Episode 3.「見られたくない。それは2人の時間」
松野さんは人気者だ。
いつだって、みんなに声をかけられて、大事な仕事だってお願いされる。いつも笑顔で振り舞って、いつも元気で明るい。僕とは、正反対にいる人間なのに、僕は彼女と秘密を共有する仲になった。みんなには見せない姿を僕だけは知っている。
中島はとても静かだ。
いつだって、窓側の端っこの席で、暗そうに元気なさそうにしている。この教室で彼の笑顔を見たことはない。私とは、正反対にいる人間なのに、私は彼と秘密を共有する仲になった。みんなには見せない姿を私だけは知っている。
*
「最近仲良いよな?」
「え?」
僕に急に話しかけてきた彼は、松野さんと仲の良い友達の1人、清水聖也だ。
「付き合っ、、てるの、、?」
「いやいやいやいや。そんな訳ないじゃん。」
「だよなあ〜!お前と松野じゃ、釣り合わね〜もん。」
「うん。そうだね。あ、もしかして、清水くん松野さんのこと好きなんじゃn」
「やば、ばかばか声が大きいわ。みんなに聞こえるって、、あれ?みんなは?」
「清水くん。次移動教室だよ。」
「うわ〜まじかよ。急げ急げ」
*
「清水くん、もう遅刻確定だし、サボろ。屋上行かない?」
「そうだな。行っても意味ないか。」
「あの、それより何よりひとつ気になることがあるんだけど。今夏だよな。なんで、お前は年中冬服で長袖着てんの?」
「いや、実は理由があって、、、」
「なんか病気とか?」
「いや、違う。見られたくないんだ。」
「さては何か隠してんな〜!見せろ!」
「あっ、ちょっ、やめて!」
「なんだよこれ〜!もしかして、足もか?やっぱあるし。腕もあるじゃん。しかも、ピアスも?!?!?なんだよお前〜!暗くてオタク野郎って勝手に思ってたけど、全然違うじゃんか〜!!!」
「誰にも言わないで欲しい。お願い。」
「そりゃ、言わねーけどさ、すごいなほんと。」
「ありがとう」
「まあいいや。もう1回だけ聞くけどよ、松野とは、ほんとに何もないのか?」
「何もないよ。ただの友達。僕と松野さんじゃ、生きてる世界が違う。釣り合うわけないんだ。」
「じゃあ、俺松野に告白しても問題ないよな。」
「・・・それは僕が決めることじゃない。」
「ちげーよ。ただ聞いただけだよ。」
「そう。成功するといいね。応援するよ。」
「おう。ありがとう。」
*
「起立、礼、さようなら」
「さようなら」
「松野!今からちょっと話あるんだけど、時間いいか?」
「あっ、ちょっと今日はごめん。時間ないや。」
「松野さん、大輝くんの迎えなら、僕が行くから、清水くんと話してきな。」
「いや、悪いよ。」
「いいから。ほら、ね?」
「わかった。じゃ、よろしく。」
*
「お姉ちゃん早く帰ってこないかな〜。」
「もうちょっとで帰ってくるよ。」
「ただいま〜。」
「帰ってきた!」
「お帰りなさい。」
「ただいま、、、。中島、ちょっと、、、。」
「聖也に告られた。」
「うん。」
「私と中島は生きてる世界が違うとか、釣り合わないとかほんとうに言ったの?」
「え?」
「本気で思ってそう言ったの?ほんとに、、、?」
「え?いや、その、、、。清水くんのことは?」
「今は聖也のことは置いといて!本気で言ったの?どうして?」
「うん。言った。」
「なんで、どうして。じゃあ、今までどういう気持ちで家に来てたの?」
「いや、それは。こんな暗い僕なんかと松野さんが関わって、周りから変な噂とか立てられたら松野さんに迷惑かかると思ったから。」
「そんなことで迷惑だなんて、思う人いないでしょ!もうそんな自分なんか自分なんかみたいに言うのやめて!もう二度と言わないで!」
「ごめん。」
「あと、なんで見せたの!刺青とピアス。私以外に中島の今のこの姿見られたくなかったんだけど!」
「え?」
「・・・・・」
「お姉ちゃん!お腹空いた〜!」
「ちょっと待って、今作るから!」
「松野さん、松野さんのすごい弟思いなとことか、料理がすごく上手なとことか、家ではちょっと性格がテキトーになるとことか、僕も他の誰かに見られたくないって思うよ。今は2人だけの時間だって思えるから。」
「もう。ばか言ってなさいよ!」
*
偶然私達は秘密の共有者になってしまったけど
僕は、他人には見せない家だけで見せる自分を飾らない松野さんの方が
私は、他人には見せない家にきた時だけ見せるありのままの中島の方が
好きだ。
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