79.高山病対策は?

 三人を改めて部屋に寝せてから、彼らのことをどうするか話し合うことにした。

 保護が前提で、南の国に帰すのが最終目標だが、今回はゴートの肉を食べさせるかどうかである。


「そういうのは男性陣で決めてね~」


 中川さんにひらひらと手を振られてしまった為、テトンさん、ムコウさんに相談した。


「高山病、というのは知りませんが、確かに私たちはここに来てからしばらくの間頭痛がすることがありました」


 テトンさんが言い、ムコウさんが頷いた。

 それは高山病の症状だろう。以前高山病になった人は、2000m以上の山に登った時ずっと頭痛がすると言っていた。けれど降りてしまえばすぐに治ったというから、高山での酸素の薄さが問題なんだろうな。

 普通元気な人は高山病になりやすいと聞いたけど、森の魔獣やヤクの肉を食べている俺たちはなんともない。そう考えるとかなり人間離れしてきたなと苦笑した。


「今は大丈夫ですか?」


 尋ねると、二人は頷いた。


「おそらく、ですが……ヤクやゴートだけでなく森の魔獣の肉も食べさせていただいていたのでここで暮らしていてもなんともないのだと思います。以前に比べて本当に身体が軽く感じられます」

「……ここでしばらく暮らすことを考えると、ゴートの肉ぐらいは食べてもらった方がいいのかもしれませんね……」


 テトンさんとムコウさんが言う。

 南の国の人にゴートの肉ってあげていいもん?

 一応段階を踏んであげた方がいいんだろうけど、ゴートの他に少し能力が上がる食材ってあったかな?

 家の隣の林の中にいるヤマネズミの肉はあまり提供したくないみたいだけど。


「じゃあ、様子を見て少しずつ食べてもらいますか……」

「その方がいいと思います」


 ということで三人にはゴートの肉を使った料理を食べてもらうことになった。


「森の近くに住んでいれば森の魔獣を食べているなんてこともあるでしょうが、彼らはどうなのでしょうね?」


 テトンさんの疑問はもっともだ。

 でも食べてもらわないことには高山病の症状はなくならないだろう。一晩寝れば多少は緩和するかもしれないが、またならないとは言えないし。

 それっぽい症状になったことがないわけではないが、短時間だったからよくわからないんだよな。

 話を終えてチェインを家から回収し(その際にゴートの肉を彼らに食べさせるという話はした)、山を少し下った。枝を拾ったり木を切ったりして薪を作る。


「にーちゃん、俺狩りがしたい!」


 どうしてもチェインは狩りがしたいらしく、自分用の弓を持ってきた。


「うーん、また明日な」

「約束ね!」

「わかった」


 作業をしていたら家の方からいい香りがしてきた。


「これは、なんの匂いですか?」

「カレーですね」

「先ほど言っていたカレーですか」

「食欲を誘う匂いですな」

「なんかおいしそう!」


 おいしいものをおいしく食べるぞーと、薪づくりをがんばった。

 夜と言わず、カレーは昼ごはんになったみたいだ。


「お昼ですよ~」


 家の前の木で作った椅子には、すでに南の国の三人が座っていた。少し居心地が悪そうである。


「調子はどうですか?」

「大分、よくなりました……」

「申し訳ない」

「……すみません」

「謝ることはないですよ。みなさん山に登られたことってあります?」

「山、ですか?」


 三人は顔を見合わせた。どうやらないらしい。


「高い山に登ると苦しくなったりするんです。みなさんの症状はそれと似ているので、よく休んでよく食べればよくなると思います」

「ありがとうございます」


 彼らから離れ、ダンボールを敷けばそれまで俺の首におとなしく巻きついていたミコが顔を上げた。


「今用意するからなー」


 イタチたちにはヤクとネズミモドキ、そしてクイドリの肉を出した。彼らにはなんの憂いもなく過ごしてほしいから。俺のところにイタチたちが突撃してくるのを見て、三人はなんとも言えない顔をした。なんでイタチ? とでも思っているんだろう。


「お待たせ~」


 中川さんが寸動鍋を持ってきた。一気にカレーの香りが広がる。


「今回はゴートの肉を煮込んでみたの。食べてみて~」


 みな自分の皿を持ってごはんとカレースープをよそってもらった。


「こ、これは……」

「これはスパイスか?」

「複雑だけどおいしい……」


 みなそれぞれ感想を呟いている。カレーは理屈ではないと俺は思うのだ。

 女性陣はやってやったと言うように胸を張っている。おいしいごはんいつもありがとうございます!


「うまああああああ!!」


 これだよ、これ! やっぱカレーは正義だ。カレーしか勝たん! あ、これ前に唐揚げでも言った気がするけどやっぱカレーだな。カレーに唐揚げとか付いてたらもう最強だなとか勝手なことを思いながら、


「おかわり!」

「あ、にーちゃんずるーい!」

「うっせ、早いもん勝ちだ!」


 とっととおかわりをもらった俺だった。

 その後はもう戦争だった。

 寸動鍋に大量に入っていたカレーは、全員で食べつくしてしまった。


「……山田君、またカレー粉出してもらってもいいかしら?」


 さすがに一回では使い切らなかったようだが、それでも半分ぐらいは使ってしまったらしい。


「……水筒次第かな」


 さすがにぽんぽこりんなおなかを抱え、呟いたのだった。


次の更新は12/4(水)です。よろしくー

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2024年12月4日 12:01 毎週 水・土 12:01

【書籍発売中】準備万端異世界トリップ~森にいたイタチと一緒に旅しよう!~ 浅葱 @asagi

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