終章

   ○


 かくして、幸輔は人面犬ならぬ犬面人、というか人の身体に犬の頭がくっついた姿になった。3Dモデルが完成したのだ。犬耳の男にするかいっそのこと犬にするかで悩み、なぜかそのあいだをとった。

 デザインの全面変更でクリエイターには迷惑をかけたが、修正費用に一万払ってなんとか手を打ってもらった。納品されたころには梅雨も明け、ベランダの向こうでは蝉が鳴いていた。夏だ。暑いので最近は窓も開ける。隣人が犬を飼いはじめ、風と鳴き声が流れ込む。

 そして今、おれと幸輔はVTuberをやっている。と言っても、いっしょにゲームやUFOキャッチャーで遊んだ動画を記録として残しているだけだ。幸輔の動きに合わせておれが声を入れる。生活を便利にする情報も、芸能人のスキャンダルもない。ただ、吸って吐く。息をしている。

 伸びない再生数を気にしたことはない。最初は緊張で棒読みちゃんみたいだったおれの声も、べつに誰も見ていないとわかってからはうまくしゃべれるようになった。言葉の通じない国に行ったらこんな気持ちになるだろうか。いつか二人で遠くの国に行ってみたい。幸輔がこちら側に来たいと望むとき、頼れる技術があるといい。

 ときどき、外国の言葉で動画にコメントがつく。幸輔のジェスチャーは洋画の観すぎでアメリカナイズされていて、動きだけでも言いたいことがだいたいわかるから、そういうところがウケているのかもしれない。実際は知らない。なんて書いてあるか調べてないから、誹謗中傷だったらいやだなと思う。


 インターネットは血が通っている。毛細血管のような網が張り巡らされていて、簡単に切れるけどちゃんと血が出る。傷ができればかさぶたも作るし、火をつければたぶん死ぬ。ときどき死んでいる。太い血管で心臓とつながっているから、たくさん刺されると止まってしまう。


 だからおれたちは、もし登録者が増えすぎたり炎上したりしてしんどくなるようなことがあったら、すぐにアカウントを消してしまおうと約束した。転生だ。先輩ならチュートリアルの長いリセマラとでも呼ぶのだろうか。誰も知らないところで、誰にも知られていない姿で、おれたちはまた生まれなおす。でもおれだけは、幸輔がどんな姿になったってちゃんと見つけられる。

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インターネット・ボトルシップの幽霊 染よだか @mizu432

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