デスゲーム・じゃんけん -迫りくるやっぴー-
ちびまるフォイ
じゃんけんの専門家
「空に浮かんでるあれは……いったいなんだ……!?」
大学の窓越しに見えたのは空に浮かぶ巨大なてのひら。
地球を押しつぶそうとするわけでもなくただ浮いている。
目の錯覚かなにかと思い外に出てみるが、
雲の上に浮かぶ巨大な手はそこにあった。
「手だけ……? 本体がない。いったいどうなって……」
大学教授の癖か不可思議な現象を目にすると、
どうしても研究モードのスイッチが入る。
そのとき。
「 じゃん、けん 」
空に浮かんでいる巨大な手が高速で動き出す。
その手の形は「ぐー・ちょき・パー」を高速で切り替えている。
「ぽん!」
半ば反射的に空に向かって拳をふりあげていた。
巨大な手は「ちょき」の形をしていた。
「やっぴー」
なぞの言語が聞こえた瞬間、大学の構内からいくつもの爆発音。
「どうした!? なにがあった!?」
大学の中は血だまりだけが残っていた。
唯一生き残っていた学生は恐怖で震えていた。
「わ、私……じゃんけん、してっ……みんな負けたら……爆発してっ……」
「じゃんけんした……?」
この事件はすぐにニュースで取り上げられた。
『現場です。こちらではじゃんけんに参加しなかった、
もしくは負けてしまった人がその場で爆発したという証言があります!』
『やっぴーとはいったい何なのでしょうか!?』
『言語文学名誉会長にして多数の著書を出している方をゲストにお呼びしています』
『やっぴーとは古代サンスクリット語のヒエログリフで
yap-piy(ヤップ=ピィウィ)。つまり終焉の日を予告しているのです』
『いったんCMです!』
テレビを見てもわからないことだらけだった。
唯一わかるのはじゃんけんで負ければ死んでしまうという生物的な恐怖。
すると、ふたたび空の手が動き出す。
「 じゃん、けん 」
周囲では悲鳴があがり、効果範囲に逃げようと車をかっ飛ばす人もいる。
「ばかばかしい! こんなじゃんけんで殺されてたまるか! 俺は参加しねぇぞ!!」
近くの親父は逆ギレして空につばを吐いた。
「ぽん!」
空にうかんだ手は「パー」。私はちょきを出していた。
その瞬間、じゃんけんに参加しなかった親父は血の風船のように爆発。
逃げた車の車内で爆発して、コンビニに突っ込んだ。
あいこの「グー」を出していた人たちもその場で爆発した。
「やっぴー」
ふたたび空に浮かぶ手は、いつものポジションに戻った。
「か、勝てた……。よかった……、いったいいつまで続くんだ……」
寝ている間にじゃんけんが始まってしまったら、
手を出すことなく死んでしまうのでここ数日はもう寝ていない。
こんな状態が続いてしまえば、じゃんけんの前に死んでしまう。
「調べなければ! 分析しなければ!
きっとあのじゃんけんにも意味があるはず!」
すべての行動には原因と目的がある。
その根幹を分析によってあぶり出すことで対策ができる。
これは大学教授を目指すようになった自分の考えだ。
「そうか、わかったぞ! やっぴーは次の手を暗示していたのか!!」
やっぴーの音を解析して見つけた周波数の規則的な流れ。
ちょきのやっぴーと、パーのやっぴーで人間に聞こえない周波帯の音が違っていた。
「 じゃん、けん 」
そうこうしている間に次のじゃんけんが始まる。
「来たか……!」
私の分析が正しいか、間違っているか。
間違っていればじゃんけんに負けて死ぬしかない。
命を賭けた実証実験。
「ぽん!!」
浮かんだ手は「グー」。私は「パー」を出していた。
近くで「無敵」とかいうグーでもちょきでもパーでもない手をしていた人や、
グーにもちょきにも見える中途半端な手を出していた人は爆発した。
「やった……! 勝った! 私の分析は正しかった!!」
大喜びしていると空に浮かぶ手はまた通常の形に戻る。
「ずこー」
「ず、ずこーっ!? やっぴーじゃないのか!?」
再び提示される謎言語。
あまりにサンプル数が少ないので次の手は予想できない。
「ずこーとはいったい何なんだ……!?
くっ、次のじゃんけんまでに分析しなければ命がない……!」
私は人生でもっとも疲れてボロボロではあったが、
これまでの人生で最も頭が冴え渡っていた。
学者ーズ・ハイと呼ばれる現象で、
意味不明な問題を突きつけられたときにかえって燃え上がることを言う。
「見えた……見えてきたぞ! ずこーの正体が!!」
"やっぴー"に次ぐ"ずこー"の正体も突き止めた。
次の手も予想できる。
「そうか、わかったぞ。このじゃんけんは人類の選別なんだ。
増えすぎた人類をじゃんけんで間引きして、
地球で生存するのに適正な人数にしようとしてるんだ!」
その中で分析や強運で生き残った「強い人類」だけが地球に残り、
それ以外の劣等人種はじゃんけんで死んでいくのだろう。
「私は絶対に負けない! 私は誰よりも優れている!!」
そうして次の選別がはじまる。
空に浮かんだ手が高速で動き出した。
「 じゃん、けん 」
「見えているぞ。次の手は……これだ!!」
「ぽん!」
空に浮かんだ手は「パー」。私は「グー」を掲げていた。
「なっ……ば、馬鹿な!? 私の解析ではたしかにちょきのはず……!?」
「ふぃーばー」
「ふぃーばー!? また新しいパターン!?
くそ! このパターンさえ知っていれば……勝てっ……!」
すべてを言い切る前に体が膨れ上がって爆発した。
痛みを感じる時間もなかった。
「ここは……?」
目を開けると、そこは暗い空間に浮かんでいた。
周りには私と同じように浮いている人がいる。
あいこを出して爆発した人もいる。
「私は死んだはずではないのか……?」
すると、空に浮かんでいたあの手が何もない空間から突然現れた。
「
「わかる……言葉がわかるぞ!?」
「
「……!」
「
「それじゃ復活のチャンスが……!?」
手はそれだけ言うとしゃべらなくなり、いつものポジションに戻る。
ふたたび生き残りを賭けた戦いがはじまる。
しかし私はもう負けない。
やっぴーの規則性に気づき、
ずこーのランダム性を解析し、
ふぃーばーの可能性すらも理解した私に敵はない。
どんな勝負であっても、絶対に負けない。
「さあ、かかってこい!!」
巨大な手が動き出す。
「 あっち、むいて…… 」
私はなにも動けなくなった。
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