E-Scape
Kier
1
「…痛ってぇ、、」
昨日殴られたところが酷く痛む。冷たい床は夜の間にも、俺の熱をじわじわと奪っていた。冷えた指先は空を掴もうとして空を切った。何も見えないその窓は、俺の人生を表しているようだった。
数年前、孤児院で ―― が暴走を起こしたあの夜、1人逃げ出したところを政府に見つかった。何度も追ってくる男たちを殴り倒しながら走って、逃げて、逃げて、逃げたところで捕まった。俺が強かったのか、当たりどころが悪かったのか。複数人に重傷を負わせてしまったらしく、俺は今ここにいる。
“scapegoat”
何故かそう呼ばれているこの監獄の島は、重罪の人を多く閉じ込めているという。ただ、人が他にいる気配もほとんどなく、俺がここに来てから一ヶ月、職員以外の人を見たことが無く、少なくとももう1人は確実にいるらしい、くらいの情報しか知らなかった。この白い鉄格子の中で、起きて、三食食べて、たまに運動して、寝る。といった機械的な生活をしていれば、何も咎められることも無かった。
(…政府の奴らも変わり者だな。)
俺は奴らをその程度にしか思っていなかった。
…その夜、1人の"人"を見た。
新しく入ったのではないのだろう。ただ、妙に馴染んだ囚人服は、彼をこの世のものではないような気にさせた。
彼は、両目に包帯を巻いているにもかかわらず、迷うこともなく、ふらつくこともなく歩いていた。
不意に彼と目があった。いや、正確に言えば目と目があったわけではないのだが。
少しずつ彼がこちらに近づいてくる。
彼は、俺の部屋の前に来て言った。
「明日、3人目が来る。」
そう一言告げ、彼は闇の中に去っていった。この監獄には似合わない、綺麗な、優しい声だった。
「3人目……?」
俺にはわからないことが多すぎた。正直今の
混濁を脳の隅に置き、俺は意識を手放した。
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