第2話 正義の魔法少女

 「間もなく、目的地上空。降下準備」

 オスプレイの機長は機内に対して、そう告げる。

 「アルファ1は降下準備を終えた。いつでもいける」

 機内作業員はそう返信した。

 「了解。ハッチを開く」

 オスプレイ後方のハッチが徐々に開いて行く。

 風鳴りが酷い。山々が見える。

 そして、機内には不釣り合いなセーラー服姿の少女が立っていた。

 長いポニーテールが風に煽られて、靡く。

 そして、彼女は笑った。

 「変身」

 そう彼女が一言、告げた時、彼女の身体は深紅の光に包まれる。

 魔法少女フェアリー

 彼女は魔法少女だった。世界が怯える存在の。

 光が消えた時には彼女の体には深紅のドレスに包まれていた。

 手には金色に輝く杖。ポニーテールはそのままだが、髪の色は黒から銀へと変わっていた。

 彼女の傍に居た作業員は彼女に声を掛ける。

 「フェアリー。頼むぜ。あんただけが頼りだ」

 そう言われた魔法少女は笑みを浮かべる。

 「任せなさい。悪い魔法少女は私が全て狩ってあげるから」

 そう言うと彼女は開いたハッチから飛び降りた。

 

 殺戮に次ぐ殺戮。

 笑いながら人間を肉塊に変えるアリシアはまるで戯れるようだった。

 警察官達はありったけの銃弾を撃ち込んでいるが、効果など無かった。

 銃弾は全て、魔法により、弾かれた。

 まともに人間の手に負える相手ではない。

 その場で戦い続ける警察官達は誰もが思った。逃げ出した者も居たが、残された者は誰も諦めずに戦い続けた。

 署長もすでに手にした拳銃の弾丸は無く。その場にあったスコップを手にしていた。

 「もう・・・ダメか。せめて、自衛隊が到着するまでは耐えたかったが」

 署長はスコップを構えて、魔法少女に飛び込む覚悟を決めた。そして、立ち上がる。

 30メートル前には死体を踏みつける魔法少女の姿があった。

 「あら・・・銃はもう無いのかしら?そんなスコップでどうにかなるの?」

 アリシアはスコップを構える署長を見て、笑う。そして、署長に向けて杖を振るおうとした。

 刹那、頭上から深紅の光が彼女を襲う。

 「くっ・・・なにっ?」

 その光をアリシアは防ぐ。深紅の光とピンクの光が鬩ぎ合う。

 混ざり合った光が霧散する。

 署長は美しく散る光を眺めるだけしかなかった。

 「意外とやるじゃない」

 深紅の光の翼を背に持ち、空から舞い降りたのは新たな魔法少女であった。

 彼女は金色の杖を振るい、アリシアを叩き飛ばした。

 軽々と飛ばされ、転がったアリシアは血と泥に塗れ、痛みに顔を歪ませる。

 「私の名はフェアリー。この世界を守る魔法少女よ」

 深紅のドレスを着た魔法少女は高らかと告げた。

 倒れたままのアリシアは恨めしそうにフェアリーを見上げる。

 「何が・・・この世界を守る魔法少女よ・・・悪魔と契約した奴が・・・そんな事をほざいているんじゃないよ。あんた・・・何なのよ?」

 彼女は痛みを堪えながら立ち上がる。

 「出来立てホヤホヤの魔法少女にしては根性があるわね。教えてあげるわ。私は悪魔との契約を無視して、この世界を守る事にしたの。それだけよ」

 「ふざけるな・・・そんな事が許されるはずがない。悪魔との契約は絶対・・・悪魔はこの世界を滅ぼすために魔法少女を作っているのよ。あんたが契約した悪魔だってそうでしょ?」

 「そうね。最初はそうだったわ。だけど・・・悪魔の言う通りにするのも癪だと思ったのよ。世界を滅ぼしたって、私には何一つ良い事は無いしね」

 「あ、あんた・・・頭がおかしい・・・それに何で・・・生きているのよ。契約を破れば・・・消滅するだけでしょ?」

 「それね・・・私の中に居る悪魔を叩きのめして、言う事を聞かせたわ。どうせ、実体の無い連中だから、私の気力の問題なんだから」

 「ふざけるな・・・ふざけるな・・・お前も含めて、世界を滅ぼしてやる。こんな、糞みたいな世界・・・滅ぼしてやるんだよ!」

 立ち上がったアリシアは叫ぶ。

 「あんた、名前は何なのよ。魔法少女なら悪魔に貰った名前があるんでしょ?別れの前に聞いてあげるわ」

 「舐めてるわね。私はアリシア。あんたには負けない」

 「良い根性してるわね。イジメで絶望でもした口かしら?その根性をイジメられている時に出せば、悪魔と契約する事も無かったんじゃない?」

 フェアリーに言われて、狼狽えるアリシア。

 「あ、あんただって、絶望したんでしょ?この世界に・・・」

 「そうよ。私は絶望した。そして、世界を呪った。だから・・・世界を支配する事にした。だから、勝手に破壊されちゃ・・・困るのよ」

 フェアリーは笑いながら深紅に輝き出す。

 「ざけるなぁああああ!」

 アリシアは杖を振るう。ピンク色の光が濁流となり、フェアリーを襲う。

 だが、深紅の光がそれを弾き飛ばす。

 「経験値が違うのよ。あんたとは・・・」

 ピンクの光を弾き飛ばしたと同時に深紅の光が一瞬にしてアリシアを包み込む。

 アリシアを包む光は彼女の体を蝕む。

 アリシアの身体は拘束され、息は出来ず、全身を激痛が走る。

 「こ、殺される」

 アリシアが最後に発した言葉だった。

 深紅の光が消えた時、アリシアの身体はすでに無かった。

 それを見たフェアリーは満足そうにする。

 「まぁ・・・こんなもんよね。じゃあ、私は帰るから」

 フェアリーは再び、背中に深紅の光で出来た翼を生やし、空へと浮かび上がる。

 その光景を署長はただ、見上げているしか無かった。

 この日、100人を超える死傷者で済んだのは奇跡に近かった。

 そして、魔法少女フェアリーに関する事は関係者全員に箝口令が敷かれた。

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