Episode 5.「大事なことは連絡の最後に。」
「ただいま〜」
「えっ?」
僕らは繋いでいる手をサッと離した。
「お母さん?!?」
「今日早く仕事終わったから、大輝迎えに行ってそのまま帰ってきちゃった!」
「あ、そうなのね。」
「この子がこの前ひまりが言ってた子?」
「はじめまして。中島蒼空(そら)って言います。」
「蒼空くん、いい名前ね。」
「ひまりの母の幸恵です。ゆっくりしてってね。」
「いや、僕は今日はこれで失礼します。」
「え〜、お兄ちゃんもう帰るの?」
「うん。ごめんね。また、来るね。」
「うん、、、。わかった。」
僕は急いで、松野さんの家を出た。
そして、あの時の清水くんの言葉を思い出した。
「松野から好きって言われたら、どう答えるんだよ。」
もう一度思い返す。さっき、やっぱり松野さんは、「好き」と言ってきた。その時、僕は何も返せなかった。
僕は、どう答える。どう答えたい。どう答えるべきなのか。正直、頭の中は、松野さんでいっぱいになってしまった。
*
「大輝〜。今日もしっかり友達と元気に遊んできなさいね!」
「うん!」
「夕方お迎え来るからね!」
「うん!」
「じゃあ、いってらっしゃい!」
「ばいば〜い!!」
「ふ〜。」
一旦息をついた、その瞬間。少し、軽いめまいが起こった。
あれ。なんだろ。とても体が熱い。まさかと思い、おでこに手を当てる。
「うわ〜。まじか。」
*
今日は学校へは行けない。大輝を幼稚園に送り届けた後、私は家に戻り、ベットへと直行した。
熱は38.1度あった。
「なんでよ〜。も〜う。」
そして、思い返す。あの時、出てしまった。
「好き」という言葉を。
自分でもなんでそんなこと言ったのかわからない。
私は、中島をほんとに好きなのか。どうなのか。この気持ちは何なのか。私には、まだよくわからない。
「絶対、中島に聞かれてたよね。だって、え?って聞き返してきたもん。」
そう思った途端、さらに恥ずかしくなってきた。
「手繋ぎながら、好きって、もうそれは告白じゃん!!!もう!!!」
ピンポーン!!!
その時、インターホンが鳴った。
「こんな時に誰よ?」
「え?中島?!?なんでうちに来たの?」
「だって、松野さん、黙って学校休むし、連絡もつかないから、心配になって。」
「そう、、、。ごめん。熱出ちゃって。」
「今までの疲れが出たんだね。色々買ってきたから、何か作るよ。」
「そう、ありがとう。上がって。」
*
「今から、お粥作るから、松野さんは、ゆっくりベットで休んでて。」
「ありがとう。」
*
「松野さん、お粥できたy。」
松野さんは寝ていた。
「そりゃそうだよね、、、。」
でも、寝てるふりかも。
「松野さん、お粥できたから、ここ置いとくね。・・・・・あと、学校のことだけど、清水くんに課題とか全部頼んだから、心配しなくて大丈夫だよ。」
「あっちに居るから、なんかあったら、電話かLINEしてね。おやすみ。」
「・・・・・あともうひとつ、、、。僕、松野さんのこと好きだよ。ちょっと前、いや、多分、結構前から。」
ガチャ。
僕は気づいたらそんなことを口にしていた。これは心からの思いだった。やっと、口にすることができた。松野さんは起きているかもしれない。それでもいい。そう思ったから、言ったのかもしれない。
僕は、昔から、人との間には、距離があった。いつだってそうだった。だけど、松野さんに出会って、大輝くんに出会って、清水くんに出会って、長谷川さんに出会って、僕は変わった。変えてもらった。生まれて初めて、学校が楽しいと思えたし、人と関わるのが楽しいともっとみんなといたいって思えた。その中できっかけをくれたのは、松野さんだった。松野さんの家に行って、会って、話す回数が増えるたび、僕の心にはモヤモヤが積もっていった。それは、僕には何なのかはわからなかった。こんな経験初めてだから。でも、あの時、松野さんが手を握ってきた時、すごいドキッとした。そして、心の奥底が侵食されていくようなそんな気がした。手を合わせたことで、物理的距離は0になって、手を握ったことで、2人の心の距離まで、0に近づいていくそう思った。
昔から言われていることがある。人と人がいつも過ごしているある一定の距離間から、物理的距離が15センチ縮まった時、いつもと違う何かに気づけることがあると。
今まで僕はこの意味を理解することは、できなかった。でも、松野さんのおかげで知ることができた。距離が縮まって、0になり、松野さんの肌に触れた時、松野さんが好きだ。もっと、松野さんを知りたいと心からそう思い、自分の気持ちに気づくことができた。
僕は、人との心の距離を縮めることが難しい。それでも、松野さんと、1センチでも2センチでも3センチでも近づきたいって思っている。今も、そしてこれからも。
僕は松野さんが好きだ。それ以上でも、以下でもない。清水くん、嘘ついてごめん。
僕は、松野さんが好きだ。
*
「え?え?え?今のって、、、何?」
なんで、連絡の最後に付け加えて、大事なことを言うの?もしかして、寝たふりしてるのバレてた?わからないけど、直接本人に確認したい。いや、いや、それは無理。
でも、このまま、このまま、今の言葉を聞いてなかったってことにしたら、どうなるんだろう。
まだ、この生活は
続いていってくれるのかな。
15センチ未満の恋 あきお。 @akio_dayo
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