Episode 4.「ドキッとするって、そういうこと?」

「おーい、ひまりー!ひまりー!」

「・・・・・」

「ひまりー!ひまりー!」

「え、どうしたの?」

「さっきから何回も呼んでるのに、全く反応なかったよ。最近忙しすぎじゃない。くま、すごいよ。」

「えっ、まじ?」




「松野が忙しくても、俺らじゃ何も手伝ってあげれないからな。」

「そうだね。何もできないね。」

松野さんは最近とても忙しそうにしている。色んな人から色んなことを頼まれて、全部断らずに、全てに全力で取り組んでいる。今にもパンクしそうだけど、僕らは遠くで見ていることしかできない。



「おーい。松野!俺らなんか手伝えることあるk」

「ない!あっち行ってて!」

「はい。すいません。」




           *




「松野さん、最近大丈夫?無理しすぎじゃない?」

「うん。大丈夫。私先帰るね。お先。」

「気をつけt」

今日見る松野さんの背中はいつもの元気な時のと比べてまるで違かった。

明日、ケーキでも持って行こう。これで、少しでも松野さんが元気になってくれたら、いいな。




          *




「ねえ、ひまりさ。中島のことちょっと気になってるでしょ?」

「え、、、なんでそんなわけないじゃん、、」

「だって、最近一緒にいること多くない?」

「それは、、、ただ仲がいいだけ、、。そう仲がいいだけ、、、。」

「ふ〜ん。そう〜か〜。」




          *




今日は中島にケーキを貰った。これで、私が少しでも元気になればと思って持ってきてくれた。少し嬉しかった。少しなのかはわからないけど、嬉しかった。




          *




「ねえ、ねえ、ひまり。ちょっと手見せて。」

「手?いいけど、、。はい。」

「おりゃ!今ドキッとした?」

「そりゃ驚くよ。急に手重ねられたら、誰だってね。」



          *



「おはよう、、、。」

「おはよう、、って、中島どうしたのその顔!?!」

「ちょっと喧嘩して、、、」

「喧嘩って、誰と?」

「いや、それは、その、、、。」

「おっはよ〜う。」

「清水くんとちょっと、、、。」

「はあ〜〜〜〜?!?!?」




          *




「何があったのよ。中島と。」

「いや、別に」

「別にって。理由なく喧嘩になんてならないでしょ。」

「なんだっていいだろ。男同士の話だ。」

「仲直りはしたの?」

「おう。」

「それならいいけど。」




「なんで、清水と喧嘩なんてしたの?」

「実は、その、、、松野さんが原因なんだ。」

「ほほ〜ん」




          *




話は昨日の学校後、中島の家へと遡る。


「お前さ、やっぱ、松野のこと好きだろ。」

「お前じゃなくて、清水くん、自分がでしょ。」

「そうじゃねえよ。お前の気持ちを聞いてんの。」

「松野さんとは、そういうんじゃない。仲の良い友達。それ以上でもそれ以下でもないよ。」

「じゃ、あのケーキはなんだよ。あんなん、普通持っていかないだろ。」

「あれは、、松野さんが疲れて元気なさそうにしていたから。清水くんが、そうなってても同じことしてたよ。」

「じゃあ、松野から、好きって言われたら、どう答えるんだよ。」

「そんなことあるわけないでしょ。松野さんとはそういう関係じゃない。」

「だから、お前なんでいつもそうなんだよ。もう!」

「痛っ!」

「痛っ!」

「急に頭突っ込んでこないでよ!」

「だって、お前がはっきりしねえから!」

「・・・・・」

「言いたいことあるんだったら、言えよ。」


ドンッ!


「何すんだよ!」


ドンッ!

痛っ!

ドンッ!

痛っ!

ドンッ!

痛っ!


止めろ!!!!




          *




「で、結局何だったんだろ。あの2人が喧嘩した理由。」

「さ〜て、なんだったんだろうね、、ふふふ」

「もう仲直りしてるし」

「まあ、喧嘩するほど仲が良いっていうじゃん!」

「それならいいんだけど。」




          *




「忙しいの落ち着いた?」

「うん。なんとか。」

「よかった。これ、食べよ。」

「え、いいの?ありがとう。この前のケーキも美味しかった。」

「よかった。僕の家の近くに美味しいケーキ屋さんがあるんだ。そこのやつ。」

「へ〜。今度紹介してよ。」

「いいよ。大輝くんも連れて一緒にね。」

「てかさ、中島、手大っきいし、指長くね?」

「そうかな?男子ってこんなもんじゃない?女子と比べたら、そりゃあ大きいと思うけど。」


僕は無意識に手のひらを彼女の方へ向けた。


中島が手のひらをこちらに向けてきた。私は、成り行きのままに、中島の手のひらに自分の手のひらを重ねた。

やっぱり大きい。そして、温かい。


松野さんが、僕に手を重ねてきた。

松野さんの手は、小さい。そして、ちょっと冷たい。


次の瞬間、


私は中島の手を握っていた。


僕は松野さんに手を握られた。



「好きっ、だ。」



「えっ?」


僕の聞き間違いだろうか。松野さんの口から、「好き」という言葉が聞こえた気がした。

でも、それは多分、聞き間違えだろう。そんなことあるはずがない。


   でもひとつ、確かなことがある。


  僕と松野さんの間には少し距離があった。

   でも、今、手を重ね、手を握られた。


     少しあった物理的距離は、

    

     たった今0へとなった。



僕と松野さんの心の距離も確実に0へ近づいていく。




       そんな気がした。





   





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