第16話 きっと

 天音さんのお葬式は、それから一週間後に執り行われた。葬送曲として選ばれたのは、cosmoの『ミルキーウェイ』だった。


 そして、葬式が終わったあと、沙雪さんから白い封筒を手渡された。


「天音が部屋に置いていたものです。読んでやってください」


 その封筒の表面には『星野先生へ』と細い字で書かれていた。


『この手紙は、家を出る前に書いています。勝手なことしてごめんなさい。先生は、ずっと私のために徹夜もして病気のこと調べてくれてたんですよね? 本当に嬉しかったです。これは私のわがままだけど、このまま死ぬのを待つのは嫌でした。結局死んじゃうんだけど、それでも私は星を見たかったんです。本当にごめんなさい。私は、先生に会えて嬉しかったです。お元気で。三島天音』


「天音さん……っ」


 僕は思わず手紙を握った。天音さんの細い文字は所々震えている。


 怖かったんだ。きっと。何もかもが。投げやりになったんじゃないかと思ってたけど、そういうわけでもなかったみたいだ。けど……やっぱり……


「っ……」


 強く握りすぎてシワが付いた便箋に水滴が垂れる。文字が滲んでいく。


 僕はしばらくそのまま立ち尽くしていた。



 ―――――――――――――――――――



「先生」


 不意に声をかけられ振り返ると、黒髪ロングの女の子が立っていた。


「……月歌さん。驚いた、去年と印象違かったから一瞬わからなかったよ」


 僕は笑って女の子――月歌さんに歩み寄った。


 去年会ったときは髪も今より短くて、ポニーテールにしていた。けど、今は腰辺りまで髪が伸びていて、結んだりしていない。


「先生も、メガネ、コンタクトにしてるじゃないですか」


 月歌さんは笑って言った。大学一年生になった月歌さんはすっかり大人っぽくなっていて、笑い方も上品になっていた。去年は受験でピリピリしていたから、余計そう感じる。


 確かに、僕も最近、コンタクトを始めたばかりだ。


「大きい病院に転勤してね。手術もするようになったから、メガネだとちょっと邪魔で」


「確かに邪魔そう」


 笑った月歌さんはおもむろに空を見上げた。


「……天音、いますかね?」


「いるよ。きっと」


 僕は微笑んで空を見た。いくつもの流星が空を流れては消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星降る夜に、二人は秘め事。 瑠奈 @ruma0621

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説