第3話:タマムシ
みなさま、本日も私のホラを聞きに集まっていただきありがとうございます。
昨日はホラを集めるために森の奥に住むお方を訪ねに行きました。そこで、何年かぶりにタマムシを見かけたのでございます。
みなさまご存知のとおりタマムシというのは非常に綺麗なムシでございまして、それこそ宝玉の輝きを持っております。
タマムシの存在が歴史に初めて登場するのは、いまから1800年ほど前のとある王朝の時代であります。
とある宗教の開祖が、時の覇王にこのムシの翅を献上いたしました。この宗教というのが、なかなかの怪奇でございまして、無垢な森の奥に漂う『魔力』というものを信望していたのであります。そして、その『魔力』を司るものの中で、最も崇高、神秘、神聖だった存在がタマムシなのです。
今では見ることは叶いませんが、この森にいたタマムシは青白く輝き、思わずかしずきたくなるような静謐さを持っていたと伝えられています。その煌めきから、多くの魔力を持っている神の遣いとして、村では「多魔神さま」「多魔虫様」と呼ばれていたのでありますです。
みなさまもうお分かりですね。
タマムシのタマは始原においては多くの魔力を持つという意味であったのでございます。ですが、時を経るうちにこのムシの存在は権力者の頭の中から立ち消え、由来も失伝して行ったのであります。
そして時代が移り行き、次々代の王朝が始まりまして、王家の御用学者が宝玉のように美しいムシを再発見いたします。そして「タマムシ」と再命名するのでありますな。
その御用学者の力は絶大でありましたから、後世まで名と由来が伝わることになりました。
さて、みなさま、もし今後タマムシを見かけることがあったのならば、神の遣いと思って軽く掌でも合わせてみてください。
太古の昔に消えて行った信仰心もそれで浮かばれるというものです。
やや、私としたことが湿っぽくなってしまいましたかな?
みなさまが安らかな時間を過ごせたのでありますならば、私ホラ吹き屋の冥利に尽きるというものであります。
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