第15話 別れ

 目の前に病気の人がいるのに、助けられないなんて……っ


「天音!!」


 と、甲高い声が響いた。驚いて振り返ると、月歌さんが走ってくるところだった。


「天音……ごめん……! ごめんね……!」


 僕は、天音さんの前に膝をついて泣き崩れる月歌さんに目を丸くした。


「月歌……」


「ごめん……! 全部私が悪いの……!」


「そんなこと……私が……悪いんだよ……」


 天音さんの細めた目に涙が浮かんできた。


「私、っ、親友だって、言ったのに、天音の辛さ全然わかってなかった! 天音は、私のこと心配してくれてたんだよね? それなのに、私は……!」


「月歌、違う……私がちゃんと……言えてたら良かったの……先に手が出ちゃって……ほんとに……ごめん……」


「天音……!」


 月歌さんは天音さんに抱きついて激しく泣き出した。


「相談してよ……っ! 私、今日、天音の家行くつもりだったんだよ! もうちょっと待ってくれてればよかったのに……! バカっ……!!」


「……ごめんね……」


 天音さんもポロポロと涙を流している。僕は少し離れて見守っていた。ここは、二人にしておくべきだから。


 もう天音さんの首は完全に痣で覆われ、覆われていないのは目の周りだけになっていた。


「……綺麗だなぁ……」


 ふと、天音さんが呟く。


「え?」


 月歌さんが顔を上げた。


「……去年もさ……月歌とここで流星群……見たよね……今日で最後になっちゃうけど……見れてよかったね……」


「うん……うん……!」


 月歌さんは泣きながらも少しだけ微笑みを浮かべた。


「先生……月歌……ありがとう……」


 天音さんがそっと微笑んだ。閉じた目からスッと一筋の涙が流れ、痣が完全に天音さんを覆った。


「……天音? 天音!」


「天音さん!!」


「やだ! 天音! お願い天音! 起きてよ……!!」


 月歌さんの悲痛な声が、流星群が降る夜空に虚しく響いた。


「…………月歌さん」


 顔を上げた僕は、あることに気づいて月歌さんに声をかけた。天音さんを抱きしめて泣いていた月歌さんが顔を上げる。


 天音さんが光っていた。痣の光じゃなくて、太陽のような暖かい光が天音さんから放たれていた。そして光の粒子のようなものがふわふわと浮かび始めた。


「天音……」


 天音さんが一際強く輝いたかと思うと――光の粒子が一気に生まれた。そしてその粒子は空に登っていく。その場には、痣が消え、安らかな寝顔を浮かべる天音さんが残された。


「……よかった……」


 月歌さんがそっと呟いた。僕も頷く。


 ふと――空が明るくなった。見上げてみると、さっきよりも二倍はある流星群が流れていた。


「わぁ……!」


「そっか……天音さんは――」


 星になったんだ――


 僕と月歌さんは空を流れる流星群をずっと眺めていた。

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