第14話 進行
家に帰った僕はベッドに寝転がっていた。部屋を出るときに見た、天音さんの暗い顔ばかりが脳裏に浮かぶ。
「やっぱ、伝えないほうが良かったじゃないか……」
思わずぼやいてしまう。
……だめだ。最近張り詰めてたから、疲れが……僕はいつの間にか寝ていた。
ふと、けたたましい電話の着信音がなった。思わず勢いよく起き上がる。枕元に置いていたスマホを見ると、沙雪さんからの電話だった。
「……? もしも――」
『先生! 天音が、天音が……!!』
僕が言い終わらないうちに、沙雪さんの泣きそうな声が聞こえてきた。
「沙雪さん? え、どうし――」
『天音がいなくなったんです!!』
「え?」
僕は耳を疑った。
――天音さんが、いなくなった? ってことは……
「沙雪さん! 天音さんが行きそうな場所、どこかわかりますか!?」
僕はスマホを耳に当てたまま、靴を履くのももどかしく外に飛び出した。
(何してるんだよ、天音さん……!!)
「天音! 返事してくれ!!」
――また、失うのか。僕は。どうして。どうして……っ!
「天音っ!!」
僕は、沙雪さんから教えてもらった丘に来ていた。ここは天音さんのお気に入りで、星を見るときはいつもここに来ていたらしい。
「……っ!!」
――いた。一本だけ立っていた楓の木の下に。木の幹に寄りかかって座り込んでいる。
「天音! ――!」
駆け寄った僕は絶句した。天音さんの露出している腕や足はほとんど痣で覆われてしまっている。顔や首も三分の二ほどに痣が浮かんでいた。
「あ……先、生……?」
目を閉じていた天音さんはぼんやりと僕を見た。
――そうだ。確か、論文に載っていた。この流星病が一番進行する光は、星の光だと。見上げると、青い楓の葉の隙間から流れ落ちる流星が見えた。
「なんで……天音さん……!」
「……わかんないけど……体が勝手に外に出てて……ペルセウス座流星群が見られるのは、今年で最後って思ったから、かな……」
「……っ」
歯噛みした僕は来ていた薄いパーカーを脱ぎ、天音さんにかけようとした。けど、天音さんがそんな僕の手に自分の手を重ねた。そして首をゆっくり振る。
「……もういいよ……」
「…………」
僕は息を呑んだ。そして、パーカーをつかんだ手をそっと下ろす。確かにそうだ。ここまで病気が進行しているなら、今影に行ったところで保たないだろう。長くて一週間……ってところか……
自分の愚かさに腹が立って、僕はパーカーを握る手に力を込めた。
――あの時、帰らなければ。まだ天音さんの家にいたら。こんな事にならなかったのに――
「先生……私ね……嬉しかったよ……」
小さな声に顔を上げると、天音さんが微笑んで僕を見ていた。
「お医者さんは……みんなすぐに諦めたのに……先生は諦めないで探して……くれたから……」
「当たり前じゃないか……僕は医者だから……」
「うん……でも……嬉しかった」
話している間にも、天音さんの顔にはじわじわと痣が広がっていた。
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