第2話 【SS】魔族襲来・オスカー視点

(なぜだ、なぜこうなった!)


 立ち上る炎に包まれ、王都が燃える。

 赤く染まっているのは火を照り返した空か、天に舞う血しぶきか。


 突然の魔族の襲撃。


 それは、これまで一度もなかったことだった。

 王太子エドガーは生まれて初めて経験する大惨事に狼狽していた。


(なぜ魔族が!! 奴らは神と王家の威光を恐れて、我が国に近づけないのではなかったのか)


 まったく見当違いな解釈。


 魔族が王都を攻めなかったのは、彼らの崇拝すべき姫の身を優先していたがために過ぎない。

 姫が解放された今となっては、これまで抑えていた憤怒を我慢する必要もなく、その力は存分に報復へと向けられていた。


「アーシア嬢は! 彼女は何をしている! 正式に"聖女"に認定されたはずだ。"聖女"の力をもって急ぎ魔族たちを退けさせよ!!」


 混乱の王宮内で叫ぶ王子の命令を、遂行出来る者はいなかった。


 なにせアーシアは。

 "聖女の徴"と呼ばれる腕輪を身に着けていた、公爵家の令嬢には。


 真っ先に魔族の矛先が向かっていたからだった。


 魔族に屈辱を強いた"神の腕輪"。

 それは魔族にとって怨嗟の対象であり、また"偵察の魔眼"をもってして、アーシアや王太子がルビィアにした仕打ちは、彼らに知れ渡るところとなっていた。


 実際にアーシアが聖女の力を欠片でも持っていたら。

 あるいはこの惨劇を、ほんの少しでも防げたかもしれない。


 またはルビィアを大切に扱っていたのなら。

 魔族の恨みは神にこそ向かい、人間への鮮烈な報復は抑えられていたかもしれない。


 相手を"取るに足らぬ小娘"と横柄に扱った。

 その報いが、思いもよらぬところから倍になって跳ね返って来た。


 しかし自らの招いた現実を理解することもなく、エドガーの意識は倒壊した柱によって遮断された。


 次に目覚めた時に、より凄惨な地獄が待っていて、この昏倒が唯一許された"最後の幸せ"だったということを。


 彼はまだ、知らなかった──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偽り聖女だと私が断罪されてから、わずか10日で王都が滅んだ話 みこと。 @miraca

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画