第20話

 つまるところ・・・


 と、オマハンは思った


 どうやら、異舌審問陣営は――この“宣言ドミノ”という病禍を逆手に取って対処したようだ


 行動の“宣言”が、行動自体にブーストをかけている


 それを「進化」と呼ぶか、「退化」と呼ぶか


 ――は、人それぞれやろけど・・・!


「『加える』という漢字の成り立ちを知っていますか?」


 ページをめくりながら、異舌審問官が言った


「『力』は筋肉の象形であり『口』は宣詞のりとを意味します。肉体に言葉が『加』わってこそ万全。つまり“口は無口より強し”――聞いていますか?」


 まずい・・・!


 聞いてたら、ほんまに納得しそうになる・・・!


 まさに“「聞く」は「効く」”――こらもう、口を狙うしか・・・!


 あの良う動くあごの蝶番ちょうつがいに、衝撃「加」えて黙らせる――!


「“コジャイキ”、“ヘエケ”、“ダーイボサツ”――先人たちに感謝です。“テンプレート”ネのZ――」


 飛び出そうと立ち上がったオマハンの耳元で、


 突然、声がした


「羽交い締める」


 たちまちオマハンの両わきの下にたくましい腕がすべりこみ、後頭部を押さえこんだ


 肩が外れそうなほど締め上げられて、痛い、苦しい、動けない――


 今まで出くわしたことのない、完璧なホールド――!


 かろうじて首をめぐらせたオマハンの顔のすぐ横に――銀器担当従者エドワード・エキスバトンの、如才ない笑顔があった


「こういうとき、“発症者”は有利だな!」


 オマハンを羽交い締めながら、エキスバトンが言った


 高速の小声で、笑顔で


「一度有効な体勢をとれば、“宣言”で解除しないかぎり放さない――いや、放せない」


 むこうでは、すでに異舌審問官の“呪祷”が始まっている


「『エイ! 銀山鉄壁を裂く響き山谷に答え心魂に徹して、なんとも形容のできない気合いともろとも――』」


「抵抗はやめたまえ」


 と、エキスバトン


「彼には『いざとなれば私ごと仕留めろ』と命じてある――」


 彼・・・?


 命じて・・・?


 エキスバトンが、笑み声でオマハンにささやいた


「まことの断罪者は、いつだって無害に見える隣人だよ。最低でも“脳補正頭蓋装着刑”と決まった君にだけ教えよう――私こそが、本当の“異舌審問官”なのだよ。緑と金の法衣で仰々しく現れた“彼”――あのサイモン・ヴェイルはただの、位階の低い、“戦闘伯爵”にすぎん」


 信じられないような早口の小声――


 なのにするする聞き取れる――


「これで、あの第三執事も疑わねばならなくなった! いったい君とイカドオル・ハイハアアア氏とは、どういう関係なのだ――?」


「『――颶風ぐふうの如く飛ぶよと見れば――』」


 ヴェイル異舌審問官、改めヴェイル戦闘伯爵が、いまにも飛びかかってきそうな一節を読み上げている――!


「どのみち、君はサモン・ド上院議員を失脚させる情報でも採りに来たのだろう? 彼は異舌排除の急先鋒だからな。だが、もう、遅い。今ごろ上院議員どのはつのりにつのった恋心を遂げようと躍起になっているだろう。大統領の娘婿になれるかどうかは――」


 エキスバトンが言葉をきり、眉根をよせた


  (第21話に続きます)

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