09話

「そ、そういうのじゃねーから! ――っと、い、いたんだ」

「教師相手にいいのか?」

「いーんだよ、それより大千付き合って」


 付いていくと「見なかったことにしてっ」と急に言われた、とはいえ敬語を使っていなかったこと以外はなんら変なことではなかったから違和感が強くなる。

 あそこまで慌てるということは変な関係なのかもしれない。


「はぁ、実は……父親なんだ」

「そうなのかっ?」

「普通は分からないよね、でもやたらと心配性でさ……」

「親なら普通だろう、しかしそうか」


 あの苗字も名前も知らない男の教師の娘が彼女ということか、性別が違うから当たり前と言ってもいいかもしれないが似ていないな。

 逆に父があんな感じだから全く違うような状態にしたかったのかもしれない、そう考えればなんらおかしくはない。


「え、あの教師、萩生田の父親だったのかっ?」

「う、うん」

「えっ、萩生田さんのお父さんだったのっ? 私、すいにばかり構うから結構悪く言っちゃってきたんだけど……」

「あ、大千を見ていると昔の自分を思い出してしまうからだって言ってたよ、大千からしたら嫌だろうけど……」


 それよりもだ、どうしてこの二人が一緒にいる? 銀はとクラスに確認をしに行くと突っ伏して休んでいたから連れてきた、素子には必要だから勝手な行為とはならないはずだ。


「兄さんは忙しそうですからいまは僕がすいを独占しますね」

「「駄目だ」」

「じゃあ沖田さんは返してください」


 銀が素子を連れて行って「女たらしにしか見えない」と彼女は呟いていた。


「で、この子が弟?」

「私の弟だ、ちなみにさっきの男子も弟だ、義理だがな」

「なるほどね、だから珍しく興味を持ってんだ」

「彼氏だからな」

「「え」」


 事実だから仕方がない、あれから変わったのだ。

 となれば最初のようにはできない、余程のことがなければ変わっていく。

 彼女からしたら無駄な情報ではあるだろうがこのことで揶揄されたくないから先手を打っただけでしかない。


「へー、いーことだね」

「いいことかどうかは知らないが後悔はしていない」

「そっか、あ、邪魔になるから戻るね」

「気にする必要はないがそういうことなら」

「うん、またね」


 こちらもいつまでも廊下にいても意味はないからぼうっとしていた銀河の腕を掴んで教室へ向かう、同じクラスではないのが面倒くさいが仕方がない。


「後で行く、だから教室にいてくれ」

「おう」

「それではな」


 友が素子だけなのはこういうときに好都合だった。

 だから多分クラスが違うことにもメリットがあるはずなのだと信じておくことにしたのだった。

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