後編
さて。スクランブル交差点にやってきましたが、横断歩道の向かいの歩道、そこに佐藤様がいますね。見えますか? その隣にいるのが浮気相手らしいですよ。
篠崎様、最後の確認です。本当によろしいのですね?
……分かりました、覚悟が決まっているならば、私は何も言いません。
おや?
背中に蚊が。あ、そのままで。私が叩き潰しますので。えいやっ!
はい、これで大丈夫です。では、張り切っていっちゃってください!!
——え?
やっぱり『運命の矢』を投げるのをお止めになりますか。
金目当てのダメ男こっちから願い下げ、でございますか。ええ、私もそう思います。貴女の決断を全力で支持いたしますよ。
おっと、篠崎様それはいけません!
腹が立ったからといって一発殴ってはダメです。
頭に血がのぼって暴力を振るうのだけは、貴女がバカを見るだけですよ。
こういう場合は「よくも騙してくれたわね。貢いだ金全部返しやがれ、サイテーヒモ男!」とびしっと言って差し上げるのがよいかと。今佐藤様の隣にいるあの女性への注意喚起の意味も込めて。
ご武運をお祈り致しております。
何かありましたらいつでもご相談を。私共はいつでも、幸せを追い求める皆様の味方でございます。
では、これで失礼致します。
——はあ、やれやれ。
……もしもし。私、キューピット結婚相談所のトワと申します。キューピット恋愛応援所様でお間違いないでしょうか?
お忙しいところ失礼いたします。お伺いしたいことがありまして。
佐藤幸也様のご依頼で、篠崎莉奈様に恋の矢を放ったのは……え?
本当は違う女性に向けて放ったけれど、手が滑って間違って篠崎様に矢が当たってしまった?
いやいや、気づいていたなら彼女から矢を抜き取っていただかないと!
私が篠崎様の背中に刺さった矢に気づいて取らなかったら、篠崎様はダメ男に騙され続けて危うく運命の人と近づく機会を逃すところでしたよ。今後は気をつけてくださいね。
矢はこちらでバッキバキに折らせていただきました。佐藤様への恋心は一切残っておりませんのでご安心を。恋の矢に当たった人は必ず、最初に目についた人に恋をしてしまうのですから。
……え、矢はそのままでいいと佐藤様に言われたのですか?
なるほど……。
もしかすると、佐藤様は別のキューピット恋愛相談所にも頼んで、あらゆる女性に恋の矢を放ちまくって金を騙しとっているかもしれません。
誰かの恋を応援したり、運命の相手と結婚したいと願う人々の背中を押したいと純粋に願う我々をも騙して。ええ、私の推測が本当ならば全く腹立たしいことです!
騙されている女性がまだまだいるはず。相手を不幸にするような恋愛だけは、絶対に避けなければなりません。早速上にかけ合って調査を開始いたします。
篠崎様ですか?
ご心配には及びません。今、幸せになる一歩を踏み出し、悪縁を断ち切る為に立ち向かい始めたところです。
—————
これはこれは、篠崎様。お久しぶりでございます。三年半ぶりですね。そしておめでとうございます!
篠崎様の言葉に逆ギレした佐藤様が殴りかかってきたのを止めに入った男性と結婚なさるとは!
運命というのは分からないものですね。
貴女が『運命の矢』を投げなくて本当に良かったです。『運命の矢』というのは力づくで相手の心を従わせる為、いつか綻びが生まれるもの。
夫婦仲がうまくいかず手を上げてしまったり、泥沼の離婚騒動に発展することもあります。幸せになったという話は聞きません。
今の結婚相手が篠崎様の運命の相手であることは、私は始めから分かっておりましたよ。
実はですね。神様がお決めになった運命の方というのは、1人につきなんと数千人もいるのです。
運命の分かれ道という言葉をご存知でしょう。貴女が選んだ道の先にも、選ばなかった道の先にも、相応の運命の相手がいるのです。もちろん、結婚はしないという道を選んだのならば相手は存在しませんが。それでも、その人自身が幸せだと思う人生を歩めるのなら、最善の選択であると言えます。
運命というものは自分で切り拓くもの。
私達天使は、幸せになりたいともがきながら生きる人々を不幸から遠ざける為におります。
貴女の幸せが永遠に続きますよう、天使一同お祈しております。
fin.
———
P.S.
佐藤様があの後どうなったかですか?
天使が一丸となって、佐藤様がキューピットを騙した事、女性達から言葉巧みに金を奪った事が事実である証拠をかき集め、きちんと上(天界と言えばいいでしょうか)に報告しておきました。
ですので、しかるべき天罰が下ると思います。その罰が下るのが生前か死後かは、神のみぞ知ることでございます——。
結婚請負天使 空草 うつを @u-hachi-e2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます