血潮と虜囚とアナスタシア
伊島糸雨
血潮と虜囚とアナスタシア
二十二時のライブハウス。薄暗い控え室にひとり残って瞑目する。臓腑が縮むのを抑えつけ、汗ばむ手に握ったアンプルを折る。生温い粘性が突き出した舌を伝って口腔を這う。私はそれを呑み下し、鉄錆の酩酊に欠片ほどの魂を売り渡す。「そろそろだよ」
「ワクチン」吸血種の弱毒化した血液は、皮下注射か口腔摂取で束の間私を眷属にする。アッパー系。気が大きくなり、記憶が飛び、気がつくと血を流している。でもそれはラズベリーケーキのようにトロリと甘酸っぱく、あの不快で無機質な生の感触はどこにもない。酩酊。私はどこの誰ともしれないあなたの血潮に酔う。人外種の
遠く、私は密かにあなたの
午前〇時のライブハウス。腐り落ちる私はこの眩いトリコロールに埋葬していく。かき鳴らす弦の振動の中、私は空想のあなたに未熟な牙を突き立てる。そしてあなたも。私を舞台に立たせ、私をひきつけて止まないあなたと私は踊る。アナスタシア。この血は私のもの。代わりにいつか、私をあげる。この歌と、音楽の代償に。
鎖が落ちるその時には、きっと。
血潮と虜囚とアナスタシア 伊島糸雨 @shiu_itoh
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