巨乳大好き勇者(笑)は貧乳に囲まれている〜最強勇者(笑)は巨乳魔王を狩る〜

ネリムZ

魔王討伐編(短編)

 勇者、それは原初の精霊達の加護を受け、魔王を倒し世界に平穏を齎す存在である。

 そして、帝国から選ばれた勇者が一人、魔王城を目指して、三人の女を連れて向かっていた。


「リオ、ミシュランまであとどんくらいかかる?」


 魔術師であるリオ。ショートヘアに魔法少女のようなとんがり帽子を被っている。

 大きな杖を地面に突きながらゆっくりと歩いている。

 ブカブカなローブは細長い体を見事に隠していた。


「あと二日はかかるわね。ユウキがおんぶって運んでよ」


「僕にだけ負担が大きすぎるだろ」


 シンプルな剣を背中に担ぎ、勇者の防具を着ているユウキ。

 真っ黒な髪色はこの世では珍しい存在である。

 勇者とされ、人類最強である。

 彼の伝説は生後五ヶ月から。彼は生後五ヶ月で魔族を殺しまくっている。


「そろそろ休憩しましょう。流石に四日飲まず食わず休まず歩くのは辛いですよ」


 休憩を提案したのはミカである。神を崇める聖職者である。

 金髪ロングにシスター服。琥珀色の瞳は男達のハートを簡単に射止める事ができるだろう。


「アタシはまだまだ行けるけどねぇ」


 楽観的な発言をしたのは武道家のネオである。軽装備の服に篭手を装備している。


「そうだな。もしもこんなタイミングで魔王軍に襲われたら大変だ。休憩しよう。リオ、何か食べ物」


「そんなのある訳ないでしょ。なんで私達が飲まず食わずで歩いていると思ってんのよ!」


 ユウキに杖を突き付けながら怒りをぶつける。


(カリカリしてるなぁ)


 男一人に女三人の勇者パーティだが、家族のように仲が良かった。


「うんじゃ、アタシが適当に魔物でも狩って来るよ! 近くに魔物っている?」


「へいへい。索敵荷物運びはぜーんぶ私の役目ですね〜」


 異空間に物を収納できる魔法や索敵魔法、この世の魔法を使いこなすリオの仕事は普通に多かった。


「まぁまぁ。適材適所だよ」


「魔法は万能じゃないっつーの」


 リオの頭を撫でながら宥めるユウキ。嫌がる素振りを見せずにリオは杖を空に掲げる。


「あ、ミカ。神聖力消して」


「わかりました」


「うしうし。サーチ!」


 周囲の生命反応を感じ取る魔法を使用して広げる。

 そして、近くに発見した魔物の生命反応をネオに伝えた。

 水色の髪をパラッと靡かせてその場所に走って行く。

 残った三人はキャンプの準備を始めた。

 異空間からその道具を取り出すリオ。組み立てはユウキの担当である。


「相変わらず私の仕事ってないですよね」


「回復がメインなミカは肉体労働は似合わないだろ? まぁ、肉体労働は僕の役目だよ」


「そうだーそうだー。キビキビ働け〜。あと二秒で戻って来るぞ」


 リオの宣言通り、ネオは大きなイノシシを持って来た。

 そのまま素手で皮と肉に解体して料理をする。

 料理担当はネオである。


「ふふん」


 ノリノリで笑顔なネオを微笑ましいそうに見守る三人。


「ネオの胸部がもっとふくよかなら、プロポーズしてるのに」


「ユウキ〜なんか言った〜」


「なんにも」


 ユウキがさらっと呟いた失礼宣言に殺気で返事をしたネオ。

 ユウキは生粋きっすいの巨乳好きである。大きい胸は世界の宝を地で行く人である。

 そしてこのパーティ、胸部に視点を当てて見渡せば、まな板が広がっている。

 常人がその事を指摘したら一瞬で世界から消える事だろう。


「なぁリオ。上で見てやつどうする?」


「どうでも良いでしょ。ミカに判断を委ねる」


「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」


「ユウキどうしたー」


「ごめん気にしないで」


 ミカも放置の路線を選び、上に隠れているであろう魔王軍の使い魔を放置した。

 ネオが作った肉だらけのスープと焼肉を四人で机を囲んで食べ始めた。

 すぐに食べ終わり、異空間にしまって片付けはすぐに終わる。

 そんなタイミングで勇者達を囲む影が出現する。


(転移魔法の気配がしたな。魔法に優れた奴がいるな)


 そんな事を考えているユウキ。

 魔王軍の軍隊に囲まれているにも関わらず、四人は冷静だった。

 そして、郡の間に道ができ、そこを優雅に歩き進む女性魔族が居た。

 それを見た瞬間、ユウキは戦意を失った。


「まずい」


 リオの頬に冷や汗が流れる。


「まじかー」


 呆れた声を出すネオ。


「最悪の敵が来ましたね」


 そう言うミカ。


「なんて、なんて、なんて美しいお方なんだ」


「おーいユウキ。目的忘れるなよ〜」


 リオの指摘にも耳を貸さない。

 何故なら、一番偉そうに出て来た魔族は、巨乳だからだ。

 もしも貧相なお胸をして、倒しても問題ないと判断されたなら、ユウキは一瞬で倒していただろう。

 だが、相手は女性な上に世界の宝である巨乳なのだ。

 露出度の高い服を着て、自分の最大の武器を自慢している用だった。

 腕を組んでそれを強調し、その女はリオ達を見下ろして鼻で笑った。


「「「よし殺そう」」」


「待て待て! 相手は確かに人類の敵である魔族かもしれない! だが、あんなに美しいお方をこの世から消すのは勿体ない! 世界の損失だ! それは神も望まないだろ!」


「いえ。私が崇拝する神は貧乳絶対主義なので。寧ろ巨乳は滅ぼすのが良いと思います!」


「嘘つけ! あの方は僕にユートピアの場所を教えてくれた恩神だぞ! そんなお方が貧乳派な訳がない!」


「ちぃ」


 そんなコントのような会話をしている勇者達に近づく女性。


「妾は魔王軍幹部、十戒の一柱。爆炎の姫ミーシャだ」


「僕は一応勇者認定されている、勇者(笑)のユウキでございます。名誉名声権力金この世の全ての力を手に入れる事のできる人です。結婚しましょう」


「は?(こいつ、いつの間に目の前に⋯⋯)」


 ミーシャの前に片膝を地面に付けてそう宣言する勇者ユウキ。

 白髪に鬼の様な立派な角を生やしているミーシャ。

 そんな魔族が認識できない速度で目の前に移動したユウキ。

 発言自体はクズだが、実力は確かだとわかる。寧ろわからない訳がない。


「あんたはバカか!」


 リオの大きく立派な杖で頭を本気で叩いた。少しだけ地面が波紋上に凹み砕けた。

 魔法士であるリオの腕力に驚愕するミーシャ。


「というか、あんたはなんでわざわざ近づいて来たの? 馬鹿なの? 死ねよ」


「勇者パーティの賢者と呼ばれた万能の魔法士と呼ばれている貴女が、まさかそんなに口が悪いとは⋯⋯」


「で、なんなの?」


「⋯⋯スカウトしに来ました」


「私達は魔王と戦う勇者パーティよ。ユウキがそんな提案⋯⋯」


 リオは迷った。ミーシャの一部、正確には立派な二部に目を向ける。

 それはリオがどんなに魔法を極めて手に入れる事のできない絶対的な天然記念物。

 そして重要な事だが、ユウキは巨乳イコール世界の宝である。


「ゆ、ユウキ?」


 頭を手で抑えていたリオがゆっくりとユウキの顔を覗く。

 そこには焦点が合わず、ぐちゃぐちゃに瞳を動かし、大量の汗を出していたユウキの顔があった。

 そう、彼は迷っていた。


「もしも妾の誘いを受ければ、⋯⋯自分の理想な体型のサキュバスと楽しめるわよ」


「⋯⋯ッ!」


「ユウキッ!」


 刹那、流石にピンチと判断したネオが拳を振るい、衝撃波をミーシャに放った。

 しかし、それを裏拳でユウキが弾き、衝撃波は捻じ曲げられ雲に穴を空けた。


「ちょっと!」


「世界の宝に攻撃してはダメだ」


「⋯⋯」


 流石にキモイと思ったミーシャの目からは軽蔑が漏れる。

 そんな空気に槍を刺すのはミカであった。


「仲間に成れない状態にすれば良いんですよ」


「どうすんの?」


 ネオがミカに問う。


「簡単ですよ。この周囲に居る魔物を殲滅すれば良い。そんな奴を仲間にしたいとは思わないでしょ」


「ミカ⋯⋯天才か!」


 そんな離れた所の会話に水を刺すのはミーシャ。リオはユウキを説得していた。


「そんなの無理ね。一人一人は確かに妾の足元にも及ばない。でも、彼らには仲間を信頼し助け合うチームワークがあるの。数があり、チームワークも良い。貴女に何ができると?」


 嘲笑じみた言葉に天使のような微笑みで返すミカ。

 彼女は自分のネックレスに口付けをする。それが神への祈りとなる。

 そして、タイムラグ無く発動される、敵を屠る大規模破壊魔法が発動される。

 その名も──


「神の裁き、『ジャッチメント』」


「⋯⋯ッ!」


 天から堕ちる光は周囲を囲んでいた魔族達を一匹残らず消した。

 骨すら残らない破壊力を持ちながら、周囲の地形は全く変わらない。

 雑草すらもそのまま。消えたのは魔族だけ。


「⋯⋯は? な、何その魔法」


「一応祈りだけで発動する⋯⋯言っても無駄ですね」


「そうね。貴女だけは、この場で滅ぼすしかないわね! インフェルノ!」


 地獄の猛火がミカを襲う。しかし、右手を前に出す。


「『神の盾』」


 しかし、半透明の神秘的な盾を顕現させてそれを防いだ。


「なっ!」


 驚愕するミーシャ。


(速攻性魔法だとしても、上位魔族すら簡単に倒せる程の魔法なのよ! 人間相手なら例外を除いて相手にもならない。⋯⋯まさか、その例外が彼女にも当てはまると言うの! なら、狙うは)


「アタシを狙った」


「いつの間にっ!」


 ネオに攻撃をしようと考えた瞬間に肉薄する。それはミーシャが反応できないスピード。

 ミーシャは魔王軍幹部。その名は飾りでは無い。確かに、実力は高い。

 一人でも村なら崩壊させる事ができるだろう。

 魔法が専門とは言えど、多少の近接戦闘は可能とする。

 しかし、そんなミーシャが反応できない速度、見えない速度を助走もなく出したネオ。


「幹部なら勇者に倒させた方が良いし、手加減するね」


 腹にデコピンを入れて吹き飛ばす。

 ダメージは無い。ただのノックバック。それを疑問に思うミーシャ。

 一切ダメージが無い事に思考が止まる。

 ⋯⋯だが、ノックバックの衝撃はミーシャ以外にも影響を与えた。


 パンっ!


 そう風船が割れるような音を高く響かせ、ミーシャの胸が破裂した。

 それを唖然として見る四人。ミーシャは一瞬何が起こったのかわからないでいたが、上半身の服が適正サイズよりも大きくなり落ちるのを見て我を取り戻した。

 すぐに引き上げて胸を隠す。


「にせ、もの?」


 ユウキが絶望したような声を漏らす。

 冷静に分析して指摘するのはリオ。


「スライムパッドね。擬態が得意なスライムを利用した物ね。弱小過ぎて貴女の魔力で隠れてわからなかったわ。⋯⋯ユウキ見て! あれが現実なのよ!」


「おいコラ! 妾は少なくともあんたらよりも大きいわ!」


 未だに現実が受け止められないユウキだが、他の三人は完全に堪忍袋の緒が切れた。

 実際比べるとミーシャの方が少しだけ大きいのかもしれない。

 しかし、ユウキ以外の生命にその点を触れられる事を三人は良しとして無い。

 怒りをぶつけるのは誰にするかと、三人の間で目線だけで会話が交わされる。

 幼馴染三人の特徴だろう。

 無言の空気が広がる。

 それを崩したのは空から降って来た、フルプレートの魔族だった。


「ッ! ミカ!」


 会話に熱中して気づかなかったネオ。

 その目の前に落ちて来た魔族は右手をネオの腹に当てた。


分解ヒール


「ぁ」


 体が内部から崩れ落ち、ボロボロになるネオ。


「我は魔王軍四天王、ヒール王カイラだ! ミーシャ逃げろ。お前では相手にならんようだ」


「申し訳ございません。助かります」


 ミーシャが逃げる。

 リオはすぐに反応して、使い魔を放った。


「残りは三匹か」


 カイラが見渡す。絶望から立ち直ったユウキ、焦った顔のリオ。真顔のミカ。


「仲間が一瞬で殺されたと言うのに⋯⋯血も涙もない奴らめ。我はお前らを皆殺しにする! 仲間の仇、晴らさせて貰うぞ!」


 ユウキがシンプルな剣を抜いてカイラに斬りかかる。それを右手を突き出して応答する。


分解ヒール


「あっぶね」


 バックステップで避ける。


「反応が良いな。我のヒールは特別性だな。死にたい奴からかかって来い」


「へーならこれならど⋯⋯」


 リオが魔法を使う前にユウキが止めた。


「僕がやる。四天王なら、僕がやる」


 剣を構える。その意図を汲み取ったリオとミカは手出ししなかった。


「行くぞ魔王軍四天王⋯⋯なんかのカイラ!」


「ヒール王カイラだ!」


 互いに地を蹴って接近する。

 右手を突き出すカイラ⋯⋯その背後にユウキが躍り出る。


「なにっ!」


「剣技、『八咫烏ヤタガラス』!」


 深く体を切り裂かれたカイラは倒れる。

 完全に即死。触れられたら即死なら、先に即殺しすれば良いじゃない。

 誰もが終わった⋯⋯そう思った瞬間だった。

 触れたら即死させる手がユウキを襲う。超反応でそれを髪一重で避ける。


「我が斬られた程度死ぬか!」


「ひひゃ! 面白いねぇ! だったら⋯⋯どこまでやれるか我慢比べと行こうかああああ!」


 スイッチの入ったユウキを見た二人はシートを広げて座る。

 そして二人の泥沼の戦いを観戦する事とした。


「ぎゃはああああああ!」


 乱暴な戦い方に変わったユウキ。彼は戦闘狂の狂人でもあった。


 ◆


 一方転移方法が無くなったミーシャは炎を足から爆発的に出してスピードを上げて帰還していた。

 その後ろを一定のペースでついて行く存在が居た。


「気配は感じないけど、流石にわかるわよ! 貴女は誰よ⋯⋯へ?」


「ようやく止まってくれたよ。やっほ」


 そこに居たのはカイラにヒールされて死んだ筈のネオであった。

 再び処理落ちするミーシャ。目の前で粉々に死んだ人間が目の前に立っているのだ。


「もしかして幻影!」


「違うよ」


 背後から抱き着いて本物だとネオは言った。ミーシャはただただ驚愕していた。

 目の前に居たネオが幻影を見せているであろう存在を探す為に本の僅かに視線を外した瞬間に背後に居るのだ。

 しかも、抱き着かれた事で動きが拘束される。


「インフェルノバスター!」


「おっと」


 足元から火柱を伸ばして引き剥がす。


(こいつ、何者よ。本当に人間? 速いし強い。妾じゃ無理よ! 勝てる訳がないよ)


「お話しようよ」


「お話?」


「うんうん。アタシさ、あの三人がちょー嫌いなんだ! だからさ、アタシを魔王軍に入れてよ。アタシ、君よりも何倍も強いよ」


「確かに、それは認めるわ。でも、それは事実なの?」


 笑うネオ。


「当たり前だよ。カイラ様の分解回復を受けても生きているのが理由だよ。あれが幻影。凄いでしょ? カイラ様にあの三人の弱点を教えている。もうすぐ戦いは終わるよ」


「⋯⋯」


「信じて欲しいけど、難しいよね。本当にアタシは嫌いなのに。あの三人相手にアタシは勝てないからカイラ様に頼ったのに」


 ネオは自分の首筋を見せる。そこにはとある刻印がされていた。


「それは⋯⋯魔貴族の証」


「そう。アタシは人間のフリをした魔族だよ。勇者スパイの役目も今日で終わりだね」


「成程。だからあの攻撃も⋯⋯」


「うん。そうだよ! ま、おっぱいが偽物だったのはびっくりだったけどね」


「うるさいわね! ほら、味方なら行くわよ」


「はーい」


 そして二人で移動する。


「どんな所が嫌いなの?」


「まずあの男よ! 巨乳巨乳キモイ! 魔法士の方は勇者大好きマンで勇者に気に入られていたアタシに裏でいじめて来るのよ」


「あのキモさには妾も血が引いたわ。そうなのね。可哀想に」


「あのシスターはアタシを性的に追い詰めて来た。スパイの為に耐えてたけど、もうすぐ限界だったかもしれなかった」


「そう。本当にお疲れ様」


 勇者達から何十キロと離れたタイミングでミーシャは突然振り返りネオに魔法を放つ。


「魔法構築の時間をどうもありがとう! だいたい信じる訳ないでしょが!」


「ダメだったかぁ!」


「何よ分解回復って! あれは回復魔法の応用でそんな魔法では無い! それにその刻印。確かに魔貴族の証だけど⋯⋯それは裏切り者の魔貴族よ。今はこの世には居ない!」


「あちゃー。ダメだったか。失敗したし、君はもういいや」


「舐めるな! 貴様一人くらい⋯⋯」


「アタシは四人の中で最弱だけど⋯⋯君と比べたら、アタシが目視できる範囲に君はいないよ」


 拳を固めて突き出す。

 魔法をかき消し、大地を抉り、ミーシャの体を粉砕させた。

 残ったのは首筋を撫でるネオだけである。


「そっか。これは裏切り者の証なんだね。⋯⋯アタシ達の村が襲われたのってさ、アタシ達のせいなのかな? 戻ろ。まだアタシの出番が⋯⋯ないかー」


 ◆


「はぁはぁ」


「中々やるな。我の魔力が半分になるまで我を殺すとは」


「何万回も殺してるから、流石に飽き疲れたぞ」


「そのシンプルでしょうもない剣で良くそこまで戦えた」


「⋯⋯しょうもない?」


「聖剣と比べて貧相。魔石も埋め込まれてないし、使われている金属はただの鉄。そんなしょーもない剣で我を何万回も殺した事を褒めてやろう!」


 リオとミカは察した。「もう終わりか」と。


「どんなに高価で強力な金属を使おうとも、色んなオプションを付けようとも、神が創った武器よりも、人一人がその命を、魂を込めた武器の方が強いんだよ!」


「だから?」


「⋯⋯もう許さない。僕は何言われてもぶっちゃけなんにも感じない。だけどさ、僕の親友が魂を賭けて作ってくれた一生分の最高傑作をバカにされるのだけは我慢できない! お前を地獄に送る!」


「やれるようならやってみろ!」


 カイラが出せる最速でユウキに肉薄し、その右手を腹に添える。


「終わりだ! 分解ヒール


 しかし、何も起きない。


「なにっ!」


「言い忘れてたけど、僕は目が良いんだ。一度見た術式は作り出せる。逆に言えば、それを相殺できる術式も作れる。お前を七回殺した時点で、それは完成していた。お前の即死魔法は通用しないんだよ」


 尚、リオが魔法を使用している。ユウキは魔法が使えない。


「お前を地獄に送る。開け、冥界への門、ヘルザゲート!」


 雲が集まり、その中心に巨大な門が出現する。

 ゆっくりと開き、そこから半透明の手が伸びる。

 カイラが抵抗するが、全てが無意味に終わる。


「な、なんだこれは! 離せ! 我を誰だと⋯⋯」


「魔王を倒した後、お前を消しに行く。それまで地獄で苦しめ⋯⋯ここでの一日は地獄では百年だがな」


 そして、カイラを取り込んだ門は閉じて、その姿を消した。

 魔法では無い、ユウキだけが使える世界と世界を繋げる門。

 これだけがユウキを勇者のして人間のてっぺんに立たせる力であった。


「ヘルザゲート出て来たらびっくりしたけど⋯⋯ピンチってよりもタブーに触れたかんじか」


 ネオが合流してそう呑気に言葉を漏らす。ミカはネオに接近して、その頬をつねる。


「何が性的に追い詰められたですか! 私が、いつ、貴女を、襲ったんですか! ええ!」


「ごれんっへ、信用させる為にしかたないことだったんだよ」


「私もいじめっ子みたいにされてたんだけどぉ?」


「ごめんごめん。全然本心じゃないよ」


「わかってる。と言うか、あの時点で気づけたなら躱す事できたでしょ!」


「油断を誘う為に死んでみました。へへ。ミカを信頼してるからできた事だけどね」


「そう言われると嫌な気はしませんね。うん」


「ダメえ! 危険だから、二人とも、今後はそんな事しないで、私一瞬焦ったんだからさ! ネオが死んだら、私はとっても悲しいよ」


「一緒に死んでくれた?」


「んー」


「冗談だよ。と言うか、あの程度に負けたら私達三人の目標は達成できないでしょ」


「まぁね」


 剣を眺めていたユウキにはその会話が聞こえていなかった。

 自分の親友が死に際に作ってくれた、文字通り魂を賭けた最高傑作。

 それをしょうもないと言われて、ユウキは煮えたぎるような怒りを感じていた。


「スッキリしないな」


 この四人には家族が居ない。リオ、ネオ、ミカは同じ村の出身。そして、魔王軍に無惨に殺された村の生き残りである。


 そして、そんな勇者パーティはミシュランへと到着した。

 ユウキは風俗に行こうとして止められたので宿で引きこもり、ネオは食料を買い込みに、ミカは教会に、リオは今までの間で手に入れた素材を換金しに向かった。

 リオと買取屋の店主の交渉が始まろうとしていた。


「ふむ。これらなら金額8枚って所でしょうね」


 様々な魔物の皮や骨。国営のギルドに売れば金額30枚はするであろう素材だ。綺麗なので、きちんと30枚で買い取られる。


「はぁ? ふざけないでちょうだい。私の見立てでは金額60枚はするわよ!」


 サラッとホラを吹くリオ。一度ギルドで正規の値段を確認している。


「いえいえ。この程度の魔物の素材はそこら辺にゴロゴロ転がってますよ? これでも高い方なんですけどねぇ」


「へぇ。そうやって嘘言うんだぁ。信頼が大切な仕事なのに?」


「嘘などは言っておりません」


(旅人だからって舐めてるなぁ。しゃーない)


 異空間からとある物を取り出す。

 それは帝国が認めた勇者パーティの証であるバッチだった。


「こ、これは良くできた偽物ですね」


「鑑定メガネを使ってみなよ? きちんと本物だから。わかるかなぁ? 君は魔王を倒して世界を救う勇者パーティに対して、詐欺してるんだよ?」


「そ、そんな事は」


「魔王を倒した勇者はさぞ称えられるでしょう。そして、そのパーティメンバーである私も。そしたらどうでしょうか? ここは勇者パーティが利用した買取屋、ギルドよりも少しだけ高く買い取ってくれる良心的な店だと、広まるでしょう」


「目先の利益よりも長めの利益と?」


「私の噂も知ってるんじゃないの?」


「古代遺跡の発見、古代文明の復興に一躍関わり、古代文字のルーン文字の法則性を導き出した天才、賢者リオ⋯⋯」


「良いね。その言葉好き。で、ちゃんと買い取ってくれない?」


「ギルドのりもかなり高く買い取ってくれる店の方が良いでしょうかね? 金額75枚でどうでしょうか?」


「交渉成立ね。魔王を倒したら英雄譚でも執筆する予定よ。この店はそうね⋯⋯長旅で金欠の人達にお金を配って貧困になった勇者の懐を回復させてくれた買取屋⋯⋯ってところかしらね?」


「頼みますね」


「勿論よ。私は嘘は言わないわ」


 リオはギルドで買い取られる値段の二倍以上の金額で売った。


「賢者に対して詐欺しようとしたけど、それを暴かれたって最初に入れますけどね」


 そう漏らして、ジャリジャリ鳴る袋を持ってルンルンで宿に戻ろうとする。

 実際金欠である。金が無く生活に困窮していた人に対して無償で金を配るシスターがパーティに居るのが原因である。

 ルンルンで周囲に気を配らなかったリオの手から袋が盗まれる。

 相手は小さな子供であった。


「⋯⋯」


 いつもならすぐに捕まえる事ができた。しかし、その子供を見て思い留まる。


「戻るか」


 宿には既に三人がたむろして、リオのベットには食料が寝ていた。

 異空間へとそれらをしまった。


「あれ? いつも金だけは身につけてるリオが金を持ってないぞ? どうした?」


「おいユウキ。なんだその悪意のある言い方は⋯⋯皆行くよ。訳アリの子供だ」


 マーキングと言う魔法を泥棒に着けたリオが三人を連れてその場所に向かう。

 そこはボロボロの建物を利用した小さな孤児院だった。

 入口では、孤児院で子供のお世話をしているであろう大人がお金の袋を持った子供を叱っていた。


「でも、これで皆も先生もお腹いっぱい食べられるよ!」


「お神様に顔向けできない事をしてはなりませんと何度も言いましたよね!」


「ッ! で、でも」


 段々と喧嘩に発展しそうだった。そこに登場するのが被害者である。


「おい」


「え⋯⋯な、なんで」


「賢者様を舐めるでは無いわ。って、わかんないか。それ、返して」


「⋯⋯」


「コラ、返しなさい! そして謝るのです!」


 落ち着かない様子のミカ。ユウキが声を出す。


「謝る必要は無いよ。な?」


「ええ。返してくれたらね」


「先生さん。どうしてこうなっているのか、お聞きしても? こう見えても勇者です。助けになりますよ」


 先生の膨らみある胸部を見ながらそう言う。リオが杖でぶっ叩く。

 先生は戸惑いながらも事情を話す。その間にネオとミカは子供達に食事を用意する。


「凄いお姉ちゃん。素手で野菜切ってる!」


「何もしてないのに鍋の中身が回ってる!」


 手刀で食材を切り、気功で鍋を掻き回している。手側の良い調理。

 包丁やお玉は使わない。それがネオ流料理だ。

 修行も兼ねている。


 ミカは天に祈りを捧げていた。

 ミカの祈りの強さがこの孤児院に幸運を齎す事だろう。

 子供からは笑われているが、必死な態度に段々とミカの真似をする子供達。


 それから一時間後。満腹な子供達の笑顔にミカが微笑む。

 それが嬉しい三人。そして先生。

 だが、ミカの顔が鬼へと変わる。


「孤児院への税金を横領している貴族、許さない。神の天罰を⋯⋯」


「待て待て。ミカがやると当人以外にも影響が出るからダメだ」


「ですがユウキ、子供達から笑顔を奪うゲスには天罰を与えなくてはなりません! 例え、ユウキがそれを強制的に止めたとしても、私は⋯⋯」


「僕も許せないよ。でもさ、その貴族を消しただけで解決する問題じゃないだろ?」


「じゃあどうしろと!」


「そうだな。まずは会いに行こうか」


 本来は国民の税金で運営される孤児院。身寄りのない子供達が集まる場所だ。

 しかし、孤児院を管理する貴族がその金で私腹を肥やしていた。

 当然、運営が上手くいかない。まともに食べれない日々が続いた。

 痩せ細って行く先生と子供達。当然、笑顔は消えて行く。辛い中では笑えない。

 先生に恩返ししたい子供が金を盗んだ。

 その事がミカには死ぬ程許せなかった。神の使徒であり、子供を愛するミカだからこそ、他の三人よりも激しい怒りを感じていた。


 そしてその現況となった貴族と四人は対面していた。

 勇者の権力は簡単に貴族と対峙できる。

 太った貴族を見て、机に並べられている酒や果物を見て、歯をグギギと噛み締めるミカ。

 リオはここに来る間も目を瞑っている。ネオは周囲の警戒。


「で、魔王討伐の旅をしている勇者様が如何様ですかな?」


「孤児院の方に行きまして。なんでも給付される筈の金を自分の懐に入れていると耳にしましてね」


「そんなのは戯言ですよ。孤児院の奴らはもっと金が欲しいから、そうやって言ってるんですよ」


「実際問題、子供達が痩せているんですよ。それは与えるお金が少ないと思いましてね」


「そうですか。知らなかったです。それでは今後は二倍の金を渡せる様に国王に申請してみますよ」


 その適当な態度にミカの限界が訪れた。


「ふざけないでください!」


 机を叩いた。


「なんで罪も何もない。純粋で成長しかない子供達の笑顔を平然と奪えるんですか! 二倍にする? したら貴方が使えるお金が増えますね!」


「何を言っているのやら⋯⋯」


「本来、国が運営する施設などには問題ない額が支給されます。国王の下で働く貴族経由で。貴族は、国や国民からの信頼で成り立ちます。それを裏切って、自分だけ笑って、それが貴族と言えますか! なんのための貴族ですか! 国の仕事を受け持ち、国の成長の為に働く、それが貴族でしょうが! 国を裏切り、国民を裏切って、それが貴族ですか!」


「まずは落ち着いてくださいな」


「ふざ⋯⋯」


「ミカ、落ち着け」


 ミカの腕を引っ張り、自分の胸元へと移動させるユウキ。

 一呼吸置いてから、腕を離す。


「一発だけなら良し!」


「何を⋯⋯」


 貴族が何か言う前に、ミカが渾身の一撃を顔にお見舞した。

 脂肪すら貫通するその拳は一撃で相手の意識を刈り取った。

 それと同時に入って来るのは国の騎士達だ。


「横領、奴隷所持、誘拐諸共の件で家宅捜索を行う! ⋯⋯こ、これは一体」


「ミカ行こう。僕達のやる事は世界を魔王から解放する事だ。国の世直しじゃない。それはこの人達の仕事だ」


「地獄に落ちろ豚野郎」


 そして四人は孤児院に戻った。子供達と戯れるネオとミカを横目に先生とユウキとリオが会話をする。


「国の騎士が来ました。今後は通常の二倍で寄付金を譲渡すると」


「良かったですね」


「何をしたんですか。こんな数時間で」


「それは⋯⋯」


「それは私ね! 私の得意分野である魔法! 生物魔法を使ってこの国の情報を網羅してみました(ドヤァ)! そしたら貴族達の悪い面が大量に出まして⋯⋯奴隷とは流石に意外でしたけどね。しかも、誘拐までしてましたし」


 付け足すなら、女の死体も沢山見つかった。


「後は勇者と言う事を盾に国王に直談判しました。それを同時に行える私はやっぱり凄い!」


 実際常人とは不可能な事をしている。

 生物魔法は召喚魔法とは違う。召喚魔法は召喚獣を召喚して戦って貰ったりするのだが、生物魔法は生物的な何かを魔力で作り出す物だ。

 生物魔法の生物は使用者が操作する以外に方法は無い。自己意識なんてのは無い。

 数百となる生物魔法を操れるのは賢者と呼ばれるリオだけだ。

 だいたい生物魔法を作り出したのもリオ。使えるのもこの世ではリオだけだ。

 二万年の努力の結晶である。


 そして、孤児院の問題は一日足らずで解決した。

 勇者の名声はこの国で激しい勢いで広がり、とある買取屋は最初は詐欺疑惑が立ったが、数ヵ月後には繁盛するとかしないとか。


 ◆


 そんな事件から二年後、勇者達は魔王城に到着していた。


「ようやく見つけたぞ」


 十戒の九体は既に無力化されている。勇者対策のサキュバスは勇者以外が殲滅した。

 紆余曲折へて、ようやく辿り着いた。

 四人は魔王城にカチコミに入る。


「うっしゃ! 行くぜ!」


 魔王城に入ると同時に転移トラップが発動し、四人バラバラとなった。

 リオの相手は龍人である。


「グハハハハ! 俺様の相手が魔法士か! 残念だっなあ!」


「龍人?」


 龍人は魔法への絶対耐性があるとされている。

 産まれ付き魔力を分解できる力を持っているのだ。魔法士の天敵である。

 これが魔王が使えた最後の手である。


「ねぇ龍人さん」


「なんだ?」


「人間と平和条約を結びませんか?」


「負け惜しみか?」


「(頭悪いなぁ)世界の理的に魔王と勇者は今後も永遠と争い続ける。そんなの、バカみたいじゃない? 命も勿体ない。そう考えてから十戒や攻めて来た魔族は全員無力化して封印してる。やろうと思えば、今まで倒した魔族も全員蘇らせる事が出来る。勇者と魔王との間で条約を結びませんか? 互いに共存するのが賢いと思うんですが?」


「⋯⋯ガハハハハ! お前はバカか? 人間のような下等な生物は俺様達に支配されるのが一番なんだよ! そうだなぁ? お前はダメだが、良い女が居たら俺様が楽しませてやるよ! お前のような奴はオークの玩具にでもなってろ! グハハハハ!」


「はぁ。ユウキ、やっぱり無理だよ。神も望んだ事だとしてもさ。無理だって。それはさ、100万年の修行で察した事じゃない」


「何を言ってやがる? さーて、殺るか? まずはそうだな。腕を折ろう。そして足を折る。抵抗ができない状態にして、オークの群れに捨ててやる!」


「ふーん。私に勝てると?」


「俺様にお前が何できるって言うんだ」


「簡単」


 杖を掲げる。

 彼女は人間であり、人間では無い。既に人間の器を破り捨てた超越者である。

 言わば、化け物。


「君が分解できない程の魔力量の魔法でぶちのめす」


「やれるかなぁ!」


 龍人が動き出す。

 しかし、すぐに動けなくなる。


「森羅万象」


「ぐはっ!」


「まずは腕、次に足」


「がはっ!」


「次にオークの群れ〜」


 床に転移ゲートが出現する。

 その下にはオークの群れ。


「ちなみに魔法で性欲強め。男でも相手してくれるよ〜。バイバイ」


 にこやかに手を振るう。


「いや、助け⋯⋯」


「私の提案受ければ良かったのに」


 落ちたらゲートを閉じる。


「あ、言っとけば良かった。私達の目標に付いて。その目標と比べたら、お前は弱すぎ」


 一方ネオの方は高速で動く武術家が相手をしていた。

 一発殴ったら引いて背後に回るヒットアンドアウェイ戦法。

 ボコボコと殴られるネオ。口からは血が出て来る。


「勇者パーティってそんなもの〜」


 蛇と人間を合わせたような魔族に手も足も出ないネオ。

 ネオの目からは戦意が消えていた。

 少し前、ネオと魔族がであった時の話である。


「アタシの相手は君? 弱そう」


「⋯⋯(勇者パーティの武闘家。前々から情報は来ているが⋯⋯全ての敵を拳で粉砕。警戒しな⋯⋯)おま、その首の」


「あ、これ? これ知ってるの? 魔貴族ってのは知ってるけどさ、それ以外はわかんなくてさ」


「なぜだ。なぜ魔族のお前が人間の味方をしている!」


「⋯⋯へ? あ、アタシが魔族? そんな訳ないだろ!」


「いーや。それは産まれ付き現れる刻印。魔貴族の血を引くモノしか現れない。既にその制度はないが、その刻印だけは今でも引き継がれている。つまり、それがあるのは魔族だけなんだよ!」


「え、いや。待って。そりゃない。ありえないって。だって、アタシも皆と一緒に神界で修行したし、皆と同じだし。人間だし! 嘘言うなよ!」


「嘘では無い。ほれ、こっちにも刻印がある」


 ネオと同じ刻印が相手にもあった。

 ずっと人間だと思い、そして人間として暮らして来た。

 皆も人間としてのネオと仲間だ。それが突然崩れ落ちると感じた。


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」


「これはひょっとして、チャンス?」


 そして今に至る。


「もうなん万回も殴ってるのに、頑丈なヤツめ!」


(アタシは魔族。皆の敵、ユウキの敵。リオもミカもアタシとは違う)


 なんのために生きて来た。なんために何百年もの修行をした。なんのためにユウキと一緒に冒険した。なんのために戦っている。

 ネオの中で葛藤が生まれていた。

 皆とは違う自分の真実に打ちのめされている。


(アタシは⋯⋯なんで、⋯⋯⋯⋯なんで人間の村で育った?)


 蘇るのは両親と別れの日。

 二人からはこんな言葉を言われていた。『大切は守りなさい』と。

 その『大切』は当時はわからなかった。でも、今ならわかる。

 ネオにとっての『大切』は仲間だと。


 その日にその村は魔族に滅ぼされ、国から来た騎士と五歳のユウキがその魔族を殲滅。

 生き残りは三人だけ。その三人がユウキの仲間。


「はは」


「なん」


 拳を受け止める。


「関係ないじゃん。皆を守るのに、皆と一緒に居るのに、種族とか、関係ないじゃん。両親が魔族なら、それが実現していた筈だ。なぁお前。魔族と人間が共に生きる世界どう思う? アタシは最高に良いと思う」


「くだらな⋯⋯」


「だよね! 聞いてごめん!」


 そして、気が晴れたネオは本気で拳を固め、気功を纏わせる。

 そして、敵に突き出して粉砕した。


「⋯⋯きっとリオ達も四天王相手してるんだろうな。この程度って⋯⋯弱すぎるよ。⋯⋯って、そんな雑魚にボコボコに殴られていたのはアタシか! スぅぅぅ。父ちゃん、母ちゃん、魔王との決着がついたら、皆巻き込んでアタシの正体を探るよ! そして、いずれ目標達成する! 仲間と一緒にさ!」


 一方ミカ。

 ミカも同じように交渉は失敗。

 ミカの相手は人間であった。大きな斧を両手で持った人間である。


「俺は人間が嫌いだ。だから魔王軍に寝返った。見ろよ。今はサイボーグだ」


「へー」


「人間では到達できない領域へと足を入れている」


「へ」


「興味無いか。半人間の俺に神の天罰は下らない。なぁお前もこっち側に来ないか? こっちは良いぞ。金も女も全てが手に入る。お前の場合は男か?」


「へー⋯⋯じゃなかった。下らないですね」


「あの変態勇者が良いってか?」


「ええ。変態ですけど、私達の憧れですからね」


「ふーん。だから傍にいるのか?」


「ええ。そうじゃないと、私達の目標達成も遠のくので。彼は目を離すとより強くなってしまう」


「目標?」


「ええ。私達三人の目標⋯⋯彼を殺す事」


「は?」


 ミカの言葉には嘘偽りがなかった。


「やっぱりあの変態は嫌いなのか?」


「いいえ。むしろその逆。リオもネオもユウキを愛してる。かく言う私も。だから殺すのです。彼を殺し超えるのです! それでようやく私達の愛は成就する。ユウキとの子供の笑顔はきっと一番美しく見えるでしょう。⋯⋯まぁまだその兆しも見えませんがね。魔王との決着が付きましたら、孤児院を開く予定です」


「興味無いね」


「そうですか。良いですよ。子供達の笑顔は。癒されます」


「まぁいい。お前らのイカレ具合を見せてくれてありがとうよ! じゃあな」


 拳が火に包まれる。それをミカへと向かって放つ。

 しかし、ミカはそれを避けて人差し指を向ける。


「別に祈りだけが私の力ではないですよ。だいたい、私の力は祈りではなく神の力そのものが私の力ですので」


「何を⋯⋯」


 最後まで言葉が出ること無く、無数の光の弾丸に貫かれた人間。


「この程度では、彼には勝てない」


 そんな言葉を漏らして、ユウキを探しに向かった。


 そして魔王と対峙するのはユウキである。

 そんなユウキは完全敗北していた。


「この一見シンプルな剣ですが、凄く魂を感じます!」


「だよね!」


「人類と魔族の共存。素晴らしいと思います!」


「だよね! だよね!」


 魔王の本物の大きな胸を押し付けられたユウキはテンションが高かった。

 スタイル、顔、全てがドストライクな魔王にユウキはメロメロ。


「争うくらいなら、一緒に文明発展を目指す方が良いです! うんうん」


「だよね〜」


「⋯⋯そ、そのためにはきちんとした、目に見える形の何かが必要ですよね?」


「何か?」


「はい。例えば、⋯⋯魔族の人間の結婚とか」


 耳元で囁かれた言葉にユウキの脳が爆発する。


「け、結婚」


「はい」


 体を全面に利用して、妖艶な魔王はユウキの首元に手を回し、口と口が触れ合いそうな距離まで近づける。

 後ちょっとで触れ合うと言う瞬間、ユウキの装備が消えた。


「はははは! 残念だったな勇者! 人類は全員奴隷だ!」


 勇者の装備は一つの魔石がコアとなっている。それを身から外したら、装備は外れるのだ。

 本来は外れないような場所に付いているのだが、ユウキの体に密接しながら会話していた魔王は見つけ出した。

 魔法の刃でユウキの体を貫いた。

 血を大量に流して床に転がるユウキ。


「はぁ気持ち悪い。魔族を奴隷として扱うてめぇらは奴隷だ。ギャハハ!」


 現魔王も昔は人間の愛玩奴隷だった。魔王の力に覚醒するまでは、死にたいような人生を送っていた。


「何が魂だ! ただの鉄の剣で! ばっかみたい! 聖剣も無しで魔王のこの体には傷付けれないっての! 無知無能!」


 高笑いをして、異空間から魔剣を取り出す。

 魔王だけが扱える魔剣である。それを鉄の剣に押し当てる。


「こんなダサい剣は邪魔よね。バイバイ」


 そして魔剣を剣に向かって振り下ろす。⋯⋯本来なら砕けていたその一撃。しかし、剣は魔剣を弾いた。


「何っ! なんで!」


「魂の籠った剣は、どんな剣よりも強いんだよ」


「勇者! なんで、なんで生きてやがる! ⋯⋯お前は勇者なのか?」


 ユウキの髪は伸びて銀髪に、瞳の色は紅色に輝いていた。

 胸部は膨れ上がり、女性の大きな胸のような形へとなる。

 腹回りは細くなり、筋肉も収縮する。スラリとした体へと変わる。

 男っぽい顔つきも女性のように変貌する。

 そして、そこに立っているのは男の勇者ではなく、綺麗な銀髪の女性であった。


「お、お前は、何者なんだ」


「おいで」


 剣が独りでに浮かび、ユウキの手に戻って行く。


「なんで、お前は男じゃないのか!」


「そうだね。その装備があったら僕は男だよ? でも残念。僕は女だよ」


「意味がわからないよ」


「わからなくて良いよお前に。僕の目標はね、原初の精霊を皆殺しにする事だから。だからさ、君なんかそいつらと比べたらちっぽけなんだよ」


「何を、言って」


「この剣をバカにしたから血祭りにしたいけど、君は一応魔王でさ。僕は人間から勇者の称号を貰った勇者(笑)でさ、聖剣も握れないし、勇者の防具も装備できない」


「なっ! ならこれは」


「それは僕の存在を精霊達に悟られないための装置だよ。⋯⋯あ、話戻るね? 君を倒す方法は一つだけあるんだ」


「⋯⋯?」


「聖剣を使わず、真の勇者でもない僕が魔王を殺せる方法⋯⋯それは、魂を斬る」


 魂を斬ったらその肉体は抜け殻。転生もできない。本当の意味での死。

 しかし、肉体は残るので魔王の力はその肉体に永遠に宿る。

 魔王の力が世界にありながら魔王は生きてない。

 世界の理を無茶苦茶にする最初の一手。


「本当に悲しいよ。僕に、君のような人を殺させるんだから。残酷だよ世界は」


「お前⋯⋯」


「僕は大きな胸の女性が大好きだ。種族なんて関係ない。それは世界の宝なんだよ。⋯⋯だけどさ、僕のために、僕の復讐のためだけに、この剣を作ってくれた親友の、この剣を、バカにするのなら、タイプの女性でも容赦しない」


 その目は本気であった。


「⋯⋯っ! デスマーチ! ヘルバーニング! 地獄羅刹!」


 様々な魔法すら意味が無い。


「終わりだよ」


 ユウキが動く。一瞬で魔王の背後に動き⋯⋯一閃で魔王の魂を切り裂いた。

 どさりと倒れる魔王。ユウキは装置を再び装備し、皆が知るユウキになる。


「本当に残念だよ。君の復讐先が人間じゃなくて、原初の精霊なら、きっと友達になれたのに。同じ里で生まれたのに、育ちが違うとこうも変わるんだね。さようなら」


 原初の精霊の加護を受けた人間を勇者と呼ぶ。しかし、ユウキの両親は世界の真実を知って、精霊に無惨に殺された。

 ユウキはそれを行った原初の精霊への復讐を誓った。

 この世界の魔法は全て精霊が関与している。

 精霊の敵であるユウキは魔法が使えない。加護も得られてない。

 しかし、天性の戦闘の才能があった。異次元の成長速度。それは周りにも影響を及ぼした。

 だから人間達から勇者と呼ばれたのだ。

 勇者であり、勇者ではない。偽りだらけの存在。


 そして、原初の精霊を倒したいと思っていた神々の協力を得て、勇者パーティはこの世界には存在していけない化け物となったのだ。

 何百年、あるいは何千万年、果てしない修行を経て、今の勇者パーティが存在する。

 各々目標が高いため、この世界でしか育ってない魔王達程度では相手にならないのだ。







 ◆

 お疲れ様です。ここまで読んでくれた人いますか?

 誤字脱字多かったし、スピード展開で疲れたでしょう。

 お疲れ様です。そしてありがとう。

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巨乳大好き勇者(笑)は貧乳に囲まれている〜最強勇者(笑)は巨乳魔王を狩る〜 ネリムZ @NerimuZ

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