08話
「なんか日に日に弱っていないか……?」
「私のことは放っておけ、いつものことで慣れているから問題はない」
夏に弱るのは私にとって当たり前のことで、だがここまで生きてこられたわけだから一人でもなんとかできる。
なに、ゆっくりさせてくれればいいのだ、やることをやっているのだからそれ以外の時間は放置してほしい。
「慣れているって不味いだろそれ、沖田にも頼っていなさそうだ」
「私だけの問題なのに頼るわけがないだろう、いいから先に帰れ」
流石に夜になれば回復するから大丈夫だ、寧ろ近くにいられるとそれだけ回復しなくなるから逆効果になることを分かった方がいい。
いまも言ったようにこれは私が悪いだけで彼に原因があるわけではない、故に先に帰ったところでなにも影響を受けないからそうするべきだ。
「それなら家まで運んでやるよ、許可を得てからならいいんだろ?」
「……暗くならないと駄目なのだ」
「じゃあ暗くなるまで待つ、俺は一人で夜に帰らせたくないから残るしかないよな」
頑固な奴め、だが勝手に動かない分には成長しているということで強気にも出られなかった。
「そうだ、水を買ってきてやる――駄目なのか?」
「いるならじっとしていろ、じっとできないなら帰ってくれ」
「分かった。だけど手が熱くて心配になるぞ……」
「それは単純に個々で違うだけだ、元々基礎体温が高いのも影響しているのだろう」
こちらが寝て休んでいる間に勝手に行動しそうだったから腕を掴んだまま寝ることにした、残ることを選んだくせに起きたら消えていた……なんてことになったら気になるからでもあった。
これまでは一人でなんとかしてきたがこの時期は誰かにそばにいてもらいたいと強く思ってしまう、同性である素子にいてもらって後日なんらかの形で返すというのが一番ではあるが銀に夢中だから仕方がない。
それに最初はなんだったのかと自分でも言いたくなるぐらいには銀河のことを気に入っているからこれでよかったと感じている自分もいるのだ。
それより彼は家でぐうたらしているだけなのに何故かいい腕をしているな、これまで触れてきたわけではないがこれが男の腕かという感想を抱く。
「なあ、この前からこういうことが増えたけどさ、すいってもしかして俺のことが好きなのか?」
「……喋りかけられたら寝られないだろう」
気に入っているだけで好きというわけではない、少なくとも私から踏み込むようなことはしない。
だがもし彼の中にそういう感情があるのなら、ぶつけてきた際には受け入れるつもりでいる。
つまり彼が動かないのであればずっとこのままというわけだ、それならそれで落ち着けるから問題はない。
「だって急に変わったからさ」
「仮に私が好きだとして、言葉で伝えるのは恥ずかしいからこういうことを重ねているとしたらどうするのだ?」
心の底から好きになったら恥ずかしがらずにぶつけさせてもらう、だからまあいまのはあくまで冗談でしかない。
だってそうだろう、一瞬の恥を我慢するだけでなにもかもが変わるかもしれないのに恐れていても仕方がない、待っているだけで変わる人間もいるかもしれないがそういう存在ばかりではないから動くしかないのだ。
そのためこの前の素子の行動は私の理想と言える、本当に好きなら友達と戦うことになっても仕方がないと片づけられる……のかもしれないな。
私はまだ誰かのことを本気で好きになったことがないから争いたくない云々と言えるのだと思う。
「そうしたら驚く、なんだそりゃって言うだろうな」
「そうか。とにかく貴様のために早く寝て休もうとしているのだ、邪魔をしてくれるな――なんだ急に」
「やっぱり連れて帰る、ここだと邪魔が入るかもしれないから続きは家でやろう」
「ただ私に触れたいだけだろう」
「そう判断してくれればいいからじっと大人しくしていてくれ」
やれやれ、だが私としては動かなくて済むわけだからいいか。
まだまだ続きそうだから目を閉じて休んでいた、適度な揺れが心地よかった。
いちいち確認をしなくても動きが止まったら信号で止まったのだなと分かるし、歩き出せばまた戻ってきたそれに安心する。
「着いたぞ」
「もう終わりか、残念だ」
恥ずかしくなってついつい冗談を言っているというわけではなく心の底からそう思っただけだ。
「すいは早く寝た方がいい」
「そうするよ」
汗はあまりかけないタイプだから着替えてすぐに寝転ぶ。
なんだかんだ言ってもベッドの上にいられていると全く違う、少なくとも学校で突っ伏して寝るよりは遥かにいい時間となる。
だが部屋にまで移動してしまえば流石に銀河もいてくれたりはしないわけで、分かりやすく物足りない状態だった。
弱っているからなのか? それとも私自身が銀河にいてほしいと願っているのだろうか。
「水を持ってきたぞ」
「いてくれ」
「最初からそのつもりだけど、仮にここで断られていても言うことは聞いていなかったぞ」
しかし彼が私の理想通りの行動をしてくれる度に異性に嫌われていたと言っていたあれが嘘のようにしか思えなくなっていく。
嘘ならどうして無駄な嘘をついたのかが分からない、逆ならともかくわざと悪く言うのは違うだろう。
「ここに座っていてくれ、疲れたら寝転んでもいい」
「いや座っておくよ、寝たい時間まで寝ていいから回復させてくれ」
「銀河、どうして最初のとき女子から嫌われていた的な嘘をついたのだ」
気になることがあるなら真っすぐに聞けばいい。
「嘘じゃない、好かれてもいないのに好かれていたなんて嘘をつく方が糞だろ?」
「だが……」
「こうして相手のために動けるならなんでかってことか? そんなの相手がすいだからだよ。それに俺はすいが相手のときも失敗を重ねただろ、元々下手くそなんだよ」
「つまり……積極的に動けるが単純に相手に受け入れられなかっただけ……ということなのか?」
「全部言ってくれるなよ。そうだよ、単純にいい評価を貰えなかっただけだ」
彼は笑って「ま、優秀な弟である銀と比べられて歪まなかったのは俺がいい奴だからだけどな」と言ってきた。
「だから今回も同じ結果になるはずだった、なのに違ったんだ」
「はは、私が違うと判断するのは早いのではないか?」
自信満々に発言をしたりマイナス発言をしたりと忙しい、相手をする側としては困惑するからどちらにかにしてもらいたいものだ。
仮にそう思っていてもだ、もう少しぐらいは安定させるべきだと思う。
「だって女子から俺に触れてくる人間なんていなかったんだぜ?」
「……なんかそれだと私が変な人間みたいだ」
「実際にそうなんじゃねえの? 弟も近くにいるのに敢えてこっちを選ぶのはさ。賢い人間なら、俺と弟なら弟の方を選ぶ、みんなそうやってやってきたんだ」
「逆張り精神というわけではないが勝手にみんなの方に含まれるのは困るな、私も自分の気持ちを優先するよ」
その気もないのにみんなが言っているからということで合わせようとするのはその人物に失礼だ。
というか素子だってそんなことを求めてきたりはしない、それどころか「私とすいはいつも違うよねっ」と気持ちのいい笑みを浮かべるだけだった。
「大丈夫なら一緒に寝てくれ、無理なら出て行ってくれればいい。後者の場合は二度と出さないと約束する、だが前者の場合は寝て起きたときから変えると約束しよう」
「変えるってどんな風に?」
「自分から言っておきながら銀河が恥ずかしがっていたあのような行為も当たり前になるのではないか? 寂しがり屋を抱きしめて安心させることも普通のことになるかもしれないぞ?」
普通、ね、過去の私にこのことを伝えたらありえないと言いそうだ。
そもそも父が再婚することを選ぶということ自体にありえないと言うはずだ、仕事が大好きすぎるからそういう存在は邪魔になりかねないからだ。
「実際に寂しがり屋なのはすいもそうなんだよなぁ」
「それでいい、結局私は誰かといたいのだからな。それでどうする?」
「んー、すいを運んで疲れたからここで寝るかなー」
「そうか、お疲れ様だ」
それなら早く直さなければならない。
あと今度彼が似たような状態になったら運んでやろうと決めたのだった。
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