第4話 悪魔

 美咲は五十嵐が考えるように陰で努力する性格である。

 勤務時間が終わると、まず、トレーニングジムに通う。

 1時間の筋トレと1時間のスイミング。

 これは日課である。

 更にロードバイクに乗り、15キロ前後の距離を走る。

 これと共に週一回、元特殊部隊隊員による戦闘トレーニングを受ける。

 魔法少女になって彼女が感じた事は魔法は確かに圧倒的な力であった。

 しかし、身体強化されているとは言え、身体は人間そのものなのだ。

 銃で撃たれれば、死ぬ。ケガもすれば、病気にもなる。

 魔法も同じだ。魔法は色々な作用を持つ。だが、悪魔はその使い方を教える事は無い。大抵の魔法少女は何も知らないまま、手当り次第に使ってるに過ぎない。

 美咲は日々、魔法についても研究をしている。

 何が出来て、何が出来ないのか。

 ただし、この事は自分だけの秘密にしている。

 魔法について、政府などに知られれば、自分の弱点にもなるからだ。

 悪魔についても考察をしている。

 悪魔テンペストは契約の時以来、姿を現さない。多分、彼が望むように力が使われているわけじゃないのに契約を解除にも来ない。

 それが何らかのルールに基づいた事なのか。美咲はずっと考えていた。

 魔法で悪魔を呼び出す事が出来るのかと色々と試行錯誤もしたが、失敗している。

 都内にある高級マンションの一室で彼女は悶々と考えていた。

 世界では今も魔法少女が生まれ続け、災厄と呼ばれる被害を出している。

 美咲のような存在は世界的に見ても珍しい。

 諸外国においても魔法少女と交渉をしようとする試みは行われているが、すでに自我を失う程に暴走した魔法少女とまともに交渉など出来ないのが当たり前だった。

 多くの被害を出しつつ、魔法少女が駆逐されていく。

 今では魔法少女を生み出さぬようにイジメなどが厳しく罰せられるのが当たり前となりつつあった。

 だが、悲しいかな、それはあまり上手くいっていない。

 

 悪魔テンペスト

 世界に魔法少女を生み出す悪魔がこの一体なのかどうか。それは誰にも解らない。

 美咲の存在によって、魔法少女が悪魔と契約して産み出されるという仕組みが解ったぐらいで、世界は未だに魔法少女に関する研究は進んでいない。

 そもそも悪魔と呼ばれる存在は何なのか。

 自らを悪魔と称する存在。

 自称するなら、神でも良いのに、何故、デメリットの大きい悪魔なのか。

 誰にも解らない。だが、魔法少女になる少女はその謎の存在にその身を任せてしまう。あまりに破滅的な選択なのにも関わらず、迷わず、それを選ぶ事に誰も答えは出せなかった。

 それは実際にその選択をした美咲も同じだった。

 絶望的な状況に破滅的な選択は甘美にも思える。

 それも違うと美咲は思ったが、今にしてみれば、どうして魔法少女になったのかも覚えてはいなかった。

 悪魔について調べる為、美咲は様々な検査に協力した。

 だが、力の原因についてはまったく不明であった。

 唯一、解っている事は魔法を発動する際に脳波に特定のパターンが発生する事であった。この事から、脳に大きな変化があるのではと思われるが、究明には至らない。死体でも残っていれば、解剖で何かしらの成果が得られるのではと思われるが、魔法少女は死ぬと体は塵となり、消え去る。故に死体を手に入れたケースはまだ、報告をされていない。


 唯一の人間側の魔法少女である美咲は研究材料でもあった。

 無論、美咲を怒らす事は危険極まり無い為、あまり無理は強いられない。

 それでも政府、研究者達は美咲を支援する事を前提に協力を得ている。

 彼女のバイタルなどは常にモニターされ、尚且つ、週に二回、精密検査を受けている。

 しかしながら、彼女の身体はどう調べても健康体であるとしか無かった。

 魔法による肉体変化などは無かった。

 精密検査を終えて、美咲は退屈そうに休憩をしている。

 欠伸をする美咲の元に主治医である正木がやって来た。

 「美咲さん、御苦労様です。今日の検査結果です」

 「いいわよ。どうせ、健康ですってだけでしょ?それにしても魔法少女の何かは見つけられないの?」

 「いや・・・そっちは僕の領分じゃないからね。チームは色々と模索しているみたいだけど・・・」

 「まぁ、理解不能な力って奴だからね。この悪魔の力は」

 美咲は左手の上に光の球を浮かばせる。

 「ははは。その小さな光の球だけでも人間が塵と化すぐらいの力があるんだよねぇ」

 「そうよ・・・最初は粒子だとか何とか言われたけど、測定不能だからねぇ」

 美咲は光を握り潰す。

 「まぁ・・・悪魔が何を考えているのか知らないけど・・・力が使える内は私は世界の為に戦うだけ、だけど、それは私がこの世界を手に入れる為だからね」

 「ははは。今の君に敵う者は居ないよ。多分、世界が最も敵に回したくない魔法少女だからね」

 「化け物みたいに・・・化け物か」

 美咲は軽く笑ってから、立ち上がった。

 「今日はこれで終わりでしょ?帰るわ」

 美咲が帰ろうとした時、スマホに着信が入る。

 「何か用?」

 美咲がスマホに出ると、男の声で返事があった。

 「新しい魔法少女だ。今度は鹿児島だ」

 「遠いわね」

 「車をそちらに回した。空港から飛行機で向かって貰う」

 「わかったわ。それで被害は?」

 「授業中のクラスが吹き飛んだ。グチャグチャで死体の確認が終わってない」

 「そいつは・・・で、魔法少女は?」

 「現在、鹿児島県警と自衛隊が捜索している」

 「魔法少女の正体は判明しているの?」

 「クラス全員が死んでいるから推測になるが、聞き込みで苛められていた少女が居たらしい。名前は大島美奈。13歳。プロフィールデータは送った」

 「解ったわ」

 美咲がスマホを閉じる頃にはサイレンの音が聞こえて来た。

 

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魔法少女を狩る 三八式物書機 @Mpochi

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