第31話 レヴィアVSアスモデウス


『あ〜、オレのマイクパフォーマンスだけじゃあもう無理だし、棄権ってみなしていいか? 途中でオレの代わりに盛り上げてくれた敗退者のみんなには悪いけどよぉ』


 闘技場では観客の野次を受けながらも選挙管理委員会がなんとか場を繋ごうとしていた。

 しかし、それもそろそろ限界に近づいていたようだ。


「ふっ。待たせたな」


『おぉ!? いつの間にかステージにアスモデウス・ラストが立ってるぞ!』


 気配を消してこっそりステージに登った俺は何食わぬ顔で髪をかき上げる。

 イブキを移動させたのは良かったが、奴の返り血で服が汚れたので血抜きに時間がかかった。


『テメェ、いったいどんだけ長い大便をしていやがったんだ!』


 あぁ、そういえばそんな理由で席に離れていたな。


「うんこが中々流れなくてな。トイレを修理して掃除までしていた」


『……あっ、逃げ出したとかじゃなくてガチなんだな。お腹大丈夫か?』


 冗談のつもりで言ったのだが、実況席から本気で心配するような声が届いた。

 救護班が腹痛に効く薬を持ってこようとしたのでやんわり断っておく。

 嘘だと訂正するのも面倒だが、明日からの俺のあだ名がうんこマンとかにならないだろうな?


『役者が揃ったところでお待ちかねの準決勝第二試合を始めるぜ! さぁ、アスモデウス・ラストが戦うのは冷酷無慈悲な氷の剣士レヴィア・スノウフェアリーだぜ!』


 紹介を受けて控え室へと続く通路からレヴィアが姿を現した。

 彼女には随分待たせるという悪いことをしてしまったな。

 長い前髪に隠れて表情が見えないが、もしや怒っているのか?

 どうやって機嫌を取り戻すか悩んでいると試合開始の合図があった。


『デュエルスタート!』


 まずはレヴィアの出方を窺う。


「〈氷結監獄アイスプリズン〉」


 彼女は体内の魔力を高めるのと同時に氷の剣を地面に突き刺した。

 これは俺も知らない魔法だ。

 パキパキとステージ上が凍り、半球型の結界を丸ごと氷が覆った。


『なんだこれは!? 中の様子が全く見えないが、これでは流石のアスモデウス・ラストも身動きが取れないだろう!』


 実況が好き勝手な言ってくれるが、これしきのことでは俺は止まらない。

 黙って待つだけでは凍りついてしまうのである技を使う。


「〈振動熱バイブレーションヒート〉」


 足先を凍り付かせようと冷気が忍び寄るが、そうはさせない。

 人間を含む生物は寒さなどで体温が下がった時に身震いをすることで熱を発生させ、体温を保とうとする。

 これをジバリングというが、レヴィアの放つ魔法による冷気はそんなものを容赦なく敵を氷像へ変える。


「俺のジバリングは特殊でな。体内で生成した媚薬を併用することで体温を維持して短時間ならばどんなに寒くても動ける」


 魔力と体力の消耗が激しいのが欠点だが、元々は戦闘用に身につけたものではないので勘弁してもらいたい。

 寒冷地で女と夜を共にする際にムスコが勃たないと困るから編み出した技なのだ。

 意外と小刻みに動く振動が好評だったのもあり、修行の末に戦闘に応用が効くようになった。


「さぁ、どうするレヴィア?」


「…………」


 無言のまま彼女は剣を振り回した。

 剣筋は寸分の誤差なく俺の心臓を貫きにかかる。

 あくまでこの戦挙は試合形式で行われているので殺しは無しだ。

 フェイトの魔法ですら相手に大火傷をさせるだけにとどまり、正面から受けても学園の医療班なら治療できるギリギリのラインになっている。

 だというのに、このレヴィアの剣は確実に俺を殺しにきていた。


「そんなに俺に怒っているのか!?」


 遅刻して申し訳ないとは思っていたが、本気で殺しにかかってくるなんて想像していなかった。

 自分の女を待たせて他所の男に会いに行ったのは流石に不味かったのか。


『レヴィア・スノウフェアリーの猛攻が敵をズタズタに斬り裂く! 寒さでアスモデウス・ラストの動きは鈍いぞ!!』


 結界と氷の膜越しに聞こえてくる実況。

 どこに目をつけているんだ?

 俺はこの通り紙一重でレヴィアの剣を避け続けているというのに。


「……?」


 無言のまま彼女が首を傾げ、自分の氷剣の切れ味を確認する。


「どうして当たらないのか不思議か? 残念だがそんな殺気丸出しな攻撃すれば急所狙いがバレバレだ。あとはそれを意識して回避すればいい」


 首や心臓などをわかりやすく狙ってくるので対象が簡単だ。

 ある一定の達人よりド素人の方が戦いにくいのは狙いがデタラメでわかりづらいからだという。


「さて、俺の知ってるお前はそんな戦い方をする女の子ではなかったはずだぞ」


 ここでようやく俺は違和感に気づいた。

 学園の中で一番レヴィアと正面から戦い、彼女に修行をつけていた俺だからこそわかった。


「俺の知るレヴィアは相手をなるべく痛めつけないで戦闘不能になるよう行動していた。氷漬けにするのも敵に血を流させないためだ。痛みに敏感だからこそ思いやりを持って戦う。不殺という志しを持っていたから俺は戦いの終わらせ方をお前に教えた」


 レヴィアの目指した強さは敵を抹殺するための殺意に満ちたものではない。

 自分を変えたい、自分を否定してきた者を見返してやるための強い意志だ。

 だからそれ以上を彼女は望んでいない。


「答えろレヴィア。今のお前はどこにいる?」


 剣に魂は乗っていない。

 凍てついたこの空間は俺を殺すために何者かがレヴィアの魔法を捻じ曲げて発動させた。

 監獄が、檻が、閉じ込められることが怖いものだと知ってる彼女ならばこんな結界は作り出さない。


「俺の女に手を出すとは命知らずな奴め」


 ジバリングによって発せられる熱が高くなった。

 心臓が、体がうねりをあげて魔力を回す。


「少し痛いかもしれないが、必ずお前を助け出してやる」


 この状況を打破するにはまず、殺すつもりで俺を狙う彼女を無力化する。

 氷魔法の扱いに長けたレヴィアにとって足元が凍っているのは自らのパフォーマンスを向上させるための好都合な場所だ。

 滑らかに氷の上を移動する姿はまさしく氷の妖精と言える。

 そんな者を相手に踏ん張りながら戦っては試合に勝てない。


「〈愛の潤滑油ラヴローション〉」


 靴と靴下を脱ぎ捨て、素足になった俺は足元からよく滑る粘液を分泌する。

 冷気で凍らないように調整をした温感仕様だ。


「──ッ!」


「さぁ、二人でワルツを踊ろうか」


 氷を滑るレヴィアと粘液を滑る俺の動きは全くのシンクロを見せている。

 付かず離れずの間合いを保ちながら〈色欲の魔眼〉で注意深く観察した。

 彼女の体に変なものが付着している様子もなく、変なものを飲まされたわけでもなさそうだ。

 これなら気絶させて拘束すれば問題ないな。

 ならばあの魔法の真価を発揮しよう。


「〈照準スコープ〉」


 大体の動きは見切った。

 レヴィアの体を流れる魔力を見て秘孔の位置の特定を終える。

 俺が反撃の準備をしたというのにらしくない冷酷無慈悲さで攻撃を仕掛けてきた今がチャンス。


「〈一撃絶頂突きウィークヘブンショット〉」


 ヘルスパイダーに使ったものとは違う、生物を破壊しないよう加減した魔王の手捌き。

 より効果を発揮させるために目にも止まらぬ速さでレヴィアのシャツのボタンをちぎり取って、へそした辺りを指先で高速ノック。


「〜〜〜っ♡」


 直後、氷の剣を落とした彼女が体を痙攣させて恍惚とした表情のまま崩れ落ちた。

 痛みはない気持ちよさで意識を途切れさせることに成功したぞ。


『これは勝負あったか? 立って残っているのはどっちなんだ!?』


 術者が気絶したことにより魔力の供給が止まり、氷で包まれた氷が溶けていく。

 俺は主人を失った氷の空間を力強く殴って破壊した。


『は? な、なんと、立っているのはアスモデウスの方だ!! レヴィア負けたり!! 相手の有利な場にも関わらず勝利したのはアスモデウス・ラストだったぜ!』


 ようやく観客の姿が見えるようになり、会場はざわめきたった。

 氷の監獄が発動した時点で勝負が決まったとおもっていたな?

 歓声でもなく、ブーイングでもない困惑したような声があちこちから聞こえる中、俺は彼女が変な目で見られないよう濡れた体を自分の服で包み、ステージから抱きかかえて降りるのだった。



















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※近況ノートに大事なご報告があります。(2022.12.29)

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エロゲみたいな色欲魔法で成り上がり〜転生して帰ってきた魔王、学園でハーレム作ります〜 天笠すいとん @re_kapi-bara

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