インターネットの救いと黄泉

読みやすい文章と飾り気のない言葉で、主人公のケンと幸輔の心情が表現されていて惹きこまれるように読みました。少し切ない感じの終幕ですが、「インターネット」という「太い血管」で繋がる幸輔とケンの関係は、生者と死者の垣根を越えて余りある可能性を感じました。これまでの場面が継ぎ接ぎの様に組み合わさったケンの夢のシーンがとても好きだし、終章の二段落がとても心に残りました。インターネットというものは稀薄で実態がなく、幽かな世界に見えてそうじゃない。身体を無視して人の心にじかに接続し、人はそこで生きることも殺されることもできる。
メールから伝わる幸輔の人間味と、シニカルで自暴自棄なケンの生き方が交錯していくことに快さを覚えました。ケンは幸輔がいて、幸輔はケンがいて初めて生きることが出来る、そのかたちが「Vtuber」というものに結晶しているのかなと思います。すれちがいながらも、不器用につながる心のありかたが繊細で美しいです。これからもふたりがふたりのまま、共に生きていけることを願います。