第3話 5
――エマさんが言うには。
アンジェリカは取り巻きの騎士課程男子を連れて、冒険者ギルドに現れたのだそうよ。
「……恐らくは、冒険者として活躍しているクレリア様に、対抗意識を燃やしているのでしょうね……」
ルシータが爪を噛みながらうめく。
「浅ましい女だわ。
魔獣退治を人気取りの手段と考えているのです!」
そう、ルシータは忌々しげに言うのだけれど。
「人気取りとかはよくわかんないけど。
アンジェリカが頑張れば、その分魔獣被害は減るんだし、良いんじゃない?」
わたしがそう応えると、ルシータは胸の前で手を組み合わせて。
「さすがクレリア様!
なんて懐のお広いお言葉!
なによりも民を第一に考えるそのお心、わたくし感動しましたっ!」
……うん、ルシータは今日も平常運転ね。
その間にも、クルツはルシータの想像をエマさんに説明して。
『――つまり、ルーキーとして有名になってきた、あなた達への対抗心で冒険者登録を?』
「……それしか考えられませんね。
彼女やその取り巻きは、冒険者の仕事なんて庶民のやることだって、普段から言ってましたから」
クルツは苦笑混じりにそう続けたわ。
『……ああ、それで――』
どうやらアンジェリカ達は、なにかやらかしたらしい。
エマさんの顔が不快そうに歪んでる。
『登録や活動について説明しようとしたのだけれど、彼女達――庶民でもできることをクドクド説明されなくてもわかる――って、断ってきたのよ!』
「――アンジェリカ以外の取り巻き共も、元を質せば庶民じゃろうに……」
アンジェリカの取り巻きをしてる騎士候補達は、革命で成り上がった新貴族だものね。
親が運良く貴族に成り上がっただけなのに、その子供はすっかり貴族顔してるというのも、この国の歪みだってイフューが言ってたっけ。
エマさんの言葉に、クルツも顔を手で覆ってため息。
「それで、彼女達は?」
『登録を終えて帰ったわ……』
「――受理したんですか!?」
『仕方ないでしょう? 騎士課程の生徒がパーティーを組んで来ている以上、ルール上は問題ないもの……』
「ですが、王族ですよ!?」
『王族で冒険者登録した例は、過去にいくつもあるのよ。
――なにより、部長がね……」
心底不快そうに、エマさんは舌打ち。
「――王女派なのよ……」
「……王女派?」
わたしが首を傾げると。
「今、王城はいくつかの派閥に分かれてるんだ。
主流は僕の父がトップの議会派――議会中心に政治を行おうっていう派閥だね。
対抗として王族派っていうのがあるんだけど……」
クルツはわかりやすく説明する為なのか、両手を挙げたわ。
「その王族派も、さらにふたつに分かれててね。
ひとつは陛下をトップとした国王派。
そしてもうひとつは、若手を中心としてアンジェリカを担ぎ上げてる王女派なんだ」
クルツが言うには、国王派は議会派と協調しつつも、時に専横しそうになる議会のストッパーとなる為に生まれた派閥だそうよ。
一方、王女派というのは――
「王族と新貴族だけで政を行い、庶民や旧貴族を議会から排除しようという連中じゃな」
「その人達は、なんでアンジェリカを?」
わたしの問いに、ニィナは肩をすくめて苦笑する。
「いわゆる『神輿は軽い方が良い』ってヤツじゃ」
テラリス社殿の斎祀からもじった言い回し。
あー、アンジェリカが考えなしだから、操りやすいってことね……
冒険者ギルドは国の干渉は受けないけれど、働いてるのはその国の人だもんね。
「ギルドの理念も、個人の思想までは取り締まれない、か……」
悔しそうに唇を噛むクルツ。
『そんなワケで、彼女達は明日からオズワルド樹海に入るらしいわ。
君達も明日はいつも通り向かうんでしょ?』
「ええ。ちょうど計画を立ていたところです」
クルツがうなずくと、エマさんは深々と頭を下げる。
「申し訳ないけど、気にかけてやって頂戴。
さすがにいきなり深部まで行くような事はしないと思うけど……」
エマさんが頭を下げるのは、なんか違うと思うのだけど。
部長さんがどうこうって言ってたから、ギルドとしてのしがらみとかがあるのかしらね。
クルツが伺うようにわたし達を見回し。
わたしはすぐにうなずいたんだけど、ニィナとルシータは不承不承って感じだったわ。
ソエルはそもそもこういう時はルシータに従う。
わたし達の反応を見て、クルツはうなずきひとつ。
「……わかりました。
もし見かけて、危なそうなら声をかけるようにしますよ」
『――ありがとう。それじゃ、また……』
そうしてエマさんはもう一度頭を下げて、
「――ホント、好き勝手やってくれますね!」
ルシータがぷりぷり怒って、そう声をあげる。
「まあまあ、さっきも言ったでしょ。
魔獣を討伐する人が増えるのは、良い事なんだから」
と、わたしはルシータに抱きついて応えたわ。
んふふ。ルシータもニィナほどじゃないけど、ビックなお胸の持ち主なのよね。
抱きつくと、ふかふかで気持ちいいのよ。
「ク、クレリア様! い、いけません!
わたくしなんかにそんな――サービスがしゅぎましゅ……」
いつものように鼻を押さえて、ルシータは上を向いちゃう。
はじめの頃は、わたしがくっつくだけで目を吊り上げてたソエルも、すっかり馴染んだのか、この程度じゃ文句を言わなくなってる。
だからわたしは、ルシータの柔らかな感触を堪能しまくるのだわ!
「――それじゃあ、エマさんの要請に応える為に、明日は一層をぐるりと回りながら、二層を目指すって事にしようか?」
「……仕方ないな。
だが、いざという時は私は聖女様の安全を優先するぞ?」
「ああ、君はそうしてくれ。
アンジェリカにも騎士課程の生徒がついてるんだ。
そうそう僕達が手を出す事はないと思うよ」
「――だと良いがのう。
バカってのは、常人が思いつかない事しでかすからバカなんじゃぞ?」
ニィナの言葉に、クルツとソエルが吹き出す。
それから細々とした事を決めていって。
「――あ、あのあのあのっ!
クレリアさまぁ……ご褒美がしゅぎましゅよぅ……」
わたしはその間、顔を真っ赤にして、あうあう言ってるルシータのお胸を揉み倒したわ。
ボリュームと重量のニィナ。
弾力と柔らかさのルシータ。
甲乙つけがたい、二大巨塔だわ。
日頃からこれだけふたりを揉みまくってるんだから、きっとわたしにもご利益があるはずよ。
やがて窓の外が茜色に染まり始めて。
ようやくクルツ達は、満足行く計画ができあがったみたい。
ルシータのお胸に夢中で、しっかり聞いてなかったけど、クルツの指示通りに行動してれば間違いないでしょ。
オズワルド樹海は、最果ての森に比べたら、雑木林みたいなものだしね。
わたしが気をつけるのは、パーティの和を乱さない事――その一点。
これでも空気は読めるつもりなのよ?
「さ、それじゃ、今日はここまでにしようか」
クルツがそう言って荷物をまとめ始めて。
「そだね。じゃ、帰ろっか。
わたし、お腹空いちゃったわ」
そう告げると、みんなが苦笑を見せる。
「――ああ、そうじゃ。ルシータ。
メシの後で話があるから、あたしの部屋に来てくれ」
と、ニィナが鞄を手にぶら下げながらそう告げると。
真っ赤な顔でニヤニヤしていたルシータの表情が、不意に引き締まる。
「ええ。わたくしも計画を詰めないといけないと思ってました」
「――なんじゃい。一応、頭は回っとったんじゃな」
「……他ならぬ、クレリア様の為ですもの!」
「ん~? わたしの事?」
わたしが首を傾げると、ふたりはぷるぷると左右に首を振って。
「アンタは良いんじゃ。
あたしらでうまい事まとめてやるから」
「そうそう。ささ、クレリア様、参りましょう。
お夕飯が待ってますわ!」
ルシータに背中を押されて、わたし達は教室を後にする。
……なんかうまく誤魔化された気もするけど。
どうせ政治がどうとか、小難しい話をするんだろうから、気にしない事にしたわ。
それよりもご飯よ!
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呪われ王女は復讐したい!~大賢者と元聖女による世直し革命~(※なお、王女様は本日も何も知らされておりません!) 前森コウセイ @fuji_aki1010
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