第40話 安男 終

「――嫌なニュースばっかりね」


「そういうのがウケるんだろうな」


「みんなに優しくできないのかしら」


「余裕が無いんだろ。自分のことで精一杯なんだ」


「どこも一緒ね。やな世の中」



 ……。



「――最近腰はどう?」


「良くなってきた。桂子の介抱のおかげだよ」


「またそんな。何も出ないわよ」


「いつもありがとう。感謝してる」


「私も。あなたと結婚して良かった」



 ……。



「――ほんと、どうすればいいのかしら」


「しばらくそのままにさせたらいい。休みも必要だ」


「そうは言ってもねえ」


「教え子が亡くなったんだ。しかも二人だぞ。気が抜けてもおかしくない」


「こういうのは本人が一番詳しいはずなのに」


「優しい子だから、頑張りすぎたんだ。みんなで支えてやろう」


「そうね。でも犯人は義理の父親だなんて。やっぱり血が繋がってないから」


「滅多なことは言うもんじゃない。それに犯人だって決まったわけじゃない」


「はいはい分かりました。そろそろご飯作らないとね。って、来たみたい」




 ――ばんは。今日も――――――ます。

 いつも――――――――も――てる――――わ。

 私には――――――――ので。――――――じゃま――――




 ……。




「来たよ、安男」




 ……。




「近くにいるから。もう逃げないから」


「唯ちゃん、いきなりで悪いけど、ちょっと手伝ってくれる?」


「はーい、今行きます」




 ……。……。




「――本当にお料理上手ですね。私も頑張らないと」


「そうよ。料理は女の武器。大事なことなの」


「桂子そういうの、今はあんまり言わない方が」


「何言ってるの。自分は手伝わないくせに」


「それを言われると、なあ」


「ふふふ」


「あはは」




 ……。……。




「ふぅ。とっても良いご両親だね。私も好きになっちゃった」




「茉希名を助けられなくてごめん。まさか、あんなことになるなんて。でも安男は悪くないよ。だから、待ってるから」




「好きな人とはずっと一緒に居たいでしょ。だからここに居るの。ずっと一緒だよ」




「私決めた。あなたと結婚したい。重い女って思う? そうなのかも」




「もう嘘はつかないから。約束するから。だから私を愛して」




「ねえ安男。早く良くなって。私を治すんでしょ。治してよ」



「愛してるよ、安男。私はあなたを愛してる」



「結婚しよう。早く夫婦になりたい。あなたと結ばれたい」




 ……ゆい。……。




「――おかあさん、お疲れでしたら、肩でも揉みましょうか」


「あらそう? じゃあお願いしようかな」


「はーい。あれ、全然凝ってないですね。まだまだお若いから」


「おべっかは結構ですよ」


「本当ですよ。すごい美人だし、憧れちゃいます。こんなおかあさんに、なれたらいいなって」


「唯ちゃん、ちょっと強いかも」


「……ごめんなさい」



 ……。……。……。



「安男、こっちを見て。私を見て、嘘かどうか確かめて」



 ……唯。



「安男、愛してるよ。私と結婚しよう。幸せになろう」



 安男は虚ろな眼を緩慢に持ち上げて、その顔を見た。唯の二つの瞳が、いつもより美しく輝いている気がした。






〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黄色の子供たちへ 厳島くさり @kusari5555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ