2
3人目。
一体誰のことなのだろうか。というより1人目と2人目は誰だ。片方は俺か?
考え事をしながらの朝はあまり心地良いものではない。思考の奥底でわからない靄がこちらを嘲笑っているようだ。
(…気分悪ぃ)
腕を伸ばしながら、目を開ける。長袖の奥から覗いた二本の刻印。ただの線にしか見えないが、昔、あの人に教えてもらった数字によく似ている。
(2本だから、2を意味する数字…なんだっけか)
奴らから刻まれたこの傷は、ある意味"枷"と呼ぶのだろう。
あの人は今どこにいるのだろうか、ふとそんなことを思った。顔もあまり覚えていないが、どこか寂しげに揺らすその瞳が綺麗だと思ったことは覚えている。
そんな感傷に浸っている場合でもなく。その時は突然現れた。もう夕方に差し掛かる頃だっただろうか。
少し遠くの扉が開く鈍い金属音が響いた。
「…入れ。」
手錠をつけられているのだろうか、微かに鎖の擦れる音がする。
奴らは隣の部屋の鍵を開け、閉じ、またどこかへ去って行った。
新しい誰かがそこにいるのは感じる。自分のものではない呼吸音に心が落ち着かない。話してみたかった。だが、俺にはそんな見ず知らずの人に警戒心を持たれず話をする技術なんて、到底持ち合わせてはいなかった。隣人は少しした後、部屋を観察でもしているのか歩き回っているようだった。
どれくらい時間が過ぎただろうか。少しだったかもしれないし、とても長い時間だったかもしれない。
突然、俺の視界の中で壁が消えた。否、壁の一部が外れた。そのぽっかりと空いた空間から、顔が出現した。
「あ、えとこんにちは…?」
目があった。弱々しい声で「いや、外れるなんて思ってなくて…!」と何か言っている、が、そんなことよりも隣の人と顔合わせができている方が驚きだ。というか待て、こんな簡単に壁が外れて良いものか。その手枷もかけられた細すぎるその腕でどうやってこの壁を外したんだ。
「あ、あの俺、
こんな状況で自己紹介なんて始めないでくれ、あぁもう、
「…俺は
「…そか」
妙な沈黙が流れる。気まずい。相手もきっと話すのが上手い方ではないのだろう。何を話して良いのか、お互いわからないままじっとしていた。
ふいに、廊下の方でかちゃ、と錠の開く音がした。
とりあえずこのままじゃまずい、と思った俺たちは、抜けた壁を必死に埋め戻した。
ひたひたと歩く音が近づいてくる。固い音のする奴らの足音ではない。
そっと扉が開く。
「声を上げるなよ?バレたら困る。」
低くなりきっていない、まだ幼い男のその声は、昨夜聞いた優しい声と同じだった。隣で「え、包帯…?」と困惑した声を小さく漏らしたが、それを軽く流して彼は言葉を続けた。
「僕は
「君達がここに収容されているのは、僕も含め政府に危険認定されているからだ。今のところ僕ら3人だが、この調子だと普通に増えそうだよな…危険視されている理由はそれぞれだろうが、多分気づいている通り、ここの政府奴らは何かがおかしい。そこで、だ。ここから逃げ出そう、というのが本題だ。ただ、普通に逃げ出すだけじゃない。奴らの製造しているコア、それを壊さなければ都市からは出られない。」
ここまで一息に言葉を紡ぎ終わると、彼は息を継いだ。
情報量が、多い。
「ここの人数は4、5人があいつらにとっても限界だろう。ただ、あいつらも危険な奴らは手の届くところに置きたいだろうから、あと1人は必ず増える。そしたら行動を起こしたい。君達2人にその覚悟があるかを問いに来た。君は来て3日程度しか経っていないだろうから実感はあまりないだろうが。時は待ってはくれない、数日考えておいてくれ。また聞きにこよう。」
彼は外を伺うように目先を扉へやった。
「…僕は、透視の異能を持っているんだ。だから、まぁ…、そうだな。こうなるのは必然だったんだろう。」
最後の方は、消えるかのような、自分に言い聞かせているような、そんな風だった。
彼はそっと音を立てず立ち上がると、また、もと来た方へと去っていった。冷たい、嵐のような人だった。ただ、何かに焦っているような、そんな雰囲気を感じた。
(…逃げ出す、か。)
あの炎が脳裏に浮かぶ。あぁ、忌々しい、あの炎を。
それ以上、何も考えたくなかった。そして俺は、隣で何か俺に問いかけている白野透を無視し、無理矢理意識を彼方へ飛ばした。
…そうでもしなければ、気が狂いそうだった。
なぁ、そうだろう、?
早く、僕を、探しに来て。
E-Scape Kier @Rei-Kn
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