かなめとつむぎの昼休み
「
授業終わり、教科書をカバンに仕舞っていると、友人がやって来た。
昼の陽気に当てられているのか、ぽやぽやと気の抜けた笑みを浮かべている。
「ん」
頷いて、席を立つ。
要の後ろ髪をちらっと見た
「後で髪も直してあげるね〜。ちょっと崩れてるから」
「ありがと」
話しながら教室を出る。
昼食はいつも屋上の端。
紬が二人座って丁度いい大きさのチェック柄のレジャーシートを敷いて、並んで腰を下ろす。
「今日もみぃちゃんが作ってくれたの?」
「うん」
膝の上に、両手に収まるくらいの弁当箱を置く。
朝が弱い要のため、学校のある日は瑞樹が毎朝腕を奮って作ってくれるお弁当。
一度だけ忘れて行ってしまった時、帰宅して出迎えた瑞樹の顔がひどく悲しそうだったので、それ以来忘れないように心がけている。
「紬は?」
「これ〜」
紬が取り出したのは、両手から少しはみ出る大きさの竹籠だった。
蓋を開けると、綺麗に敷き詰められたサンドイッチが顔を出す。
ひとつとして同じ具材、パンはなく、おかずからデザートまで幅広い。
「今日も豪華だね……」
「お母さん凝り性だからねえ。あれもこれもって入れてくるからいっつもお腹いっぱいになっちゃうよ〜……今日ももらってくれる?」
「もちろん」
アルミ製の弁当箱を開け、蓋に何個か分けてもらう。
ありがと、とお礼を言ってから自分の弁当の中身を見て、
「……う」
思わず喉から低い声が漏れる。
卵焼き、唐揚げ、ブロッコリー、プチトマトといった定番のおかず。それはいい。美味しそうだ。
問題は白飯の中心に置かれた赤い物体。
弁当箱を覗き込んだ紬は、
「梅干しだ。いいね〜疲れた体によく効くじゃ〜ん」
とからかうように笑った。
要が酸っぱいものを苦手としていることを知った上での発言である。
正直とても微妙な気分になったし、
「なんで……いつもこういうの入れないのに……」
少し泣きそうになりながら呟く。
弁当の中身はざっくりと希望を伝えていて、瑞樹はいつもそれに沿った弁当を作ってくれているのだが、今日に限って何故。
「あ、もしかして〜」
「?」
「最近の荒御魂討伐で、また他の人の神力
「……昨日は、じゃんけんで決めたもん」
「なら違うかぁ」
「……その前のはわかんないけど……」
「じゃあそれかぁ?」
しょうがないなあと笑う紬。
バツか悪くなった要は、早口で「いただきます」と言って、綺麗に巻かれた金色の卵焼きを箸で刺して口に放り込んだ。
砂糖がたっぷり入った卵焼き。
噛むほどに甘味が口いっぱいに広がって、自然と頬が緩む。
サンドイッチを手に取りながら友人は言う。
「まあ、間違えちゃったのかもしれないし、もしかしたら楽さまのいつもの悪戯かもしれないし、そんなに気にしなくていいんじゃない?」
「……楽ノ神のせいなら尚更許せない……」
「ほ〜らほら、可愛いお顔が台無しだぞ。はい、あ〜ん」
「む……」
眉根に皺を寄せる要の口にプチトマトを近付ける紬。
素直に口を開いて含み、ぷちんと弾ける果実のフレッシュな酸味を楽しむ。
……今は気にするまい。今は。
「そんなことよりさ、帰りに軽〜くお買い物してかない? 神社行く途中に可愛い雑貨屋さんが出来たんだって〜」
「うん」
弁当の中身を減らしながら、穏やかに語らう。
太陽の日差しが心地いい。
もうすぐ肌寒い季節になる。
後どのくらい、この屋上で過ごせるだろう。
寒くなったらカーディガンでも羽織って、カイロも持ってこようか。
場所を変えるにしても、騒がしくないところがいい。
要はこの時間が好きだった。
難しいことを何も考えなくていい、この時間。
叶うなら、いつまでも体を預けていたい——
「……う〜」
「観念しなって〜」
おかずも白飯も食べ終えた後、残された梅干しをじと〜と睨む。
食べたくない。食べたくないが、瑞樹の顔を想像すると残しづらい。
「……っ!」
ぱく! と一息に口に入れ、
「〜〜〜〜〜っ」
あまりの酸っぱさに目と口を限界まで窄める要の顔を見た紬は、
「あ〜これ、楽さまっぽいなあ」
「……」
苦笑いして、飲み物の入った水筒を差し出した。
「……後で瑞樹に……聞いてみる」
受け取り、目元に滲む涙をこすりながら呟く。
仮に神だったら、多少力尽くでもわからせてやるしかない。
そう決意を固める、昼休みの終わりだった。
神様になる君に恋をした。 梢月紙遊 @siyu_syogetsu
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