原作のシナリオという運命を超えて

 作中で2000年台に話題になったというライトノベル「さいげんガール!」。
 そのラノベの「正ヒロイン」朱夏が突然ラノベ大好きなだけの「モブ」である周の前に現れるというところから始まるこの物語は、よく出来たラブコメと思って読み進めていくと突然の異世界ファンタジー要素に殴られる、という嬉しい驚きを味わえます。
 
 プロローグにあった、二人が思いを通じ合ったキスを交わす瞬間(周はこれでお別れだと確信している)、二人が異世界に転移されてしまう……という展開があまりにも気になってこの物語を追っています。しかし、少しずつ進んでいく二人の関係性、周が気づいていない他の女の子たちの想い、朱夏と関わることで化学反応を起こし周の学園生活も鮮やかに彩られていく、というラブコメ部分もとても魅力的で、それに満足していたらスピンオフに繋がる衝撃的な展開が……!?という良い意味で裏切られ、ますます今後の展開から目を離せなくなったいます。ラノベから飛び出してくるヒロインが、周の好きな「負けヒロイン」ではなく、嫌い(だった)である「正ヒロイン」なのもよいですね。

 そして、「さいげんガール」のシナリオでは大勢の前で自分の本来の性格をさらけ出せずずっと仮面を被って学校で生活している朱夏。
 周は自分では「原作主人公」の「木鉢中」と同じようには朱夏を支えられないと思い込んでいますが、運動会の場面で原作のようにこけかけた彼女がクラスの皆のためにと持ち直したように、「周」が彼女と関わることで「中」と過ごす原作の出来事ではなしえなかったことが出来ているというのが素晴らしいです。
 原作という「運命に定められたシナリオ」を変えていけるのは「原作主人公」ではなく今、彼女と一緒にいる「周」でしかいないことは明白であるため、今後もこの「さいげんガール」という定まれたシナリオを超えた物語を見守っていきたいと思います。

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