第2話:おしじみさま
さて、さて、みなさま。
みなさまご存知のように、世の中にはさまざまな神がおりまして、何を拠り所にするのかというのは、国々、街々、村々で違いがあるのでございます。
私が山奥の湖沼のほとりにあります、とある村に立ち寄ったところ、どうやらその村では貝のシジミが信仰されていたのであります。
その村というのは、高い山に囲まれた場所にありまして、隣町に買い出しに行くまでに何日もかかってしまうところなのであります。
彼らは基本的に山や湖の幸を食べて暮らしているのですが、昔、ある時に突然食物が取れなくなってしまったそうです。獣も寄り付かず、木の実も生らない、野草も姿を消してしまう、魚も底に控えてしまう。村の人は途方に暮れました。
ある時、誰かが『湖や山の神がお怒りなのかもしれない』と言ったのがきっかけで、村を上げて全員で大規模な地鎮祭を行いました。
飲み水には困りませんが、食べ物もなく、飢餓寸前。やることもないので村民は三日三晩、必死に祈り続けたのです。
四日目の朝、肉体の限界に達した村人たちは引き上げようとしました。その時、湖の浜で蠢くものの存在に気づいたのです。これが貝のシジミでした。
村の人々は、シジミを食べてどうにか命を繋ぎました。
それからというもの村ではシジミを「おしじみさま」と呼んで大切に扱い、年に一度大規模な祈りを捧げているそうです。
おしじみさまを慈しむようになってから村の周りでもまた食物を取ることができるようになりました。定期的にシジミを食べるようになったことで健康を崩すものもほとんどいなくなりました。
みなさまも、ただのシジミと侮るなかれ。
次にシジミを食べる時に、この貝に体も心も丸ごと救われた村があるのだな。と思っていただけましたら、私ホラ吹き屋の冥利に尽きるというものでございます。
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