10話

「おいすい、今日は出かける予定だろ、なにゆっくりしているんだ」

「外には行かない、いま外に出たら冗談抜きで倒れる」


 夏が苦手なのに積極的に連れ出そうとするから困る、だが彼のしたいことも分かるのがなんとも言えないところだ。

 これはつまり遅くなったが序盤に好きなようにやられたからだろう、だから自由にできるようになったいまはこういうことが増えているということだ。

 確かに最初の頃の私は悪い方にばかり考えて余計な選択をしていたからな、なんにも悪くないなんてことはないから仕方がないのかもしれない。

 しかし夏というのがそこで邪魔をしてくるのだ、秋とか冬だったらいくらでも付き合ってやるというのに……。


「プールとかに行けばいいだろ?」

「駄目だ、その場合はだらしない体をしているから駄目だ」

「なにがだらしないだよ、沖田にもいい体だって褒められていただろ」

「同性によるお世辞というやつだ、そのまま鵜呑みにして行動したら黒歴史になるのは確定――あっ、で、出ないぞっ」

「いいから行くぞー」


 何故家を好きになれない。

 確かに私と比べたら住み始めたばかりで慣れないところもあるのかもしれないがずっと避け続けていても前には進めない。

 誰がなんと言おうと両親が離婚することを選ばない限りはここが彼の家となる、だから積極的に逃げようとするのは違う。


「水着なら銀に協力してもらって持っているから大丈夫だぞ」

「それに付き合っているのに何故そういうことしかできないのだ? 水着や下着、そういう物で欲望を発散させずに本人に求めればいいだろう」

「ま、待て、別に変なことはしてねえからな!?」


 慌てるところが怪しい、異性に嫌われていたということが本当であれば頼っていてもありえないことではない。


「いいか? なにかしたくなったら私に求めてこい」

「お、おう」

「よし、それなら話も終わったからそろそろ帰る――意地が悪い人間だ」

「当たり前だ、行くぞ」


 何故嬉々として見せたがるのだ、漫画やアニメを馬鹿にできないことをしている。

 私が抵抗している間にも更衣室では新しく来た客が着替えて出て行く、子どもから大人まで全く気にせずに肌を見せていくわけだ。


「遅いぞすい」

「私からすればありえない人間が多くてな、男はその点、問題ないな」


 女側と違って問題もない、この施設だからこそそういうことになる。


「つか細すぎないか?」

「知らん、ここで留まっていてもあほらしいから行こう」

「待て、似合っているぞ」

「そうか、ならましなのかもしれないな」


 とにかく水の中に隠れてしまおう。

 私はこの時点から魚になるのだと内側で馬鹿みたいなことを呟いて移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

138作品目 Nora @rianora_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

143作品目

★0 恋愛 完結済 10話

142作品目

★0 恋愛 完結済 10話