第10話 誰も悪くないのにさ?
あの日、放課後の屋上で。
ごめんなさい、と頭を下げて泣く事しかできなかった私を抱きしめてくれた美優。
「よし、よし。もう、泣かなくていいんだよ?おめでと」
私は美優の腕の中で、ブンブン!と横に振って。
美優の方が、絶対
絶対に辛かったんだ、と。
美優の好きな赤崎を奪ってしまった私を、
それなのに。
私の背中を優しくさする美優に、涙が止まらなかった。
「……それにさ。香菜からも昼間、衝撃の告白をされて釘を差されちゃったから」
「……?」
首を傾げた私に、美優が言った言葉は。
「香菜がね、『私は、前から心が赤崎を好きっぽいのも、赤崎が心を好きなのも知ってた。でも、本気のみんなに何も言えなくって。だから美優が怒るのも恨むのも叩くのも、私にしてね?』って。……誰も悪くないのにさ?恨むわけないのにね」
もう、ダメだった。
香菜!!
美優!!
私は二人の名前を大声で呼びながら泣き続けた。
美優は後から屋上に来た香菜と一緒に、私が泣き止むまで頭や背中を撫で続けてくれたのだった……。
●
赤崎と私が付き合い始めてから、三ヶ月。
私は、赤崎の
スゴイ事に、赤崎とうちの高校は個人戦団体戦ともにベスト8まで勝ち残り、準々決勝に
みんな笑顔で、女子マネと私、香菜、美優で作った弁当を食べ始めている。
赤崎には、私の愛情をたっぷりと
が。
結果的には、大失敗だった。
「いやー!彼女の応援!彼女の手作り弁当!勝ち残り!最高だわこりゃ!!」
「赤崎!声!声ぇ!おっきいよ!!」
さっきからずっとこれ。
私は必死で赤崎を止めようとする。
しかし赤崎は止まらない。
「おにぎりうっま!唐揚げうっま!マジうま!!」
「聞ーいーてーよおおおぉぉぉ……!」
私は赤崎の剣道着を両手でつかんでゆさぶるが、赤崎は楽しそうに笑うだけ。
でも、そんな風に言われたらやっぱり嬉しい。
たくさんの気持ちを込めて、赤崎に言う。
「赤崎、いっぱい食べて午後も頑張ってね。めちゃめちゃ応援するから。でも、ケガしたらやだよ?」
そんな私に、赤崎はいたずらっぽく笑って。
「ん?赤崎?」
「……」
「あ〜か〜さ〜きぃ?」
それは。
多分、最近二人きりの時だけ、やり始めた事。
他に人がいる時は、恥ずかしくて無理だと思ってた。
だけど。
私は、伝えたい事や気持ちを言葉にしていきたい。
今なら。
今しか、ない!
「頑張ってね!ささ、
噛んだ。
いや。
聞こえてないかもしれないもん。
よっし、もっかいさり気なく。
「二度美味しい!よっしゃー!!!」
「あああああぁ!」
照れと恥ずかしさで熱くなった顔を隠す私の耳に入ってくる、『これでもらったぜー!』と叫ぶ悟の声。
『さとりゅ〜、さとりゅ〜!』とからかう香菜、美優、剣道部員達の声……!!
貴様らっ!!
残りのご飯をカラシ付きにしてもいいんだぞ!
だから、やめてー!
●
私、香菜、美優の声援効果があったかどうかは別として、何と。
うちの高校と悟は私達の目の前で、団体戦と個人戦の両方で県大会出場を決めた。
私達の青春と友情と恋は、これからもめいっぱい続く。
みんな!
大大大大、大好きだー!
そんな気持ちで。
朝、玄関を開け放った私は、また。
眩しい光に向かって、走り出す。
【カクヨムコン10短編】【新】今さら、『好き』なんて言えるわけない。 マクスウェルの仔猫 @majikaru1124
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