第五話 幸せな?未来



体が軽い。


全てが俺を祝福してくれている。


そう思える程、素晴らしい日だ。


「泉ちゃん、その分なら上手くいった?…ようだな…」


何故か有賀さんの言葉に含みを感じたが…気のせいだよな。


「はい!いやぁ、生きているって素晴らしいですね!」


「おう!」


何時もと同じ仕事が凄く楽しく思える一日だった。



◆◆◆


深夜になり俺は、そわそわし始めた。


この時間に優子さんの仕事は終わる。


どうしようか?


俺が迎えにいくべきかな…そう考えていると優子さんが俺を迎えにきた。


「泉くん…」


俺が有賀さんの方を見ると…


「ああっ、少し前だが上がって良いぞ!」


有賀さんの言葉に甘えて、早目に店を上がらせて貰った。


◆◆◆


前と同じように喫茶店で話した後、いきなり優子さんが真剣に話し出した。


「泉くん、別れよう…」


一体何を言われたのか解らなかった。


とっさに俺は…


「嫌だ…別れたくない」


そう答えると、自然と涙が溢れてきた。


「本当に純情なんだから…仕方ないわね!もう一度ホテルに行こうか? そこで私を見ても好きだって言えるなら、別れなくて良いよ!」


訳が解らず…半泣きしながら俺は優子さんに手を引かれラブホへと向かった。


部屋に入るなり優子さんはすぐに服を脱ぎだした。


「優子さん?」


「見たかったんでしょう? ほら見て良いよ…だけど、これを見たらきっと泉くんは私を嫌いになっちゃうよ」


そう言いながら優子さんは服を手早く脱ぎ、なにも纏わない姿になった。。


「あああっ…それ」


「落書きじゃないから…ね」


そう言う優子さんは震え、今にも泣きだしそうだ。


優子さんの背中には和彫りの幽霊の女が彫られていた。


しかも、その幽霊の女が1発10万円という明らかに売春を物語る札を持っていた。


これだけじゃない…洋彫りで髑髏や薔薇が彫られていて…極めつけは、胸に『人間便器』『ご自由に使い下さい』お腹の部分には『公衆便所女』お尻には『ヤリマン女誰とでも寝ます』そしてご丁寧に正の字が5つ彫られていた。


明らかに自分で好んで彫った物じゃない。


「…」


俺が黙っていると…


「これで解ったでしょう? 私は泉くんに愛される資格なんて無いんだよ…じゃぁね…嬉しかった…」


声は出ない…声は出ないが、どうにか手を掴む事は出来た。


「少し驚いた…だけど、理由を知りたいんだ…」


「そうだよね…理由位は聞きたいよね…解ったよ」


そう言いながら、優子さんは理由を話し始めた。


両親に恵まれなかった優子さんは16歳から家出をして生活をしていたそうだ。


そんな中、悪い仲間が出来…そのグループの頭と付き合い始めた。


この男が悪魔の様な男で、優子さんに体を売らせて、頭にくると暴力を振るっていたそうだ。


優子さんは何回も逃げ出したが、仲間の多いこの男にすぐに連れ戻された。


それでも、優子さんはその男に逆らい言う事を聞かなかった結果...


押さえつけられ犯され、この刺青を彫られたそうだ。


「…」


「これで解ったでしょう? 私は誰からも愛されるような体じゃないんだ…ごめんね…好きだと言われて嬉しかったから、ついあんな事して…最低の初体験にしちゃったね…ごめんなさい」


有賀さんは…いっていたな。


『この街で生活している女は皆訳ありだ!もし付き合うなら、それを含んで付き合ってやる事』だと



「それ…受け入れたら付き合ってくれるんでしょう? 好きになっちゃったから仕方ないな…俺は優子さんしか見えないから」


「本気で言っているの?泉くんが良くても家族が黙ってないよ?」


「俺は家族と、あまり仲が良くないし、滅多に合わない。このまま縁を切っても良い位だ」


親らしい事をしない癖に見栄っ張り…縁を切っても後悔は無い。


「後悔するよ?」


「しない」


「これだから純情な子は困るんだよね…まぁ約束だから仕方ないな!私これでも束縛が激しいし浮気とか許さないけど大丈夫?」


「大丈夫!浮気なんてしないよ! なんなら同棲でもする?」


「する! それじゃ今日から一緒に暮らそうか? それより…それ」


冴えないな…


「仕方ないじゃないか、優子さん裸なんだから…」


「うふふっ、そうだね…それじゃ一緒にお風呂に入って…しようか?」


「うん」


◆◆◆


他の人はどう言うか解らない。


だが、こんな恋愛や初体験があっても別に良いだろう?


俺は…幸せだ。


【完】




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【カクヨム短編2022 中間突破 無念最終選考落選】『そこら辺にある暗黒街』 第一章 誰からも愛されない女の恋。 石のやっさん @isinoyassan

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