追記

 以上が彼の手記しゅきとなります。

 彼は押収おうしゅうされた映像をチェックした当局とうきょくの捜査員の一人でした。そうした経験があったからこそ確信に行き着き、真相を追い求めることを決意したのだと思います。

 しかし取材を重ねる一方でその動きがに発覚した場合を想定して、草稿そうこうを書き上げるたび筆写ひっしゃし、直接私に手渡してきました。


 今回彼に代わって現在手元にある七編をまとめ、こちらのサイトで公開した理由は、彼が残した言葉に従ったからです。


「もし自分に何かあったら手記を公開してほしい」


 昨日、彼は消息を絶ちました。もちろん自発的なものではありません。彼の部屋は彼と取材に関するPCのデータや物理的な資料だけが消えた状態で、未だに連絡も取れません。

 皮肉なことにこれで彼の推論は裏付けられたわけです。


 そしてもう一つ、くだんのスナッフフィルムが流出し、里香さんの言った「本来裁かれるべき人たち」の手に渡ったことも裏付けられました。

 というのは事件のあとに公開された数々の映画作品です。それらには彼がしるしたスナッフフィルムの内容に酷似こくじしたシチュエーションが散見さんけんされました。


 殺人鬼に追われて逃げまどい、最後にはめった刺しにされる少年。

 巨大なサメに食い殺される観光客。

 火刑かけいに処せられるジャンヌ・ダルク。

 生きたまま解体される拷問によって死に至る男性。

 クローゼットの中から猟奇的な殺害現場を見て恐怖におののく少女。

 五十年代を舞台にした映画で電気椅子にかけられる囚人。

 そしてレイプされる女性。


 いずれもスナッフフィルムを参考にしたと思われる演技や演出、特殊効果を含んでおり、またいずれもハリウッド製の大作や、シェアリングを手掛けるとされていた例の大手企業が配信している作品でした。

 彼が確信に行き着いたのも、これらを見た際、記憶にある映像との一致を見出したからに他ならないでしょう。


 しかし私が最も心を痛めたのはその作品たちに寄せられたこんな感想でした。


「芝居が大げさ」

「死ぬ前に騒ぎすぎ」

「死に方がリアルじゃない」


 ――

 現実感リアルとは一体何なのでしょう。被害者たちはみな現実に存在した人間であり、彼らが受けた凄惨せいさんな行為やその死はまぎれもない真実です。

 私にはあのスナッフフィルムを「教材」にしたであろう映画たちにおける、演出や演技や特殊効果、そしてそれへの感想が、被害者たちの尊厳や生命いのちまで否定し、冒涜ぼうとくし、酷評するもののように思えてなりませんでした。

 こんなことのために彼らは、彼女たちは犠牲になったのでしょうか?



 最後になりますが、このような至らない編集で手記を公開せざるを得なかったことをおびします。なにぶん時間がなく、私の身にもいつ危険が及ぶか分からない状況での作業でしたので悪しからずご了承ください。

 この投稿も近いうちに消されるかもしれません。それまでに一人でも多くの方が事件の真相を共有してくだされば幸いです。それが彼や被害者たちに対して私ができる唯一のなぐさめだと思いますので。

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シェアリング事件について 高島威美(たかしまたけみ) @takashimatakemi

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