鈍った心を君の言葉が潤してゆく。手紙の代筆がつなぐ、願いと癒しの物語。

 圧倒されるような悲しみに見舞われたとき、人の心は麻痺するのだと聞きます。
 悲しみから立ち直り、前へ進むのは、簡単なことではないでしょう。

 本作の主人公、氷藤貴之の職業はフリーライター。副業として彼が営む「代筆屋」は、心の寄り添い思いを汲み取るというのが売りの、お手紙代行サービスです。
 インタビューに慣れていること、文章力があること、そして字が綺麗なこと。それを生かそうと始めた副業でしたが、突然に掛かってきたクレームの電話により、貴之は家に押しかけてきた看護師の女性を迎え入れることになってしまいます。

 そんな、双方わりと初対面は最悪な、出会いを果たし。
 しかし貴之は彼女、美優と一緒に依頼者の想いを聴き取ってゆくうちに、自分が忘れかけていた願いを思い出してゆくのでした。

 各章で描かれる「依頼人と代行屋のやり取り」と、章を追うごとに深まる「貴之と美優の関係」が、この物語の見どころです。
 「死に向き合う」という骨子が様々な形で描かれてゆきますが、重すぎず、軽すぎず。すっと入り込める共感性とともに、彼らの心と思いが変化してゆく様を見守ることができます。ぜひ、ご一読ください。

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