第5話 暴走少女

 鹿児島で発生した魔法少女。

 プロフィールを見るが、どこにでも居そうな感じだ。

 両親と二歳違いの姉。

 魔法少女が生まれた家族は大抵、政府によって、保護される。

 そうしなければ、世間が彼らを許さないからだ。

 絶望は悪魔の好物だと言うのに、人間社会はそれを学ばない。

 だから、魔法少女は次々と生まれる。

 くだらないと美咲は思いながら、空港へと向かった。

 空港にはすでに自衛隊によって特別機が用意されていた。

 「ファーストクラスなのに機内サービスが無いなんて」

 美咲は文句を漏らせながら、用意されたジュースを飲む。


 約1時間のフライトで鹿児島空港に到着した。

 「思ったより掛かったわね」

 美咲は背伸びをしながらタラップを降りる。そこには高級セダン車が用意されている。運転手が後部座席の扉を開き、美咲が乗り込むのを待っている。

 美咲が乗り込むと扉は閉められ、走り出す。

 「場所はここから車で1時間だ」

 助手席に乗り込んだ美咲の担当官はスマホを片手に説明をする。美咲は後部座席の真ん中にどっしり乗り、すでに変身を終えていた。

 魔法少女は変身すると独特の衣装に着替えている。これに関して、未だに科学的研究による答えは出ていないが、衣装の素材としては魔法によって構成されており、ある程度の攻撃に対して、防御力が発生している。因みに当初は着ている服が変化したのかと思われたが、裸の状態からも発生する為、否定された。

 「さて・・・相手の状況は?」

 美咲の言葉に担当官はスマホを見ながら答える。

 「現在、発生源とされる学校で立て籠もり中。校内に取り残された者は生死不明だけど、彼女の級友と担任の教師のみとなっているわ」

 「そりゃ・・・死んでるわね。死んでなければ、殺して欲しい状態で生かされているかよ」

 美咲は半笑いで答える。

 「そうね。だけど、生死不明だから。基本的には助けて」

 「面倒。まずは長距離魔砲攻撃で教室ごと破壊」

 「世論がねぇ・・・」

 「こっちだって命掛けなのよ?」

 「ベテランの意地ってもんないの?」

 「貴重な魔法少女戦力に向かって、温存するって言葉知らないの?」

 「はいはい。だけど、いきなり破壊はやめて」

 「じゃあ・・・説得?」

 「そうね。なるべく、まずは平穏な解決を望んで欲しいわ」

 「了解」

 車は高速道路を降りて、田舎道へと入った。


 学校の敷地から避難をするバスの車列が出て行く。

 運動場には警察車両や消防車両が多く駐車されている。

 ジュラルミンの盾を持った警察官達は困惑した様子で破壊された校舎を眺める。

 相手が魔法少女となれば、警察官にも多数の死傷者が出てしまう。

 危険極まりない存在だとその場に居る誰もが理解していた。

 緊張感だけが漂っている。

 そこに一台の車が到着した。

 中から派手な格好をした少女が降りて来る。

 周囲がザワつく。殆どの人間は魔法少女を目の当たりにした事は無い。

 美咲はそんな奇異な視線に対して、睨みつける。

 それだけで、恐怖がその場を凍り付かせる。

 「周りを怖がらせるな。撃たれるわよ」

 担当官が呆れたように言う。

 「ふん・・・人を化け物みたいに見ているからよ」

 「事実じゃない」

 「酷い言い様」

 「じゃあ、正義のヒーローにおなりなさい」

 「やれやれ」

 美咲は魔法のステッキを構える。

 「すぐに片付ける」

 そう言うと足元に魔法陣が浮かび、その体を浮かせた。

 魔法。

 物理法則を一切、無視した力。

 魔法少女が念じれば、その体を当たり前のように宙を浮かせる。そして、飛び回る事が可能となる。

 美咲は一気に目標の居る教室の窓へと向かう。

 刹那、青白い光の筋が窓から放たれる。美咲はそれをステッキ一閃で払う。

 「生まれたばかりなのに・・・攻撃方法を知ってるじゃない」

 美咲はその場に留まり、構えた。彼女のが見据えた先には教室の中から魔法を放った少女の姿があった。彼女の華やかな衣装は血に塗れ、赤黒くなっていた。

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