決着! 砕けたボトルシップ!
糸をつまみ、引き、マストを寝かし気味に起こして固定。瓶を水平に置き直す。残るは細かな整形を施すのみ。時間が溶ける。吹き飛んでいく。
そして。
甲高い電子音が鳴った。
見れば、作業時間がゼロになっていた。
(向こうは――)
首を振り、晴海は愕然とする。
「そんな……本当に同じ時間で――!?」
異様に喉の長いボトルの中の、精巧なフィギュア。フルスクラッチの――、
「
美舞だった。塗装こそまだ不十分に見えるが、遠目でも美舞とわかる造形。
ポン、と晴海は肩を叩かれた。
「参っちゃうよね。ファンが多くてさ」
美舞がハンカチで鼻と口を覆っていた。
「えと、それで――勝敗は――」
「ボトルシップはキングオブホビー!」
茉莉が吠えた。
「王者の生死を定められる者は、神おいて他になし」
静寂。
ピシッ、と硝子が罅入る音がした。
音は急激に数を増し、無数の傷を入れていく。
罅入ったのは――
「そんな! なんで!?」
荒波を越えるジャッカスバークだった。
誰にいえばいいのか分からず、晴海は対岸を指さして叫んだ。
「だって! 向こうは削りカスがあんなに残っているのに! レジンだって造形がまだ乱れてる箇所が――」
「晴海ちゃん」
ポン、と美舞が晴海の肩を叩いた。
「上甲板、見てごらん」
「上甲板――?」
晴海は目を凝らし、
「――あっ!」
気づいた。上甲板の一点に残る極小の赤い粒。血痕だ。
美舞は優しく言った。
「削りカスは後から出せばいい。乱れた造形も削れば済む。でも、ボトルシップは組み上げてしまったら直すことはできない」
クシャァン――と、美舞たちのボトルが砕け散った。
美舞は振り向き言った。
「そんな顔しないで、晴海ちゃん」
「でも、私――」
「楽しかったでしょ? ボトルシップ」
「私――」
「もういいかしら?」
「勝負は私の勝ち」
「うん」
やりきった笑みを浮かべる美舞に、茉莉が言った。
「私は、あなたをもらう」
「――え!?」
「約束はキティ。もちろん、代償は払う。この右手で!」
茉莉が右腕を掲げた瞬間、爆ぜた。腕が。同時に美舞の姿が消え、対岸のボトルフィギュアに命が宿る――。
ボトルシップフィールドが砕けて消えた。残るは教室の喧騒のみ。
茉莉が、右腕を押さえて言った。
「もし次があるようなら、いずれ――」
彼女の足元には、まるで生きた人のような造形の、ボトルフィギュア美舞があった。
「美舞さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
泣き崩れる晴海の声は、ボトルの奥まで届きはしない。
*
闇のボトルシップ勝負に負けてしまった晴海は責任を感じてボトルシップ部への入部を決意する! しかし、ウォー・オブ・ボトルシップには五人が必要、晴海は新入部員集めに奔走する! 一方、美舞の魂をえた第二模型部では、もこことウィステリアが用済みの烙印を押され放逐される。最後のチャンスにともこが願い出たのは、晴海とのソロボトルシップ対決だった!
次回! 『もこの全霊! 連結ボトルのトラファルガー!』 アウトブレイク!!
海林! ボトルシッパー! λμ @ramdomyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます