第13話 真実

 その日は、ペルセウス座流星群が一番良く見える日だった。けれど、僕は空なんか見上げる余裕はなかった。天音さんにこれから酷なことを伝えなきゃ行かないと思うと何にも身が入らなかった。今日が非番でよかった。きっと診察なんてしたらミスばかりしただろうな。


 天音さんの家に向かう足取りも重かった。いつもなら十分くらいで着く距離なのに、二十分もかかってしまった。


「――天音さん。いいかな?」


 天音さんの部屋のドアをノックして声をかける。いつもなら即答なのに、今日は返事が返ってくるまでに少しの間があった。


「…………どうぞ」


 いつもより少し無機質な声。僕は気を引き締め直してドアを開けた。


 ドアを閉めると、いつも通り天音さんが箱の中から出てきて、部屋が一気に明るくなる。もう天音さんの痣は、電気がなくてもお互いの顔がはっきり見えるほどに光っていた。それに照らされた天音さんの顔は、やはり痩せていた。


「――天音さん。今日は、本当のことを話に来たんだ」


 天音さんは無表情の中で片眉をぴくりと動かした。


「……ほんとに話してくれるの?」


 その言葉には、怪しんでいるような色が滲んでいた。


「ああ。ちゃんと話す」


 すると、やっと天音さんの表情が柔らかくなった。


「良かったぁ……実は、もう先生が来ないんじゃないかって心配してたんだ。ひどいこと言っちゃったし……ごめんなさい」


 天音さんがちょこんと頭を下げる。


「謝らないでよ。僕だって焦らしたわけだし……」


 僕は慌てて両手を振った。


「……じゃあ、話すよ。最終確認だけど、本当に覚悟はできてるんだね?」


 一息ついた僕はしつこいようだけど訊いた。天音さんは力強く頷いてくれた。


「……天音さんの病気は、『流星病』っていう奇病なんだ。光が当たるとそこに流星状の痣ができることからそう名付けられた。けど、日本じゃ確認されてないらしいんだ。だから誰も症状がわからなかったんだよ」


「…………」


 天音さんは静かに頷いた。けど、僕には、急かしているように見えた。


「いきなりだけど、一番重要なこと言うよ。――この病気の、治療法はない」


 天音さんがハッと息を呑む。


「もう一つあるんだ。この病気に罹った人は、十五歳の誕生日を迎える前に痣が全身に広がって亡くなっている」


 ――そう。この顔を見るのが嫌だったから。未来がないと知って、絶望する顔を見たくなかったから、話さなかった。


「……じゃあ……六月が誕生日の私は……」


 しばらくの沈黙の後、天音さんが口を開いた。その声はひどく掠れていた。


「――あと、一年もない」


 わざと突き放すように言った。嫌って、ほしかった。治療法を見つけられなかった、僕なんて。


「……そう、なんだ……」


 天音さんは息をついて床を見た。


 僕はその沈黙が耐えられなくて、部屋を出た。



「先生、天音は……」


 僕が廊下を歩いていると、リビングから沙雪さんが出てきた。


「――全部、話しました。やはりショックだったみたいで……しばらくそっとしてあげてください」


「……はい……」


 沙雪さんは涙ぐみながら頷いた。

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