顔が見えない探偵は、真相を見つめる
秋雨千尋
第1話 失くした指輪
世は大探偵時代。
警察組織が度重なる不祥事により地に落ちた代わりに、一億総探偵社会と相成った。
コンビニ強盗しようとしたら、後ろの客に見抜かれる。結婚詐欺をしようとしたら、親族探偵すぐバレる。
寄席でそんなネタをされる程に圧倒的ブームの真っ最中。その人気・経歴から総合ランキングを付けられて、ネットで誰でもすぐ見れる。
学生、医師、主婦などの中で異彩を放つ一人の探偵がいた。プロフィールはこうだ。
『※先天性の脳障害(
依頼人の顔を認識出来ませんが、どんなご相談でも精一杯務めさせて頂きます』
これは、顔を見ることが出来ない探偵が、殺人事件を解決する物語。
「
週刊誌の死亡記事に目を通していた
「いらっしゃいませ、かわいいお嬢様」
小学四年年といったところ。
リボンがあしらわれた、フランス人形のようなピンク色のドレス。
色とりどりのビーズを散りばめた鞄。ふわふわの髪が、頭の高い位置で左右に分かれてしばられている。
「かわいい? うそつき!」
「本当ですよ。華やかなお洋服を見事に着こなしています。リボンも髪の色に合っていて」
「ファッションだけ?」
「ハッキリと要件が言える元気さもいいですね、探偵事務所を訪ねる行動力も素敵です」
「変な探偵さん。まあいいか。
「それは凄い! ご依頼をお受けします。失くしたものと、最後に見た場所を教えてください」
メモを鞄にしまって現場に向かおうとしたその時、助手の
栗色の髪が歩くたびにサラサラ流れて、流行りの服を着こなして堂々としたウォーキング。照明が一段明るくなり、枯れた花が生き返るような美しさ。
少女は己が目を疑った。
(クラスのレイナちゃんより綺麗)
「
「分かりました。お仕事ですか?」
「消えた指輪を探してきます」
+++
依頼人が砂場で遊んでいる間に、ベンチに置いておいた指輪は忽然と姿を消した。
残された手がかりは黒い羽のみ。
「犯人はどのカラスか……」
公園にやってきた
ざわめきに耳を澄ます。
「まさかこんな場所で人殺しなんて」
「物騒よねぇ、またカマイタチの仕業かしら。これで五件目でしょう?」
探偵として聞き捨てならない事態だ。
霜降は灰色の丸い耳付きパーカーを着た男に声を掛ける。中のTシャツには「
アクセサリーをいくつも身につけたチャラチャラした男は現場を指差しながら答えた。
鋭利な刃物で全身をメッタ刺しにされた男性の遺体が見つかったらしい。
人垣をかき分け、現場の警察官に一礼して探偵手帳を提示する。
厳しい試験を突破した者にのみ与えられる、警察と同等の捜査権を持つ身分証明書。
「探偵の霜降です」
「子供が見るものじゃない。帰りなさい」
「ご安心を。成人です」
警察官はいぶかしげに見つめながら道を開く。霜降は小柄で童顔な上に化粧もしない。いや、障害により自分の顔も見られない為に出来ない。
だが盲目ではない。
警察官の手首、そして耳の一部にある不自然な赤い点を凝視する。
現場は見るも無残な血塗れ地帯。
凶器と思われるサバイバルナイフは遺体そばの白い紙に突き刺されている。
「カマイタチ」
被害者の血で書かれたそれは、カクカクと機械的な文字だ。
連続殺人鬼『鮮血のカマイタチ』。被害者をめった刺しにして、毎回現場に指紋を残していく。
昼間とはいえ現場は木陰。
合掌してから、小型ライトで体を照らしていく。
通常の神経をしている者なら、目を背けたくなる凄惨な光景だ。手首の損傷が特に激しい。
「この鎖骨の形……薬指に指輪……」
独り言を重ねた後、一歩引いて全体を見る。
一面血の海に見えるが、不自然にかすれている箇所がある。
「よし。見えない顔が、見えた!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます