第6話 はじめての食事

「水しか出せないけど、我慢してくれ」

私はそのまま奥の居間に案内された。ギロは私をソファーに座るようにいうと、湯のみに水を注いでくれた。

「ええ、ありがとう。」

私は水を飲みながら、少し考えていた。

もしギロの話が本当だとするならば、明葉や母さんはおそらく必死に私を探してはくれるだろう。

しかし、この状況を話そうとすれば途中で切断されてしまう。

どうしたものか。

「今戻った。」

居間に先ほど私を案内してくれた男が来た。

「親父、他にも人はいたか?」

男は首を振った。

「いや……車があるにはあったが、ぺしゃんこになっていたよ。」

「ぺしゃんこ?それまた不思議だな。事故か。」

「ああ、たぶん?でも、血は流れてなかったんだ。車のパーツはところどころに飛び散っていたんだが……。」

「とりあえず今回はイチカさんだけか。」

2人が会話するのを眺めていた。

「ひとまずこのお嬢さんーーイチカさんだっけか、1階の奥にある部屋にしてもらうか。」

「ああ。イチカさん、まだ状況飲み込めないと思うけどこの家のものは好きに使ってくれていいから。」

「でも、ここは誰か他所の人の家ではないのかしら?2人には思い当たることがある?」

「それなら大丈夫、ここは俺と親父の家だよ。」

「?」

「俺たちは他のみんなとは違ってね。この村の人間なんだ。」

「そう……。」

「他にも人がいるから挨拶したほうがいい。あとで村の中を案内してあげるよ。」

私は頷いた。

今は慌てても仕方ない。

一旦落ち着かなければと思う。

「あ、そうだ。お腹空いてない?お昼過ぎてるからちょっとした残り物しかなーー。」

「食べる!」

私は勢いよく返事した。反射的に返事をしてしまったのだ。

「そ、そう?俺も食べそこねたからさ。ちょうどいい。」

食べ損ねた?

ってことはこの人と一緒に食事することになる?

それはまずい。

でも、さっき弁当食べたし、さすがに大丈夫なはず。

レースをかかった棚から大きな鍋を取り出すと、中に入ったかぼちゃの煮しめを2人分取り分けた。

「これ。どうぞ。」

「ええ、ありがとう。」

「おかわりもたくさんあるから。」

ギロが食べ始めた瞬間、私も一口食べる。

味が染みていて冷めていても美味しい。

何て素晴らしい味。

醤油とかぼちゃはよく合う組み合わせ、本当に無限に食べられる。

私は5秒で食べきると、次を盛る。

「イチカさん?」

ギロがこちらを見ているが気にせず食べ進める。

次のおかわりと、その次と食べ進める。

気がつくと鍋底が見えていた。

「……。」

改めてギロのほうを向くと皿半分で固まってる。

「食べないんですか?それ、なら食べてもいいです?」

「いや、俺のだから自分で食べる。」

ギロは顔をしかめながら自分の分を食べきる。

私はここでようやくハッとした。

結局昼から反省してない。

人の分まで弁当を奪って食べたときと一緒だ。

「すみません……。」

「お腹空いてた?」

「多少は……。」

言えない、さすがに昼に15人前くらいは食い尽くしてましたなんて……。

「親父の畑のかぼちゃ、美味しいとは思うからさ。」

ギロは呆れたような顔をしたが、今の私にはどうしようもなかった。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪食の彼女。五里霧中 日奈久 @aishifrom

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ