第10話 誰も悪くないのにさ?

 


 あの日、放課後の屋上で。




 ごめんなさい、と頭を下げて泣く事しかできなかった私を抱きしめてくれた美優。


「よし、よし。もう、泣かなくていいんだよ?おめでと」


 私は美優の腕の中で、ブンブン!と横に振って。

 

 美優の方が、絶対つらかった。

 絶対に辛かったんだ、と。


 美優の好きな赤崎を奪ってしまった私を、ののしって、ひっぱたいて、突き放してもいいのに、と。


 それなのに。


 私の背中を優しくさする美優に、涙が止まらなかった。

 

「……それにさ。香菜からも昼間、衝撃の告白をされて釘を差されちゃったから」

「……?」


 首を傾げた私に、美優が言った言葉は。


「香菜がね、『私は、前から心が赤崎を好きっぽいのも、赤崎が心を好きなのも知ってた。でも、本気のみんなに何も言えなくって。だから美優が怒るのも恨むのも叩くのも、私にしてね?』って。……誰も悪くないのにさ?恨むわけないのにね」


 もう、ダメだった。




 香菜!!


 美優!!




 私は二人の名前を大声で呼びながら泣き続けた。


 美優は後から屋上に来た香菜と一緒に、私が泣き止むまで頭や背中を撫で続けてくれたのだった……。





 


 赤崎と私が付き合い始めてから、三ヶ月。


 私は、赤崎の応援おうえんで剣道の大会会場に来ている。


 スゴイ事に、赤崎とうちの高校は個人戦団体戦ともにベスト8まで勝ち残り、準々決勝にそなえてお昼ご飯を一緒に食べるところ。


 みんな笑顔で、女子マネと私、香菜、美優で作った弁当を食べ始めている。


 赤崎には、私の愛情をたっぷりとめた……つもりの弁当を渡してある。


 が。


 結果的には、大失敗だった。




「いやー!彼女の応援!彼女の手作り弁当!勝ち残り!最高だわこりゃ!!」

「赤崎!声!声ぇ!おっきいよ!!」




 さっきからずっとこれ。

 私は必死で赤崎を止めようとする。

 しかし赤崎は止まらない。




「おにぎりうっま!唐揚げうっま!マジうま!!」

「聞ーいーてーよおおおぉぉぉ……!」




 私は赤崎の剣道着を両手でつかんでゆさぶるが、赤崎は楽しそうに笑うだけ。

 

 でも、そんな風に言われたらやっぱり嬉しい。


 たくさんの気持ちを込めて、赤崎に言う。


「赤崎、いっぱい食べて午後も頑張ってね。めちゃめちゃ応援するから。でも、ケガしたらやだよ?」


 そんな私に、赤崎はいたずらっぽく笑って。


「ん?赤崎?」

「……」

「あ〜か〜さ〜きぃ?」





 それは。

 多分、最近二人きりの時だけ、やり始めた事。

 他に人がいる時は、恥ずかしくて無理だと思ってた。


 だけど。


 私は、伝えたい事や気持ちを言葉にしていきたい。


 今なら。

 今しか、ない!



  


「頑張ってね!ささ、さとりゅ……」





 噛んだ。


 いや。

 聞こえてないかもしれないもん。

 よっし、もっかいさり気なく。


「二度美味しい!よっしゃー!!!」

「あああああぁ!」


 照れと恥ずかしさで熱くなった顔を隠す私の耳に入ってくる、『これでもらったぜー!』と叫ぶ悟の声。


『さとりゅ〜、さとりゅ〜!』とからかう香菜、美優、剣道部員達の声……!!


 貴様らっ!!

 残りのご飯をカラシ付きにしてもいいんだぞ!

 だから、やめてー!




 



 私、香菜、美優の声援効果があったかどうかは別として、何と。


 うちの高校と悟は私達の目の前で、団体戦と個人戦の両方で県大会出場を決めた。




 私達の青春と友情と恋は、これからもめいっぱい続く。


 みんな!

 大大大大、大好きだー!


 そんな気持ちで。


 朝、玄関を開け放った私は、また。

 眩しい光に向かって、走り出す。

 

 

 

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【カクヨムコン10短編】【新】今さら、『好き』なんて言えるわけない。 マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

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