第一話 ピヨピヨ薬局歌舞伎町店へ
「歌舞伎町店の深夜番に行くんだ!凄いね!泉くんは!」
安藤さんは怒っていなかった。
バイトに応募して面接をしてくれたのが、何を隠そう安藤さんだ。
※今と違い昭和の頃は店長にある程度権限があり、アルバイトの募集採用まで店長が全部行っていた。
「お金が無いから直ぐに働きたい」そう言った俺を次の日から働けるようにしてくれたのは安藤さんだ。
ちなみにピヨピヨ薬局では公式の場以外では店長でなく『さん』で呼ぶのが普通だった。
「すみません! どうしてもお金が必要だったんで」
「事情は知っているから気にしないで良いよ! 有賀さんは僕も知っているから、気にしないで良いよ!だけど、あそこは精神的にかなり辛いから、頑張るんだよ!」
「はい! ですが精神的に辛いんですか」
安藤さんは真剣な表情に変わった。
「あそこのお店は普通のお店とは違う! 僕は店長の中で優秀な方だけど、あそこの店長は務まらない。通称『有賀城』有賀さん以外は務まらないと言われている!」
「有賀城?!」
「そう有賀城…お店じゃ無く『有賀さんの城』大体の客層は樋口マネージャーから聞いただろう?あのお店は普通の薬局じゃない。まぁ行くまで解らないだろうけど、辛かったらすぐに退職届けを出すんだぞ!命を無くすよりはマシだからね」
「死ぬみたいじゃないですか? 冗談は止めて下さい!」
何故か安藤さんは俺から目を逸らした。
「冗談だよ…冗談(ボソッ)指が無くなったバイトは居たけどね」
「何か言いましたか?」
「いや何でもない」
安藤店長への挨拶も終わり。
俺は歌舞伎町店に向かった。
◆◆◆
新宿駅で降りて歓楽街を抜けていった場所に歌舞伎町店はあった。
離れた所から見た感想は…凄い場所だな。
それに尽きた。
何しろ、近くにあるのはラブホテルや風俗ばかり。
風俗街を抜けた場所のホテル街のなか。
普通ならこんな場所で薬局なんてやるわけが無いよな。
ちなみに、此処歌舞伎町店では調剤はやって無い。
だから看板は薬局だが実質は『薬店』というのが正しい。
見た感じは10坪満たない古びたお店で小型店だ。
看板も古びた感じで、やる気が無いのか店頭に雑貨の特売品は置いてなく、安売りの箱ティシュとトイレットペーパーが陳列されているだけだ。
「すみません…今度こちらの歌舞伎町店の深夜番に…はい?!」
「有賀さんなら居ないよ! 多分15分位で戻ってくるから! 待たせて置いてくれって」
思わず目を疑ってしまった。
薬の入ったショーケースの横に黒いミニスカを履いて、足を組んだ、紫で透けているスケスケのパンティ丸見えの若い女の子が座っていた。
よく見ると…上着も透けるような服で紫のブラが服越しにはっきり見える。
「あの…貴方は誰ですか?」
此処のお店には有賀店長しか居ないと聞いた。
だから、バイトも店員も居ないはずだ。
もし居たとしてもこんな格好の店員は居ない。
白衣も来てないしな。
「人に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀だと思うんだけど?それに貴方年下でしょう?」
確かに言われてみればそうだ。
「すみません! 今度、深夜番のバイトに決まりました、泉泰明です。宜しくお願い致します!」
「君、今幾つ!」
こうセクシーだと目のやり場に困る。目を逸らして胸を見ても透けたブラが見えて、下に落とすとスケスケのパンティが丸見えだ。
「19歳です」
「19歳なんだ! それならお店に遊ぶに来れるね! 私はこのお店の並びの熱帯魚ってヘルスで働いているの。『愛ちゃん』って指名してくれたら、沢山サービスしてあげるよ!それじゃ悪いけどご飯食べるから」
『愛ちゃん』と名乗った風俗嬢はそのまま奥に引っ込み…覗いてみると、ラーメンを食べていた。
ここ薬局だよな?
それなのに、なんで風俗嬢がラーメンなんて食べて居るんだよ!
まぁ、可愛いから、目の保養には成るけど。
仕方なく俺は持ってきた鞄を倉庫に置いて、白衣に着替えてレジの横に立っていた。
「店員さんが居るなら、私もう良いよね?」
ラーメンを食べ終えた愛ちゃんはそう言うとお店から去っていった。
何がなんだか解らない。
◆◆◆
それからしばらくして大柄な、まるでオーク並みに恰幅の良い男がこの店に入ってきた。
「愛、店番して貰って悪かった?お前誰?」
多分これが有賀店長だな。
「こちらの深夜番になりました泉泰明です」
「がはははっ!そうか、新しい深夜番か! まぁ頑張れよ!」
この店、大丈夫なのか?
風俗嬢が店番?よくあの固い樋口マネージャーが首にしないな。
「あの、さっき、風俗嬢が」
「風俗嬢じゃねー! 『愛ちゃん』だ言葉に気をつけろよ! そうしないとこの店じゃやっていけねーからな? 客や仲間を呼ぶときには『名前』だ!徹底しろよ」
確かに風俗嬢なんて呼ばれて喜ぶ人は居ないな。
「解りました! ですが、なんでその愛ちゃんが、店番をしているんですか? 可笑しいでしょう!」
「いや人手不足だし…頼むしか無かったんだ! まぁ愛ちゃんからしても店から離れて飯が食えるから喜んで…」
「そうじゃ無くて!会社外の人が店番...」
「まぁ、此処は特殊なんだ!直ぐに慣れるよ! ここは常識は通じない、出来たらお前が此処を辞めないで1人で店番出来る位に育ってくれたら…俺は助かる」
「はぁ」
此処が普通の店で無い事だけは今、解った。
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