ミステリーが多すぎる!


 ときは大探偵時代。航海じゃなく、探偵?
 そう、一億総探偵時代の到来した世界。そのなかで一際異彩を放つのは、脳の障害で人の顔貌を認識できない、ある一人の探偵。

 もうその設定だけで、作者のミステリーに対する情熱を感じます。この謎と探偵に満ち溢れた世界観に乾杯!

 物語はテンポよく進み、キャラ紹介をかねて事件発生。あらゆるミステリーのお約束を踏襲しつつ、あまりにもテンポよく進むものだから、どこがトリックでどこが謎解きだか分からなくなります。変なところで叙述トリックを疑ったりして、まさに謎と探偵に満ち溢れた理想郷がここにある。

 驚きとどんでん返し、探偵の仕掛ける罠、そして姿を現す真犯人。
 人の顔を認識できなければ、探偵なんて出来ないでしょ!という読者の想像を打ち砕いて、その能力が逆に犯人を追い詰める爽快感。
 普通に考えたら有り得ない展開も、大探偵時代という設定がすべてを許容してしまう。げに恐ろしきは、一億総探偵の世界観。
 たった7500文字の短篇につめ込まれた謎とトリックと推理の応酬。

 そこまでやっておいて、最後に真実の愛を描くとは。

 さらに、ぼくには最後まで解けなかった謎もあります。探偵は、女性なの?