77.相変わらず情報は足りていない
翌朝、例の三人はかなり回復したらしく何か手伝いをさせてくれないかと申し出てきた。
「手伝い、ねえ……何か得意なこととかある?」
ケイナさんが首を傾げて聞く。
三人は顔を見合わせた。三人共南の国の出身だが、面識はなかったらしい。昨夜話をしていてそれを知ったケイナさんはマーキュリーさんを自分の部屋に引き入れ、テトンさんを俺たちの部屋(今は南の国の面々に提供している)に突っ込んだそうだ。そこらへん確認していなくてすみませんでした。
「料理であれば、少しはできますが……」
マーキュリーさんがおずおずと言う。男性陣は薪割りなら任せてくれと言う。
「じゃあ、一緒にやりましょうか?」
ケイナさんがマーキュリーさんの手を取り、テトンさんが男性陣を連れて行こうとした。そういえば聞いていないことがあったのを思い出した。
「すみません、先に一つ確認をさせてください」
「なんでしょうか?」
ウラヌスさんが不思議そうに足を止めた。
「南の国の人たちは魔法が使えない人が多いと聞いていますが、貴方たちはどうなんでしょうか?」
一応視界の右端にマップを出したまま聞く。この質問で、嘘を言うようなら色が変わるのではないかと思ったのだ。
「……私は使えません」
「私も使えません」
「私もそうです」
全員使えないという返答だった。それに俺は頷く。マップの黄色は変わらなかった。ということは本当に使えないのだろう。
「ありがとうございます」
「その……使える方がお役には立てると思うのですが……私共の国では使えない方が普通でして……」
ウラヌスさんに恐縮されてしまい、俺は慌てて弁解した。
「いえ、使えるか使えないかだけ確認したかったんです。北の人たちは使える人が多いので!」
中川さんがじっと俺を見る。なんでそれを確認したかったの? と聞いているみたいだった。
「北の国の方からすれば、どうやって生活しているのかと思うみたいですね。ですが私たちの国では魔獣もそんなに強くはないのです。森の近くは別のようですが……」
ウラヌスさんは苦笑した。
「そうなんですか」
そんなに、の基準がわからないけど、こっちの人たちも魔獣を倒すのに魔法を使っているようには見えないからあまり変わらない気がする。とはいえ相変わらず情報が足りないなと思った。
「落ち着いたらまた南の国の話を聞かせてください」
三人は「はい!」と勢いよく返事をした。とっとと国に帰さないといけないと思うんだが、今日は少しやることがある。
「ヤマダ様、ナカガワ様、本日はどうなさいますか?」
テトンさんに聞かれて、中川さんを見た。
「今日はドラゴンさんと上の方へ狩りに行ってきます」
「かしこまりました。彼らにはゴートの肉は食べさせてもよろしいでしょうか?」
「あー、どうしますかね……」
家の側の林に出てくる小さい生き物ならいいのではないかと思うのだが、どうなんだろう。確かヤマネズミとか言ったっけ?
「ヤマネズミはどうなんでしょう?」
「ヤマネズミでもいいとは思いますが、できればゴートの肉を食べてほしいのです」
ってことはヤマネズミの方がゴートよりうまいんだな?
あと、ゴートは在庫があるってのもあるか。
「そういえば俺、ヤマネズミってまだ食べたことないんですけど……」
「昼にご用意しますね。いってらっしゃい」
ケイナさんとユリンさんににこやかに送り出されてしまった。
「私もそういえばヤマネズミって食べたことないわ。でも、ヤマネズミって聞くとなんか、ねえ?」
「わかる」
なんとなくゲテモノ枠に感じてしまう。ネズミと言われるとどうしても病原菌の塊ではないのかなと考えてしまうからだ。あれはドブネズミか。
ちょうどドラゴンが洞窟からのっそりと出てきたので、山の上に狩りに行きたいという話をした。
『やっと行く気になったか! ではすぐにでも参ろうぞ!』
「ちょっ……ま、待ってくださいよっ!」
盛大に喜んだドラゴンが足をドスドスと踏み鳴らした。そのおかげで地が揺れてひやひやする。俺の首に巻きついていたミコが俺の身体を伝って降りたと思ったらまっすぐにドラゴンへ駆けていった。
「ミコぉおおおお!?」
さすがに足を踏み鳴らしている時に向かうのは危ないと思ったけど、ミコはひょいひょいとドラゴンの身体を駆け上り……。
『いいいいいーーーーーっっ!? なんじゃ、イイズナぁっ!?』
ミコはドラゴンの鼻先に噛みついた。そのおかげでドラゴンの足は止まった。ありがたいけど見ている方は非常に心臓に悪い。
キイイイイイイイッッ!! とミコが威嚇する。
『……し、しかたないじゃろうがっ!』
ドラゴンはでかい身体を縮こまらせた。ミコがトトトッと走って戻ってきた。俺の身体を伝って首にくるんと巻きつく。そんなミコを撫でた。
「ドラゴンさん、準備してきますので少し待っててもらっていいですか?」
『ふんっ! 行けっ、行ってしまえっ!』
ドラゴンがそっぽを向く。それを見て、中川さんと共に苦笑した。
よく見ると、中川さんは両手で首を押さえるような仕草をしていた。中川さんの首にはカイが巻きついている。俺の視線が首元に注目しているのに気づいたのか、中川さんはふふっと笑った。どうやらカイもドラゴンに突撃しようとしていたようである。
全く、うちのイタチたちは好戦的で困るよなと思ったのだった。
次の更新は、27日(水)です。よろしくー
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