78.山の上の日常は非常識?

 急いで準備を整えてドラゴンの元に戻り、その背に乗せてもらう。

 それを南の国の男性陣が見て、口をあんぐりと開けた。


「もう少し下がってもらっていいですかー?」


 ドラゴンの身体にロープを巻き付けて縛り、それに掴まってからマーズさんとウラヌスさんに声をかけた。彼らはやっと正気にかえったようで、じりじりと後ろへ下がった。背を向けたら食われると思ったみたいだ。

 でも昨日もドラゴンの姿って見てなかったかな。体調が悪かったから周りを見る余裕がなかったのかもしれない。昨日はドラゴンも洞窟から出てはきたけどあまり動かなかったし。

 そんなことを考えながら、「行ってきます」とテトンさんたちに声をかけた。


「ヤマダ様、ナカガワ様、いってらっしゃいませ」


 テトンさんとムコウさん、チェインが手を振ってくれた。チェインは楽しそうに両手を振っている。無邪気でいいよなー。

 ドラゴンがいつも通りドタドタと走り、バサバサッと翼を動かして飛翔した。旋回して山の上に向かう。

 それでまた思い出した。

 俺たちが住んでいるところって2000mは超えてると思うんだけど、南の国の面々は大丈夫なのだろうかと。

 帰ってから聞いてみればいいかと思い、すぐにヤクのいるところに着いたので狩りに勤しんだ。


『そなたのカバンとやらは本当に便利じゃのう』


 思う存分暴れられたせいか、ドラゴンはご機嫌だった。気の毒なのはヤクである。

 つーか、絶対かなわない相手(ドラゴン)なのに突撃してしまうのは何故なのか。


「森の魔獣は避けていくのに、なんでヤクは突進してくるんだろうな?」

「そうね。そういう生き物なんじゃない?」


 中川さんは首を傾げて言った。そうなのかもしれない。謎がいっぱいだ。

 今日はヤクを六頭と、でっかいネズミモドキが五頭狩れた。だから、こんなに狩ってどーすんだっつーの。俺のリュックに入るからって狩りすぎじゃね? そう思いながら、帰りは中川さんと坂を駆け下りた。

 標高が高いからあまり木々は生えていない。だから家のあるところまで下る分にはそれほど障害物もなくて駆けやすい。どっかに引っかからなければ、どこまでも気持ちよく駆けていける。

 家の近くに着けば木々がそれなりに生えてるところもあるんだけど。

 当然ながらドラゴンが先に着いていた。


『肉を出せ』


 着いた途端言われて苦笑した。


「はい」


 ドラゴンの前にヤクを一頭丸々出す。


「えええええ~~~~っっ!?」


 驚愕の声が響いて、何事かとそちらを見ればマーズさんとウラヌスさんが俺たちの方を見て口をあんぐり開けていた。

 あー、と思ったけど、どうせ隠し続けることはできないだろうからしょうがないかなと思った。

 ドラゴンは嬉しそうに肉にかぶりついた。ミコが俺の首から顔を上げる。


「うん、ちょっと待って」


 前に切り分けておいたヤクの肉をリュックから出して、ミコとカイに出した。それを見てテトンさんたちの首に巻きついていたイタチたちもキューッ! と鳴いて駆けてきた。

 慌ててヤクの肉を追加する。そして鳴き声に反応したのか、家の中にいたケイナさんたちの首に巻きついていたイタチたちも出てきた。

 結局イタチ全員にあげることになった。

 まぁおやつだからいいけどな。

 ミコは一欠けら食べると、俺のリュックをかりかりと引っかいた。


「あ、そうだな」


 水筒を出すと中川さんが満面の笑みで近づいてくる。

 今日の調味料はなんだろうか。

 ジャジャーン! 本日の調味料はカレー粉だった。


「これ、カレー粉よね!」

「カレーが食える!?」

「やったー! 山田君、今日はカレーパーティーよ!」


 中川さん、大喜びである。俺も負けないぐらい嬉しい。ミコは少し粉を舐めると、ぺっぺっと吐き出した。口に合わなかったらしい。そして俺の鼻を軽く甘噛みした。微妙に痛いので止めてほしい。

 舐めさせてすみませんでした。


「カレー? とはなんですか?」


 俺たちが騒いでいたせいか、みな集まってきた。以前クミンが出た時はすぐにわかってくれたけど、カレー粉っていろんなスパイスを調合して作った物だからそういうのはこの国にはないんだろう。少し残念に思った。

 確認すると、南の国にもないみたいだった。


「ルーじゃないからちょっと作り方を考えないといけないけど、少なくともカレースープみたいなのは作れるわよね」


 中川さんがにこにこしながら言う。そして女性陣はカレー粉を持っていくことにしたみたいだ。今日はカレーが食べられるらしい。よしっと拳を握った。

 女性陣の最後尾にいたマーキュリーさんの身体がふらりと揺れたのを見て、あ、と思った。

 急いで駆けつけて彼女の身体を支える。


「大丈夫ですか?」

「……す、すみません……なんだか、息が……」


 顔が紙のように白くなり、ゼエハアと荒い息を吐いている。マーズさんとウラヌスさんもその場でへたり込んだ。


「もしかして、高山病?」


 酸素ボンベとかないよな。いくらなんでも中川さんも持ってきてないだろう。高山病って、一応ひと眠りすれば軽減するんだっけ? それも人によるのかな。

 テトンさんたちが慌ててウラヌスさんとマーキュリーさんを介抱している。そういえばテトンさんたちもここに来たばかりの頃は頭痛がするようなことを言ってた気がする。

 これは少しでもゴートの肉を食べてもらった方がいいかもしれないと思ったのだった。


次の更新は、30日(土)です。よろしくー

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