けて上手いわけではないけれど、何故か自分の好みどストライクなイラストに出会った時の気持ち、といえば伝わりますでしょうか。
キャンバスの白と鉛筆の黒、二色の色しか存在しないはずのシンプルな人物画に、わたくしの目も心も、しっかりと惹き付けられてしまいました。漫画などのモノクロのイラストに馴染みのある方なら理解していただけるかと思いますが、シンプルであるからこそ余計に……流水のように滑らかな線でのびのびと描かれたその絵の魅力が──その絵を描いた彼女の才能が、解ってしまったのです。きっと現代であればトップクラスのイラストレーター──神絵師になれる可能性を秘めていると。
不純で不敬で不誠実なのでしょうが、本人の内面ではなく『あの絵』に惹かれた瞬間────彼女はわたくしにとって唯一無二の『特別なひと』になりました。
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