第40話 限界の駆け引き
「リリィのいた場所から、かなり離れたな」
オリビアとの戦いを終えたマコトは、本来の目的に戻る。
リリィの奪還だ。
挙式が行われていた聖堂から、この中庭は遠い。
既に見失ってしまったが、問題ない。
マコトがリリィに渡した指輪に施した細工は、通信機能だけではない。
探知機能も有しているため、マコトが着けている指輪に魔力を少し流せばもう片方を着けている相手の場所を把握できる。
「見つけた」
あの位置は、恐らくアーサー配下の軍が駐留する本部棟の方に向かっている途中だろう。
そこで守りを固めるつもりだろうか。
「僕の力の残り時間を考えると、厄介だな」
その前に、決着をつける。
あまり時間がない。
リュートは覚醒者の膂力を活かし、全速でリリィのいる場所まで向かう。
追いつくまでに、数分とかからなかった。
軍が駐留する棟に向かう途中の渡り廊下に、リリィとその手を強引に引くアーサー、周囲を固める護衛が十名近く。
護衛の中に、覚醒者はいない。
(これなら、やれる)
マコトは護衛達の背後に迫り、斬りかかる。
ハルトフォードの兵の中でも、アーサーの直属とあってそれなりに優秀らしい。
ほとんど反応できていなかったが、護衛達はかろうじてアーサーを守りぬく。
しかし、全盛期の力を取り戻したマコトにとっては、取るに足りない相手だった。
全員を瞬時に始末したところで、マコトは権能の効果が切れるのを感じる。
護衛がいなくなり、視界が開けた。
リリィが、すぐ近くにいる。
「やあ、リリィ。待たせて悪かった」
「ううん、さすがはマコトくん。上出来だね」
そう言うリリィの笑みには、信頼が溢れている。
マコトはリリィと再会した喜びを噛み締めながらも、自身が弱体化した事実をアーサーに悟られないよう、努めて余裕そうに振る舞った。
「マコト……お前は俺にとって、邪魔者でなければ気が済まないらしいな……!」
アーサーの近くに、味方はいない。
敗北を悟ったのか、屈辱に顔を歪めていた。
しかし、実際のところ、マコトは既に力を使い果たし、立っているのがやっとの状態だ。
挙式のために正装を着ていたアーサーは丸腰だが、近くに護衛が使っていた剣が落ちている。
拾われる前に切り捨てるべきだが、もう腕が持ち上がらなかった。
「……」
アーサーはリリィの腕を掴んだまま、マコトとの間合いを計っている。
時折、視線が足元の剣の方に向いていた。
「今日、この場で奇襲を仕掛けて勝ったとしても、無意味だ」
アーサーはマコトを睨むように見据えながら、語る。
「お前たちだけでは、ハルトフォードには勝てない」
「かもな……だから僕は、この先お前たちに勝つための準備をしてきたんだ」
「ハルトフォードに勝つ? お前ごときが、笑わせてくれる」
「その僕に……追い詰められているのは誰だ?」
そう言いながら、マコトは自分の息が上がっているのを感じた。
アーサーはその様子を見て、目を細める。
マコトが一向に攻撃を仕掛けない理由を、探っている様子だ。
アーサー・ハルトフォードは目ざとい人間だ。それでいて、覚醒者のような超人的な力はないが剣技にも長けている。
余力の残っていないマコトには、やや荷が重い。
「チッ……いいだろう。こんな女くらい、くれてやる」
「わっ……!」
アーサーが不意にリリィを突き飛ばした。
マコトの方に向かって、リリィがよろめいてくる。
マコトがなんとかそれを受け止めた隙に、アーサーは走り出した。
マコトに隙があるように見えたが、確証を得られなかったのだろう。
不確定な状況で戦いを挑むよりは、リリィを一度奪還されてでも、逃走して体勢を立て直したほうがいいと判断したのだ。
「ありがとうマコトくん。追わなくていいの?」
アーサーが逃げた先には、彼の率いる軍の兵達が詰めている。
しかしマコトは追わなかった。
「今は他に……優先することがある」
マコトはリリィを抱きとめていた手を離して、その場に尻餅をついた。
「マコトくん、大丈夫?」
「そろそろ限界かな。だから悪いけど……ここからは、リリィの力を借りることになる」
マコトは鞄から、一つの小瓶を取り出した。
「これは?」
「君に付与された制約魔法を解除するための眠り薬……ってところかな」
「魔法を解除するために、眠るの?」
「ああ。これを飲んだ後……次に目覚めた時には、リリィは自由だ」
「つまり……好き放題暴れられる、ってことだね!」
リリィは小瓶を受け取りながら、不敵に笑った。
◇◇◇◇
遅くなってすみません。
次回は今週の金曜か土曜に更新すると思います。
元勇者、救世を諦める〜魔王の正体が最愛の幼馴染だと知ったので、世界を相手に無双することにした〜 りんどー @rindo2go
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