この物語の凄いところは異世界転移やタイムリープなど、流行の要素もしっかり押さえつつ、後悔や恐怖を体験した主人公がそれを糧に進んで行く姿が、しっかりと描かれているところです。
幼少期にいきなり異世界へ転移し、再びの転移を約束されるも、時間感覚の違う神様が迎えに来たのは、なんと30年後!?
けれど、主人公の不断の努力は無駄にならないスペシャル仕様での転移が叶うようになるのですが、それはお話を読んでのお楽しみ♪
いきなりのチート能力はなくても、積み上げた経験や思索で人間的に大きくなった主人公が、誠実にコツコツと人生をやり直してゆく姿は誰もが応援したくなることと思います。
浮かれたチート小説とは一味違う、ちょっぴり大人なこのお話を是非ご一読ください!
10歳のとき神様の手違いで異世界に行った主人公。異世界で過ごした時間はわずかだったが、それは彼の心に鮮烈な体験として残る。
まずこの第一回目の異世界経験が、本当に10歳の子供のみずみずしい感性で描かれたかのように、読み手に伝わってくる。
知らない世界に降り立ったワクワク感や、友達ができた喜びを、読者も忘れられない思い出として共有できるのだ。
それから主人公はまた異世界に旅立つ日のために、現代日本で修行を始める。
ただし読者はタイトルから30年待たされると知っているから、彼が恋も青春も打ち捨てて修行する姿に危ういものを感じてしまうだろう。
先が分かっているにも関わらずドキドキさせるのは、作者様の筆力に違いない。
そして40歳――彼はついに異世界行きという夢をあきらめる決心をする。これがまたリアルだ。一度でも夢をあきらめたことのある人なら、その痛みに共感できるはず。
だがあきらめかけたとき、ついに彼は異世界転移を果たす! 努力の日々が丁寧に描かれたからこそ、その喜びもひとしおである。
ここで面白いのは異世界転移して終わりではなく、現実と異世界を行ったり来たりできる設定。そしてもう一つ、40歳だった主人公が20歳に戻っていること。失われた青春をもう一度、やり直すことができるのだ。修行ばかりして人間関係をおろそかにせず、周囲の人々との関係を構築し直す機会を与えられる。
異世界に行ってからのストーリーもドキドキハラハラ。何度も死線をくぐり抜ける。30年修行を続けた主人公は充分強いのだが、それでもチートというほどではなく、リアルに命のやり取りが行われる。――と言っても残酷すぎる描写が出てくるわけではないので、ミステリーなどを読む普通の大人なら問題ありません。
というわけで声を大にして言いたいのは、「異世界転移でしょ?」と思わないこと!
なろう系などと揶揄されるWeb小説とは一味も二味も違います。もちろん、よくある異世界転移小説をさげすむ意図などありません(私自身、軽い話を書くタイプの作家です)。
でも今作は、異世界転移だからと言って避けてしまうのはもったいない、そういう人にこそ読んで欲しい小説です!
幼き日に渡った異世界の、いつかもう一度行く時が来る。ただその約束を胸に勉学と武道に励み、けれども30年。10歳の少年はいつしか40歳になっていた。
待って待って、そしてようやく訪れたその時。どうやら何かがあった、けれどそれは何なのか。なぜ30年待つことになったのか、そしていざ行けるようになった異世界には何があるのだろうか。
謎が謎を呼ぶ、まさにその通りなのである。
既に過ぎ去ったはずの日々がまた。異世界と現実とを行き来しながら、彼は何を成すのだろう。
約束も、疑問も、この物語を構成する重要な要素なのだろう。それが解き明かされるのを、ワクワクしながら読み進めてみませんか。
ぜひご一読ください。