30話 メイドさんまだ領都には帰れません
誘拐事件から数日、聞き取りも終わりいよいよ領都に帰れるかと思いきや…。
「ねぇティア、聞き取り調査も終わったしそろそろ領都に帰ってもいいんじゃない?」
本来はそうなんですがねぇ…。この事件についての詳細を旦那様に早馬で知らせに行ってもらっていて恐らく旦那様もこちらにすっ飛んで向かっている事でしょう…。そして近いうちに王城へ呼び出しの連絡が来るのでしばらくは帰れませんね…。
「え?そんな大事なの?」
はい。少なくともお嬢様は侯爵家の直系、その他にも伯爵家やヴィル様のような方を誘拐したとあっては国家としての一大事。それを解決したとあれば…。
「でも解決したのはティアとマックスだよね?どうして私やお爺様まで?」
それは私達が一使用人だからです。私たちの手柄は家の手柄であり私達が受ける訳にはいかないのです。なのであの時はお嬢様にも障壁を張っていただき「誘拐された者達を守った」という実績を作っておいたのです。
「じゃあドイルさんや紅竜姫の人達は?」
彼らは縛るもののない冒険者なので本人達への褒章でしょうね。ドイルの場合は国からの指名依頼の達成報酬も合わせてと言ったところでしょうか。
「うーん…なんか納得いかない!私やお爺様は何もしてないのに褒章を受けて一番活躍したティアやマックスやカーラが受けないなんて絶対おかしい!」
あぁ…なんとお優しい…こないだの伯爵家の坊ちゃんに爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいです…。それでも私達よりお嬢様や旦那様が褒章を受ける意味があるのです。
仮に私達が褒章を受けたとしてもそれは個人に一時的なお金が入る程度、それをお嬢様や旦那様が受けた場合はバルドフェルト家に連なるもの全ての名誉・名声となり私達使用人だけでなく研究所や商会、ひいては領民全員の利益にも繋がる事なのです。
「ぬぅぅぅぅ…。でもお城には着いてきてくれるんだよね?」
そうですね。私とカーラはお嬢様付ですしマックスは旦那様の護衛という枠になるでしょう。そんな話をしていると門番から来客がある旨の連絡が来ました。
応接室にお通ししてゼノさんとお嬢様で応対するようです。私とカーラも同室に控えます。
「先振れもなく失礼いたします。私は王城からの使いでグラン=バルトフェルト侯爵、マリン=バルトフェルト嬢他3名に書状を持って参りました。詳細は中に記してある通りですがかいつまんで申しますと先日の誘拐事件の褒章を与えるので登城せよとの事です。」
恐らく王城の執事…しかもかなり上のクラスの方ですね。ゼノさんと同じように白髪で
「はじめまして、私はマリン=バルドフェルトと申します。現在当主のグラン=バルドフェルトは大急ぎでこちらに向かっているとの連絡が領都から届いており数日中には到着する予定でおります。登城の旨は承知いたしました。」
おぉ…お嬢様…王城からの使者に対しても臆することなくちゃんと対応していらっしゃる…。どうにかこの光景を保存できないかしら…。それが可能であれば永久に保存しておかなければなりません。
「まだアカデミー入学前というのに丁寧な受け答えは流石ですね。それともう1通、こちらはついでといってはなんですが預かってきた物です。」
あれはアカデミーの学園長の蝋封ですね…。という事は…。
「マリン=バルドフェルト並びにバルドフェルト家侍従カーラ、この度のアカデミー入学試験を合格とする。また、マリン=バルドフェルトにおいては首席での合格、侍従カーラについても大変優秀な成績であり学費等一切を免除とする。」
「ありがとうございます!一つ質問させていただいてもよろしいですか?」
「はい、というより内容も予想がつきますので先に答えさせていただきます。平たく言えば総合でマリン嬢、一般枠の中ではカーラ嬢が首席合格、総合でも一桁台となります。お2人ともよく努力されましたね。私の記憶が確かならユーリ卿とそちらのティア嬢、ここにはいませんがマクスウェル君も大変優秀な成績であったと記憶しております。バルドフェルト候をはじめとしてそちらのゼノもさぞかし鼻が高い事でしょう。」
あら?ゼノさんとお知り合いでしょうか?
「なんだクレイン、我が家からこんなに成績優秀者が出て悔しいか?」
ゼノさんが珍しくいたずらっぽく笑っています。
「少しのやっかみくらい許してくれ、私も教育係として全力で臨んだのに負けてしまったのだ。ウォーレン殿下の時もティア嬢があの状況と立場を考えて譲ってくれたのであろう?」
あ、バレてましたか。流石に平民枠の私が総合で国の第一王子よりも良い成績を取るワケにもいきませんでしたしね。ただ殿下も大変優秀だったので紙一重といったところでしょうか。
「カーラ嬢についてもティア嬢が仕込んだのなら当然の結果であろう。ティア嬢とマクスウェル君には袖にされてしまったが今度こそ私達の手元にスカウトさせていただかねば。」
あらあら、もうカーラは目を付けられてしまったのね。
「えっと…私も卒業後はお嬢様の元に居たいと思っておりますので…ごめんなさい…?」
クレインさんが目を丸くしています。
「ハッハッハッハッ!入学前から袖にされてしまったな。私も今の環境には全く文句はないが正直ゼノが羨ましいよ。…ゴホン、少し砕けた話し方になってしまい大変失礼を致しました。登城の期日についてはバルドフェルト候が到着し準備が整ってからで結構ですので到着後に連絡をいただければと思います。それではこれにて失礼いたします。」
クレインさんを見送り屋敷の中に戻ってくるやいなや
「カーラ!すごいじゃない!」
お嬢様…ご自分の事よりカーラの事を喜んでくれていらっしゃる…。もう今日一日だけで何度成長を実感させられた事か…
「ありがとうございます!でも私なんかより全体でトップの成績とは流石お嬢様です!」
「だいぶ出来たとは思ったけどまさか首席とはね…。あれ?確か第3王子も受けたんだよね?私やらかした…?」
うるさい貴族連中は何かしら言うかもしれませんが旦那様は侯爵といえど立ち位置は公爵と変わらずただ王族ではないというだけの差でしかないので問題はありません。
むしろ心配なのはカーラの方ですが大丈夫でしょう。こういう事もあるので完全に手を抜かず次席に納まったのです。気概のある家なら気合いを入れ直して勉強に励み今後の力となるでしょうし、そうでない所は勝手に没落していきますので。
「そっか…てっきりやらかしちゃったのかと思ったよ…。」
「さて、今日は準備が間に合わないから合格祝いはまた明日にしましょうか、明日には旦那様も到着するでしょうしね。」
マーサさんがパンパンと手を叩いてその場を締めました。
「いくらお祖父様でもそんなに早く着かないでしょ…着かないよね…?」
お嬢様が苦笑いしながら仰っていますがマーサさんがそう言うのならおそらく到着するでしょうね…
メイドさんがんばります まっこさん @oimaco
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